【仕事・ラジオ】妄想は発想の伯母

野球は「記録」が多く誕生するスポーツ。
まず、通算本塁打数、通算勝利をはじめとした
「結果」を出すことで生まれる記録が多い。
送りバント、救援、エラー、デッドボール、
プレーの種類の数だけ記録もある。
それに加えて「出場試合数」や
「連続試合出場」「現役を続けた年数」など
継続することで誕生する記録もあります。
記録を達成・成立すると
試合の最中に花束が渡され
球場全体から祝われる。
試合時間が決められていないスポーツ
ならではの風景です。

ふと「ラジオの放送作家」の場合
どんな記録を作っていると言えるのか
考えられてみました。

まず、「結果」の記録でみると
放送作家の仕事における安打や本塁打、
勝利にあたるものが見当たりません。

「継続」の記録ではどうか。
台本を書いた本数、通算1000本目
収録・生放送の立ち合い1000回目など
考えられなくもないですが
そのたび祝われるものではないし
そもそも本人が数えていません。

また、番組の放送回数は
自分の記録というよりも
番組の記録という意識があります。
同様に「聴取率1位の回数」というのも
番組を形作るのは自分ひとりではないので
番組に帰属するものだと思います。

放送作家個人の「記録」はないものか。
いろいろ考えたところ
ひとつ思いつきました。それは

「メールテーマ」(メッセージテーマ)

生放送の最中に募集をかける
メール・FAXのテーマです。
常時投稿受付中のコーナー以外に
リアルタイムでメッセージの募集をかけ
メール・FAXを紹介する。
21世紀のラジオの生放送において
よく見る手法です。

私は、とある番組で
毎週メールテーマを考えています。
2008年にスタッフになり
2009年にメイン作家に昇格。
それ以降15年にわたって
毎週メールテーマを考えています。
そして、誰に言われるでもなく自らに
「必ず3つ考え、その中から選んでもらう」
というの課しています。
普段からテーマをためこんでおくのではなく
その日、考え始めます。
当日の雰囲気
(暑い、寒い、風が強い、
 前日盛り上がったことがある、
 午前中にしんどい話題が……
 喋り手のテンションや興味……など)を
大事にしたいというのが理由です。
本番前の準備作業が多い時は
2つしか提出できないこともあるのですが
基本的には3つ出します。
なので、これまで考えたテーマ数を計算すると

15年×52週=780週
780週×3=2,340

2個しか考えられなかった時、
気づかないまま過去に出したのと
同じようなテーマを提出したことも
きっとあると思います。
なので、この番組だけで
実質2,000個ぐらいのメールテーマを
考えたのでは、という結論に至りました。
プロ野球の名球会入りの条件のひとつに
「2,000本安打」がありますが
偶然にもその数字と近い結果になりました。

「ただいま提出した
 『もしかして、もう終わってる?!』
 というテーマが
 通算2000本目の
 メッセージテーマ案になりました」

というアナウンスが放送局のフロアに流れ
花束を贈呈される。
そんなありえない世界のことを考えていると

「コーナー案、企画案、ゲスト案、
 トークネタ案なども
 毎週のように出しているので
 これも記録になるな」
「コントやドラマも毎週1本、
 15年間書きつづけたら780本。
 なかなか迫力のある本数だ」
「でも今やコントやドラマを書かせてもらえる
 番組は少なく、
 考えるのは”メッセージテーマ”ばかり。
 これでいいのか?」
「ラジオは音声だけのメディアだからこそ
 内容はバラエティに富んでいないと
 ダメじゃない?」
「外からの中継や電話つなぎなど
 先人たちが
 ”放送内容にバリエーションを出そう”と
 試行錯誤したことと、
 過去になかった現在の新しい技術や
 環境をマッチさせて
 ”新しく見えるやり方”、何かできるんじゃない?」

 
といった具合に
現在の課題や今後取り組みたいことが見えてきました。

「意味や価値のない妄想」から
「意味や価値を生むための方法」へと
脳内がシームレスに展開していく。

「こんな妄想、何の役にも立たない」の先に
重要なアイテムが落ちていることもたまにある。
思い浮かんだことは、思い浮かんだなりに泳がせる。
泳がせれば「発想が尽きる」ことはない。
クオリティはさておき、脳内にうまれたものは
そのままにしておいたほうがいい。

Let it be.

ビートルズが歌っていた通りです。

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