【中判フィルム葛藤記】僕はフィルムカメラを使えない。
冬になりました。冬を19回経験してきてやっと気付いたのですが、どうやら10月〜1月くらいまではずっと体の調子が悪い設定になっているみたいで、何も出来ないどころか、学校すら行けずに泣くか寝るかの日々を送っています。そんな中無理をして手をつけた事があります。
それが中判フィルムカメラです。
厳密に言うと一年生の頃から使ってはいたのですが、流行っている間にある程度向き合い方を確立した方がいいな、と思ったので。その考えを備忘録的にまとめることにしました、参考になれば嬉しいです。
中判フィルムライク(?)の旬が過ぎて、中判フィルムカメラそのものに手を出す写真ジャンキーの方が増えていますね。例に漏れず僕も、Rolleicordという二眼レフカメラだったり、Pentax67をここぞとばかりに用意しました。
撮影それ自体については特に言うこともありませんでした。シャッター音がデカすぎて面白い、10枚しか撮れない、モノクロフィルムを入れるとモノクロしか撮れない。鬱で感情の起伏が上振れしなくなったからでしょうか、デジタルとそんなに変わらない気持ちで撮影をしていた記憶があります。
フィルムの色って一体なんなんですか…
さて、一番悩みの種である色問題について、早速触れていきます。皆さんは"フィルムの色"知ってますか?僕はよくわかりません。ネガフィルムはそのまま鑑賞することができないので、アナログ・デジタル問わず反転の必要性が出てきます。
具体的には
・引き伸ばし機を使ってプリントする(アナログ)
・スキャナー/デジタルカメラで撮影してソフトで反転(デジタル)
というのがパッと思いつくネガをポジに反転させる方法でしょうか。このプロセスには、一定以上の作為が入り込みます。アナログプリントなら引き伸ばし機の色調のバランス、薬液や時間の選択。デジタル化なら、デジタルカメラのRAWデータと遜色ないくらいのデータ補正。
ここではまず、デジタル化についてお話ししようと思います。
ネガフィルムの現像をお店に頼めば、オプションでスキャンしたデータを送ってもらえるのが一般的です。僕もずっとその方法でフィルム撮影を楽しんでいました。しかし貧しい人間は常に不満を探す生き物、正直段々お店のスキャンデータに満足できなくなってきました。解像度もそうですが、やっぱりたっかいフィルム代を出して撮るからには、可能な限り良い感じなデータが欲しいじゃないですか。写るんですとか、コンパクトフィルムカメラなら「お!この曖昧な感じがフィルムっぽくて良いね〜」と適当な事言って満足できたのですが、中判フィルムでそれをやられると、正直微妙なんですよね。求めているのはそれじゃない、もっと極めて良い感じな、重さに見合った余裕や緊張感が欲しいわけです。(展示を見てすぐ影響を受ける)
「文句言う暇があったら、自分でやれば?」
ということで、撮影したフィルムを自分でスキャンすることにしました。実は一年生の頃に、カラーネガの現像〜デジタル化までを自分でやった事があって、その際"Negative lab pro"という、隠像を陽像に変換するためのLightroomのプラグインを購入していたので、変換ソフトはこちらを使うことにしました。
あとはネガフィルムを撮影するための設備です。フィルムの自家スキャンにはメジャーな方法が2つあります。
①フラットベッドスキャナーを使ったスキャン
②デジタルカメラでネガを撮影する"デジタルデュープ"
一年生の頃に使ったのは②でした。学校のGFX50Siiとマクロレンズを使っていたこと、割と面倒だったことを覚えています。家に置くのも億劫なサイズ、高めの初期費用、今回は①のフラットベッドスキャナーを使ったスキャンを選びました。
買いました。1.6万円、安すぎる。
EpsonのGT-X820というミドルクラスのスキャナーです。
いざ、自家スキャン
お店のスキャンがあまりにも残念だったKodak GOLD200を自家スキャンし、ネガポジを反転させました。
「良いじゃん!!」
お店でスキャンしてもらったデータが下の画像、一目瞭然です。
どうでしょうか?自家スキャンの方が、なんだか重みと湿度を感じさせるイメージになっているように見えます。印象の中の中判フィルムっぽい、求めているイメージに近づいてきました。
お店スキャンの方は、意図的にフェードをかなり強めにかけて、中間からハイライトにかけての黄色と、シャドウの紫の対比が印象的です。期限切れフィルムみたいだなあと思いました、だからこそ「むむ..」となったわけですが。これはラボマンの腕とかじゃなくて、需要としてこういう質感が求められているのだと思います。
何はともあれ、たった1.6万円と少しの手間でここまで良くなったのは、かなり試作の結果としては満足です。しかし、イメージの結果としては全然満足できません。当初の目的である"極めて良い感じな色やトーン"には程遠いからです。(当たり前なんですけどね)
調整、そして雑念と問い
自家スキャンをした結果、変な色転びをイメージから排することができ、かなり端正なイメージになりました。良く言われることですが、今僕らが思う"フィルムっぽい"は、実際のフィルムの特徴とはズレている、という話を思い出しました。
普段メディアで見ているフィルムの色のほとんどは、誰かによってスキャンされ補正された色です。そこにはある程度同じような"フィルムっぽさ"の印象が影響していて、その印象が形になった写真が人の目に触れることで、更にその"フィルムっぽさ"が、多くの人のフィルムの印象として吸収・増幅されているのでしょうか。印象が実態を置いて一人歩きしているのはかなり魔術的に思えます。分かりにくかったらすみません。
ある程度スキャンしたデータがニュートラルな色調になったところで、ここからは個性的で自分の求めている色に現像で寄せていくだけです。Lightroomは僕と相性が悪いので、一度調整したスキャンデータをTIFFで書き出し、Capture oneで現像していこうと思います。憧れの写真家みたいなトーンにしてくぞ〜!
まずはいつものプリセット"後付"を載せて、そこからトーンカーブと個別のRGBカーブをいじって〜
皆さん、お気付きでしょうか。このワークフロー、完全にデジタルカメラのRAW現像です。ありがとうございました。
いや、なんか、やりたいことはそうじゃ無いんだよな…これじゃフィルムの写真っていうか、ここまでやったらフィルムを使ったデジタル写真だよな..という葛藤が出てきました。しかし、"ここまでやったら"の"ここ"に具体的な境界線はないわけです。砂山のパラドックスと一緒ですね。強いて言うなら、デジタル補正によって作られた色を、ネガから紙に焼く時に再現できなくなった瞬間でしょうか。
これは極めて個人的な感覚の話になりますが、僕はフィルムで撮影することのメリットと言えば、"手焼きのアナログプリントを作れること"が浮かびます。もちろん色調やトーン、体験もありますが。つまり、フィルム撮影した写真の最終的な形を"アナログプリント"に設定しているわけです。デジタル化したフィルム写真が、補正の段階でこのアナログプリントで再現可能な領域(自分の技量で)を逸脱し、スキャンのデータがネガフィルムというAとは別物のA`として独立した時、その写真のイデアがどこに存在するか曖昧になっていく感覚があります。その写真のイデアが宿っているのは、理想の色に補正したデジタルデータか?ネガフィルムそれ自体か?一枚の写真が、歪な二面性を見せ始めたのです。僕はこの気持ち悪さに耐えきれなかったので、フィルムをスキャンした後、過度な補正を行うことに嫌悪感があります。質の高いラボのスキャンに頼めば?と言う提案にも同じ返答を返します。自身が自作のイデアの座標を把握していない状態を、僕は不愉快に思うので。(色調だけがイデアという訳ではないです)
「コイツ、めんどくせ〜」
はい、その通りだと思います。小生の自意識や物の見方はおそらく歪んでいます。いっそ割り切って手焼きのアナログプリントという手段を放棄して、"ネガフィルムを使ったデジタルデータの写真"として運用するのはどうだろうか。これだと正直、「じゃあデジタルで良いかな…」という感想が出てきます。というか、もう今年で20歳になるんだから、変なこだわり捨てれば良いのにって感じですよね。嫌ですが。
しかしその反面、この"ネガフィルムを使ったデジタルデータの写真"にはかなり可能性を感じていて、フィルム特有の輝きや質感・色調などを抜き出せば、デジタルのRAWをフィルムライクにする程度では到底辿り着けないような写真を、データで生成することができそうです。ネガフィルムのイデア問題がきにならないよーって人は是非追求してほしいです。
最もプリミティブな方法でいかせてもらいます。
要はアナログプリントした時の色と、ポジ像のデータの色が一緒ならこの問題は解決するわけです。正直この手段、フィルムスキャンに手を出した最初期の段階から、フィルムガチ勢の後輩や、フィルムスキャンの話をしてる海外YouTuberニキが"確実な方法"として紹介しました。それにも関わらず、何故やらなかったのか?それは単純です。本当に面倒で、コストも掛かるからです。自分でも軟弱だなーと思いますが、本当にただそれだけです。しかし、もう宛ても無いのでやることにしました。
最もケミカルで、最もプリミティブで、最もフェティッシュな方法でいかせていただきます。
それは、"手焼きしたプリント自体をスキャンする"という方法です。これならネガポジの変換がデジタル・アナログの間で別々に行われることもないし、確実です。
ということで、学校の暗室に来ました。
「助けてほしい」と伝えたところ、一年の頃から暗室に入り浸っている友達が、薬品と印画紙を貸してくれるどころか、一緒にやってくれることになったので、友達の手を借りながら初めてのカラーの手焼きです。
モノクロはよく自分でも焼くのですが、全然勝手が違う、薬品も高すぎる、全ての工程がより繊細で、物臭な自分にはかなり難しい行為に思えました。弱音はどうでもいい、とりあえず教えてもらった通り引き伸ばし機を設定して、現像していく…!(本当はネガキャリアに入れてドデカくプリントした方がいいんだけど、借りれた暗室が35mm限定だったのでベタ焼き※で)
※フィルムと印画紙を密着させて感光させる方法、フィルムの大きさそのままで像が出てきます。
暗室!!楽しい!!
出来栄えはともかく、やっぱり暗室で現像するのは楽しいですね。モノクロだと現像液の中で像が浮かび上がってくるのが見えますが、カラーは真っ暗の中で作業するので、それが見えません。定着液に浸した後、引き上げることで初めて像が確認できるのですが、その瞬間が"収穫"すぎて感動できました。時間もあっという間に過ぎる、暗室ってお腹空くよね。
初の現像だったので、プリントそれ自体のクオリティは決して高くないと思いますが、とりあえずポジ像に反転させることはできました。そしたら帰ってスキャナーにこの手焼きのプリントをぶち込みます。スキャナー自体の色のズレやコントラストを直して、スキャンしたデータがこちらになります。
全然違うやんけ…
本当に、先駆者や先生の話はちゃんと聞いて、面倒臭がらずにやるべきだなと思いました。明らかにネガをデジタルで反転させたものよりトーンが綺麗です、特にシャドウ部。ただ、ベタ焼きをスキャンしてトリミングしたので、解像度やピントがかなり残念な感じになっています。これは一度アナログプリントという、失敗の因子が発生しやすい手順を踏んだことが仇になったようです。撮影→プリント→スキャン、と3回ピントがズレる機会があるので、少しずつ重なったのでしょう。とりあえず次から気をつければいいだけの事です。
じゃあ、フィルムで撮る度暗室行きます…?
いや〜正直それは面倒臭いです。しかも学校の暗室は使いたい時に使えない、まぁまぁ人が居る、そして学校を卒業したら使えない、という状態。そして次にコスト、今回は優しい友達に薬品も印画紙も貸してもらえましたが、なんだかんだ自分で揃えると初期費用は5,6万、そしてそれらは消耗品…学費高いんだから学校で買って使わせてくれよ
モノクロが薬品全部で3,000円もしないのに、ちょっと手を出しにくいな…と思ってしまいます。まぁ、正直コストなんて言い訳です。
本当は、"こんな丁寧な作業、できない!"と思ったからです。カラー現像は失敗の因子が桁違いに存在します。A~Eの工程をミスなく、しっかりとできなければ好ましい結果は出てきません。具体的には、薬液の温度や時間、管理方法、綺麗なネガを作るなど。正直、ネガフィルムを丁寧に扱うことすらかなり難しい自分の脳では、これはキャパオーバーだなと思いました。"丁寧"ができる人、本当にかっこいいです。尊敬してます。
弱音をつらつらと書きました。まぁ最初から完璧はないわけで、少しずつ機会がある時にやって慣れていけば、そのうちサクサクっとできるようになるかな〜と思ってます。車の運転とかもそうだったので(仮免四回落ち)
色々試してみたわけですが。
フィルムのデジタル化、自分の中では結局"プリントして、スキャンする"という形が納得できるやり方でした。正直デュープやフラットベッドスキャンでも、追い込んでいけば同じようなクオリティ、色調にはなるんじゃないかなと思います。単にデジタルデータの色だけなら、そっちの方がプリントしたものをスキャンするより自由度も高いので、結局はライフスタイル、写真との向き合い方、フィルムに求めるものの違いによって、最適な解は変わってきますね。僕はどうせやるなら、暗室を使えるうちは下手なりにも焼いたプリントをスキャンしようと思いました。プリントがあるってのも素敵ですしね。というか、リバーサルフィルムやった方がいいですよねコレ、高いんだけど大判リバーサルに手を出したい…!現像できるところあるのかな。
比較用に、お店スキャン、自家スキャン、プリントスキャンをそれぞれした同じ写真を並べてみましょう。今更ですが、フィルムはKodak GOLD 200、カメラはPentax67です。
フィルム、向いてないなあ
Pentax67とか使い出しといてアレなんですが、これらの試作を通して、僕はフィルム向いてないなあと思いました。丁寧や慎重みたいなことが致命的に出来ない。フィルムなんかだとそれが不可逆だったりするので、ちょっとそこに体力や時間を削るなら、今はデジタルで制作や撮影をした方が、自分の求める作品は作れそうだと感じました。昔好きな写真家のインタビューで、こんな発言がありました、
「暗室の中かパソコンの前、どっちの方が精一杯取り組めますか?」
すみません、僕はどちらも好きですがパソコンの方が頑張れそうです。戻るボタンがあるので。少し前だったら、デジタルカメラで撮った写真は作品として認められなかった風潮もあったらしいので、この時代に生まれることができて良かったです。物臭発達障害でも写真家を目指せる時代、ありがとう。
向いてないと思ったからフィルムでの撮影を止める、のような極端な話ではなく、普通にこれからも緩く続けていこうと思います。その度ちゃんと焼いて、スキャンする手順を踏んで、少しずつ暗室での現像やプリントのカラーコントロールも身につけていきたいと思いました。ここでの葛藤は、フィルムかデジタル、どっちを選ぶ?という話ではなくて、メディウムの違いをどう自分の中の意思に落とし込んでいくか、という話です。
僕はこのような、手段や道具の在り方/座標に納得できていない状態だと、それを使うことがとても不快に感じてしまう性格があり、本当に面倒臭いな人間だなと、欠陥品だなあとつくづく思わされます。皆さんは幸福のために行動してますか?してない人はしてください。今回は以上です。
最後に、デジタルカメラによるデュープに挑戦したい方は、神でお馴染みFOTONEさんのこちらの記事を是非ご覧になってください。本当に良いです。