【日経新聞から学ぶ】政府・日銀、24年ぶり円買い介入~世界中利上げの中、効果あるのか?~
1.政府・日銀、24年ぶり円買い介入
政府・日銀が円買い介入に入りました。本当に介入に入るのか?ということは疑問もありましたが、介入入るとしたら、このタイミングだろうという予測を多く人がしていたはずです。
事前の予測で、次のことはほぼわかっていました。
21日にはFOMCでFRBが利上げを決定する、それもおそらくは0.75%。そして、22日に日銀は大規模金融緩和の維持を発表する。すると、ドル高、円安となるのは間違いない。
さらに、前日にFRBの今後の金利予測は市場の予想以上の利上げの可能性が示唆されていました。
したがって、日銀の大規模金融緩和維持は、これから先も日米の金利差は開き続けることを意味することも前日にはわかっていたことでした。
そして、消費者物価指数の発表からも、日銀が金融緩和維持を発表することも、ほぼ確実でした。消費者物価指数は2.8%の上昇だったものの、生鮮食品とエネルギーを除く物価指数は1.6%の上昇と、日銀が考える水準には達していなかったからです。
非常に大きなニュースになった政府・日銀の円買い介入ですが、普通に考えればこのタイミングで円安が進行し、145円を突破するだろうことは予測できていたので、予想外のことではありません。市場へのインパクトが、今はあるように思えますが、ある意味「そりゃ、やるだろうなぁ」という印象ですから、今後も効果が維持できるかは疑問です。
というより、持続しないと予想します。ただ、円安が一方的に進むかは、世界景気の影響があるので、一概には言えませんが、円安基調は続くでしょう。
2.日本だけが金利上昇の波に取り残されている。
全文訳はこちら↓
世界の主要な中央銀行がFRBの利上げ発表の後、利上げを進めています。自国通貨の防衛のためにも、利上げをしなければドルに対して一方的に弱くなってしまうからです。
スイスは欧州で最も早く、そして最も長くマイナス金利の状態でしたが、それを脱出しました。そのため、世界で唯一のマイナス金利政策日銀となりました。スイスの10年物国債の金利は上昇しています。
(出典:TRADING ECONOMICS/スイス10年物国債金利)
2022年、円はスイスフランに対して下落しています。(日銀の介入以降上昇しているが、その後は再び下落している)
こうして金利差が出てくると、世界の安全通貨として有事に買われてきた円とスイスフランですが、円は取り残され、スイスフランが今後買われるのではないでしょうか。そうなると、円に対してはさらに、スイスフラン高になるので、円安で資産が目減りすることを考えると、資産の逃避先として、スイスフランは選択肢です。
政府・日銀が介入したとしても、世界の中央銀行との金利差が開く一方では、円安の流れを止めることは容易ではありません。円安は国力を弱くすることでもあります。
3.20%下がった日本のGDP
GDPは3面等価の性質を持つマクロ経済スライドです。
・3面等価の原則
3面等価の原則とは、GDPを生産・支出・分配の3つの観点から見た時、すなわち、生産面のGDP、支出面のGDP、分配面のGDPを考えるとき、それら常に同じ金額になるという法則のことです。
生産面のGDP=支出面のGDP=分配面のGDP
経済の循環は、財・サービスの生産、生産された財・サービスの価値(収入)の分配、分配された価値(収入)の消費という一連の流れで成立しているため、生産・分配・支出が同一になるのは必然であるといえます。
人や機械が財・サービスの生産を行います。それの付加価値の合計額が生産面のGDPとなります。
その生産された財・サービスが生み出した価値は、その財・サービスを生み出す要素である労働者への賃金や固定資本の減耗分などに分配されます。これが分配面のGDPに該当します。
さらに、分配されたお金は消費者の消費や企業による新たな資本の形成などに使われます。これが、支出面のGDPです。
・分配面から見たGDP
新たに生み出された価値の総額はそれの生産要素に分配されるという観点から見たGDPが、分配面から見たGDPとなります。
式にすると、以下になります。
分配面から見たGDP=雇用者所得+営業余剰+固定資本減耗+間接税-補助金
まず、企業が生産活動で得た収入というのは誰が生み出したものでしょうか。それは、言うまでもなく、その企業に勤めている労働者です。労働者という生産要素に対して、賃金という形で収入が分配されます。これが雇用者所得に該当します。
次に営業余剰というのは、経営者や株主に対する報酬の支払いです。価値を生み出しているのは労働者だけではなく、労働者を束ねて会社の方向を定める経営者や会社運営のための資金を提供している株主も該当します。彼らに分配される報酬が、営業余剰になります。
また、財の生産のために利用している生産設備の価値の減少についても考慮に入れる必要があります。財の生産には機械などの設備が必要不可欠であり、企業の生産活動には必ず生産設備が必要になります。
生産設備は消耗品ですので、使えば使うほど減耗して価値が無くなっていきます。この価値の減少分を固定資本減耗と呼び、得られた収入は固定資本減耗にも当てられます。
そして、間接税も分配面のGDPとして計上されます。直接税である所得税や法人税は、雇用所得や営業余剰に含まれているとされています。
一方、政府からの補助金は分配面のGDPから差し引かれます。政府からの補助金というのは、いわば企業にとっての収入となります。分配面のGDPは企業の収入がどのように分配されるかを表しており、企業から出ていくお金を足し合わせているので、入ってくるお金である補助金はマイナスであると考えることになります。
・支出面から見たGDP
GDPは支出面からも計測することができます。これは、使われたお金の総額を求めれば、それがGDPになるということを意味しています。
そこで、お金を使う経済主体をそれぞれの性質毎に分割し、それらの支出額を足し合わせて求めます。経済主体は、家計・企業・海外に分けられます。式にすると以下となります。
支出面から見たGDP=民間最終消費支出+政府最終消費支出+総固定資本形成+在庫品増加+輸出-輸入
民間最終消費支出というのは、個人や企業の消費支出の合計額を指します。消費支出というのは、文字通り財・サービスを消費するときに支出した費用のことを言います。
政府による公務員への給料の支払いや補助金の支払いなどが政府最終消費支出に当たります。総固定資本形成とは、新たに追加で消費された固定資本の総額のことです。企業が存続し続けるためには固定資本の拡大は欠かせません。
在庫品の増加というのも支出面のGDPとして含まれます。これは、在庫品の増加は、在庫投資として企業に需要され、消費されたものだと考えるからです。
最後に海外への純輸出を加算します。純輸出というのは、輸出-輸入のことを意味しており、実質的に貿易でいくら稼いだのかを表しています。
輸出は海外に対する財・サービスの販売です。国内で生産された財・サービスのうち、輸出で得られる収入というのは海外の人たちの消費支出によるものです。この海外の人たちの消費支出も加えなければ、生産面のGDPに対して支出面のGDPが過少になってしまいます。
・生産面から見たGDP
生産面から見たGDPは、国の産業全体で生み出された付加価値を足し合わせたものです。式にすると、以下となります。
生産面から見たGDP=新たに生み出された付加価値の合計
付加価値について簡単にみておきましょう。例えば、りんごのシャーベットを考えます。農家がりんごを作って100円で売ったとしましょう。ただし、種や土地、労働などの費用は一切かからないものとします。
この時、農家は100円の価値を新たに生み出したという意味で、付加価値は100円であるということができます。
さらに、りんごを買った人がシャーベットを作って150円で売ったとしましょう。ただし、シャーベットを作るための道具や労働などの費用は一切掛からないものとします。この時、りんごの価値100円に50円が上乗せされて取引が行われています。つまり、りんごを買った人は50円の価値を生み出したという意味で、付加価値は50円であるということができます。
このことから、付加価値の合計は100+50=150円という結果を得られます。
また、最終的に売れた商品(完成品)の価値がそのまま付加価値の合計を表します。つまり、付加価値=りんごの価値+(シャーベットの価値-りんごの価値)という計算をしなくても、付加価値=シャーベットの価値というように表記することができるわけです。
このように途中の過程にある付加価値を計算しなくても、最終生産物を見ると、総付加価値が明らかになります。
以上はマクロ経済のGDPの3面等価の原則です。
世界のGDPに対する日本のシェアは1990年の16%から現在は4%と、1/4に減ってしまいました。
世界のGDPの成長力(平均4%台)に対して、日本は30年間、ゼロ成長だったからです。GDPの成長力が低いとその国の通貨価値は下がります。
円の実質実効為替レートは50年前に下がりました。
原因は日本企業の生産性の低さです。人時生産性という指標があります。これは、1人が1時間当たりに稼いだ粗利額、つまり付加価値を表します。
生産面から見たGDP=新たに生み出された付加価値の合計、という式から考えると、次のようにも考えられます。これはミクロ経済から見たGDPの見方と言えます。
新たに生み出された付加価値の合計=人時生産性×8時間換算労働者数
この面から見たときに新たに生み出された付加価値の合計を増やそうとすると、人時生産性を上げるか、8時間換算労働者数を増やさなければならないことが分かります。
労働者数は、生産年齢人口(15歳~64歳)の人数の1年あたり0.6%減で減っていきます。2020年代からは、減少が、年々、大きくなっていくのです。2060年には総人口も8673万人に減少します。
2060年まで、生産年齢人口の割合は低下し、65歳以上の高齢化比率は、現在の30%弱から40%へ向かって増加します。
生産年齢人口は「10年で6%の割合」で減っていきます。「働ける世代が減る中で、働く人の生産性が上がらなかったのですから、1人当たり所得が減る」のは当然でしょう。
人時生産性が上がらなければ、8時間換算労働者数は減り続けているので、実質GDPが伸びることはありません。つまり、現在の日本は人時生産性が上がらない限りは、実質GDPは増えないのです。
今回の円安の根本的原因は生産性の上昇がなく、実質GDPが増えない日本経済そのものです。それは人時生産性を上げられないからです。
日銀が金融緩和をしても人時生産性は上がっていません。また、政府が財政出動しても上がっていません。
日銀が金利を上げることができないのも、量的緩和では実質GDPは伸びず、税収の増えず、2%の金利になるころから政府財政が破産に向かうからです。
円安を食い止めるには生産性の向上が実は最も重要なことだということです。では生産性はどうすれば向上させられるのか。
菅政権で成長戦略会議有識者のメンバーであったデービットアトキンソン氏がその著書の中で述べられていたことが、その通りかと思います。
今後、日本がとるべき円安を食い止める道は、IT、AIへの投資、そして、研究開発を進めることであり、小手先の介入ではないのではないでしょうか。
4.介入の効果への予測
結論から言うと、円買い介入の効果は限定的と予測します。それは、これまで述べてきたとおりです。
政府・日銀の介入は限定的な小手先の介入ではなく、日本経済が真に生産性を上げることに取り組む必要があるのではないでしょうか。
ただ、それは政府や日銀に任せておけば良いということではなく、経営者はITやAIの投資について学び、それを実行する。働く人々もリスキリングでITリテラシーを高める。
政府や日銀のせいではなく、日本人、一人ひとりが危機感と未来への希望をもって、生産性を上げていく努力をすることがなければ、円安は止まらない。最終的には政府や日銀の問題ではなく、自分の問題であることを自覚することが大切なのではないでしょうか。
未来創造パートナー 宮野宏樹