連合――その実力をはかる
先の記事「第26回参院選(2022年)立憲民主党――支持されるとはどういうことか」は、たいへん多くの反響をいただくことができました。国会議員や秘書の方だけでなく、現場で選挙に関わっている方からも、そしてなにより立憲民主党に投票してきた人たちからも評価してもらえたのは望外の喜びです。
けれどその中に一定数、先の記事は無党派層を重視するあまり、連合に関する記述をほとんど欠いているといった趣旨の批判が寄せられました。そこで今回は連合について取り上げることにします。
連合とはいかなる組織なのでしょうか。それは多くの選挙で野党の支持基盤の一角をなしています。他方で芳野会長が自民党の幹部と接触したり、野党共闘に否定的であることが報じられると、果たしてこれは本当に野党を支える存在と言えるのか、むしろ内部から骨抜きにしているのではないかといった疑問の声があがることも少なくありません。野党に期待する有権者から「連合を切り捨てよ」といった意見が出ることもしばしばです。
けれど連合は、それほど単純に割り切れる組織ではありません。会長の意向がそのまま全体の方針に合致しているわけでもありません。まずはどれほど連合が多様なのかということを、次に示す2枚の地図から見てみましょう。
図1と図2は、第26回参院選(2022年)について、最も多くの票を得た産別で市区町村を塗り分けたものです。産別は連合の構成組織のことで、後にあらためて説明しますが、赤色で示した日教組などはご存じの方も多いのではないでしょうか。凡例にあるUAゼンセン、電力総連、自動車総連なども、基本的には日教組と同格の構成組織となっています。
ここで、図1は私鉄総連を除く場合、図2は私鉄総連を含む場合としてわけて示しましたが、第26回参院選(2022年)では私鉄総連が準組織候補として知名度のある人物(辻元清美氏)を立てており、組織外の票を多く確保したと考えられるためこのような扱いとしています。ですから図2の私鉄総連は過大評価で、実のところは図1に近いと考えて構いません。(図1と図2のどちらが適切かは、この記事の終盤で評価します)
労働組合の集合体
連合の多様性をとらえるうえで、労働組合のまとまりについて触れない訳にはいきません。
労働組合のもっとも基礎的な単位は個々の会社の組合で、これは単組(単位組合)と呼ばれます。例えば東京電力の労働組合、中部電力の労働組合、九州電力の労働組合などはいずれも単組にあたります。こうした単組が、同じ業界で働く労働者の利害のためにまとまったのが単産です。電力業界であれば電力総連がそれにあたります。そして、様々な業界の単産が全国的にまとまったものがナショナルセンターです。
連合は日本最大のナショナルセンターです。先に連合の構成組織のことを産別といいましたが、これは単産とほとんど同じで、ナショナルセンターである連合の内部に様々な産業別(単産別)の組織があるのだととらえた言い方です。現在、連合には47の産別があり、このうち組合員数の多い11産別が参院選の比例代表に10人の組織候補を立てています。
連合が多様なのは、この産別に様々なものがあるためです。電力総連は、再稼働促進のための署名を集めるなど、原発の運用に積極的な姿勢をとっています。日教組は「教え子を再び戦場に送るな」のスローガンのもとで平和運動を行ってきました。他の産別もそれぞれに、固有の問題意識のもとで活動しているというわけです。
立憲系と国民系が存在する
現在の連合は主に立憲民主党と国民民主党の支持基盤ですが、各産別がいずれを支持しているかということは、連合ができる以前の時代にルーツを持っています。
連合はもともと1987年に、かつての二大ナショナルセンターであった総評と同盟に加え、中立労連と新産別が合流して設立されました。実は現在の各産別の組織候補が所属している政党は、各産別が総評と同盟のいずれに属していたかということと対応があります。これを表1にまとめました。
かつての総評は社会党の支持基盤で、同盟は民社党の支持基盤でした。社会党は終戦直後の1945年に結成され、1996年まで存在した左派的な政党です。また民社党はCIAの資金提供を受けて1960年に結成された右派的な政党で、1994年に新進党へ合流するときに解散しています。
こうした経緯から総評系は左派で、同盟系は右派といえるものの、今の産別の中には連合にまとまる過程で複雑な再編があったものも少なくはないため、表1は大雑把な分類となっています。単組には単組の性格もあるので、同盟系だからといって、すべてが民社党を支持していたといえるわけでもありません。若干は他の政党に流れていた場合もあるはずです。
なお、票の分析からは、民社党と国民民主党には明確に共通点が見いだされるので、それについてはまた別の機会に論じましょう。
組織票はどれほど固いのか
組織票として最も強固なものには公明党のK票(創価学会のなかの活動家の票)が挙げられます。それから共産党の内部票がありますが、連合のなかのまとまりの強い産別もそれに次ぐ固さをもっています。(自民党のコアな部分も固いはずですが、自民党は政権与党として様々な票が混じるので、特定のものを分離して見ることは困難です)
一例として、第24回参院選(2016年)と第25回参院選(2019年)の日教組の票を以下に示しました。
並べた2枚は同一の地図かと錯覚するほど高い類似性を持っています。まさにこの票の固さこそ、連合が重視される大きな理由だといえるでしょう。
立憲民主党が結党直後の第48回衆院選(2017年)で無党派層の受け入れ先になったことを先の記事で示しましたが、そうした票はいつやってくるのかわからない不安定な面をもっています。当時、立憲に期待した人の中には、なぜ党は私たちの方を見てくれないのだといった思いも少なくはないことでしょう。けれども政党の側からすれば、そうした人たちは安定して支持してくれるようには見えません。誰が地を這うような実務をこなすのか、例えば誰が公示日に日本中の選挙ポスターを貼りに行ってくれるのかというようなことを考えてみても、やはり連合の力は大きいといえるのです。
連合の票は縮小している
しかし近年、その連合の票は縮小傾向にあることが確実となっています。第25回参院選(2019年)から、第26回参院選(2022年)に至る比例票の変化を表2に示しました。
表2は、この二度の選挙に組織候補を立てた産別について、得票数と絶対得票率、およびその増減を表示したものです。絶対得票率はいずれも1%未満の小さな値ですが、それは投票に行った人のうち、立憲民主党か国民民主党に入れた人の、さらに組織候補に入れた人という狭い部分を検討しているためなのでおかしくはありません。この狭い部分を見る意味があるのは、それが組織票で固いことと、このうちの一部が選挙運動の担い手となっているからです。
表2を見ると、まずは私鉄総連の票の増加が目を引きます。しかしながらこれは知名度の高い辻元清美氏が準組織候補となっていたからであり、形式的に「私鉄総連」と書いているものの、実際は個人の自力が大きいため例外であると考えてください。票を4倍に拡大しているわけですから、これはどうしても別問題として扱わざるを得ません。
また自治労もやや票が伸びていますが、これも次のように説明がつきます。実は第25回参院選(2019年)まで、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、新潟、富山、長野、香川、佐賀、大分、宮崎の13県の自治労は社民党に投票していました。この分は立憲民主党の組織候補の票にならないため、表2の第25回参院選(2019年)の集計には入っていないのです。
けれど社民党は2020年12月に分裂し、吉田忠智氏、吉川元氏の2名の国会議員が立憲民主党に移りました。おそらくはそれにともなって支持基盤も動いたのでしょう。第26回参院選(2022年)では、13県の票が立憲民主党の組織候補に流れるようになっています。こうした事情があるため、自治労の票の増加もまた別問題と考える必要があるわけです。
こうして私鉄総連と自治労を除くと、他の産別はいずれも票を減らしていることがわかります。先の記事で、立憲が連合を頼ろうとしても、それでは自らを狭い方へ狭い方へと追い込んでいくことになってしまうと書いたのはこのためです。
立憲が結党時の勢いを失ってそうした狭い方へと進んでいったことは、党にとっても支持者にとっても、大きな損失でした。あのとき何が必要だったのかというと、それは党に期待を寄せた無党派層をいかに組織化するかということにほかならず、これは今後もあらゆる党にとって課題となり続けるのに違いありません。
さて、今回はそこまで立ち入った議論までは十分に展開できませんが、まず評価したいのはタイトルの通り連合の実力です。そこで以下では、①比例代表に組織候補を擁立した11産別10候補の勢力、②それらを立憲系と国民系にわけて集計したときの勢力、③各産別を総和した連合全体の勢力について、全市区町村の絶対得票率の検討をもとに地図で示しました。さらに、私鉄総連の票から辻元氏が独自に拡大した票を分離し、連合本来の集票力の推定を行います。