【フリーテキスト】温度

こちらのテキストは朗読や音声表現など、非営利目的でご利用いただけるフリーテキストです。

―――――――――

『なんだか、同じ空間に一緒にいると、1つの存在になれるような、そんな気がするの』
電話越しの彼女の声は震えていて、ほんの少し泣いているのがわかった。
『気温とか景色とか、同じものを共有するとね、違う体温が、違う記憶が揃っていくような、そんな気がしない?』
本当のところ、そんなことは無いと彼女自身も分かっていた。
命も、体も1つにはならなくて、いつだって僕達はそれぞれを生きている。
「…一緒に、なれたらいいね」
なりたいね、と言うべきところだったかもしれない。
彼女からの返事はなかった。
僕達は生まれる時だけ、人と一緒に居られる。その事実を壊してしまいたかった。

いいなと思ったら応援しよう!