puppet master 傀儡師 第一話 パンデミックと居酒屋八兵衛
世界の秩序は今や医療や製薬会社が作っている。
権力そのものとなっている「人を癒す力」は、株主による過剰な介入により、権力や利益を維持するために人を癒やし続ける必要に迫られている。
病気が蔓延していないと「人を癒す」ことができない状況となり、供給側が需要を生み出す:「病気を生み出す」という魔の手に自ら出資することとなる。
厚生労働省が高血圧の正常範囲を容易に変更したり、コロナワクチンを義務化したりするように、権力は株主の言いなりになっている。
株主として、一般市民も主体となり、知らず知らずの内に悪の黒幕となっている。自らの健康を犠牲にする矛盾をはらんでいる。
過去は不景気から軍需産業により戦争が起こされたりした事は、今では世界的な先進国の高齢化や人口爆発を抑える手段として遺伝子操作されたウイルスなどが担っている。
二千三十年一二月二十四日
パンデミックが毎年起こるようになって、製薬会社では、対応に追われていた。
イーザ社の研究所では、研究班タツノコの主任研究員キラ子がため息をついていた。
隣の研究班リュウグウは毎年、治療薬発見などの功績をあげており、主任のケチロウは取締役になると噂されている。
キラ子のネット民としての名前はタマ。残業して夜中に仕事場近くの寮に戻った。
三十歳になって早く結婚したいが、こんな毎日では想像も出来ない。すぐに人工知能サザに呼びかける。
「サザ、リビングを蛍光色、テレビ付けて、暖房付けて、風呂沸かして」
「すべて行いました」
「お疲れですねキラ子」
「どうも」
「ドヤドヤにログインして!」ドヤドヤはソーシャルネットワークサービスの仮想空間であり、唯一落ち着く場所だ。
「ドヤドヤにタマでログインしました」キラ子は缶ビールを開けながら
「新宿裏口横丁の居酒屋八兵衛に行って!」
この時代、アルコール度数は健康志向から三パーセントが最大になっており、それにウオッカを入れて飲んでいる。
焼き鳥をレンジに入れて「レンチン焼き鳥!」
「温めます。チン!お知らせがあります」
「早いな?お知らせか。読んで!」
「お友達のキン様から、人工知能カツの調子が悪い見て!」
居酒屋八兵衛の中は常連でいっぱいだ。
「お!タマちゃん」
「元気?」
「遅いぞタマちゃん」
「元気ないね」
「トンちゃんわかる?」
ドヤドヤは顔認証機能で現在の気分を自分の分身であるアバターに反映できる。
昔のアバターは五感で感じられるのは「声」だけだったが、大抵の人は声も変換していた。
現在では、五感が重視され、「声」「顔色」だけではなく、さまざまなオプション装置を設置することで「調合可能な匂い」や「温度変化可能な風」「調合可能な味」まで再現できる。
「タマちゃん焼き鳥うまそうだね」
「いいでしょ?ゴンちゃんにはあげない」
居酒屋仲間は常連が四人居て、その他は週一ぐらいの連中だ。
常連一はトンで、冷静で他人を気遣うインテリな感じがする人で、年齢はたぶん四十代だと思う。性別不明。
常連二はゴンで、馴れ馴れしいが冗談や面白いことを探してくる人で、年齢はたぶん五十代だと思う。たぶんおじさん。
常連三はキンで、機械音痴で色恋沙汰が好きな、三十代の女性と思われる。
常連四はタマで、三十代女性。独身。研究職。性別は公表していないが、言い方でバレている。
「私は成果が出せないのに、隣のチームはすごいんだよ」ため息。
「また愚痴ってるね」
「不満や後悔は自分に対するものだ。言う事でストレスを軽減する効果がある」
「トンちゃんは冷たい。ゴンちゃんは他人事だ」
「そんな事忘れて、いい人でも見つければ?」
「出来るならそうしてるワイ!キンちゃんだってそうすれば?」
「うちを巻き込むなー!」
いつもこんな感じだ。
一般市民の何気ない日の夜はこんなものだ。