欧州のエネルギー問題とインフレ
欧州のエネルギー問題とインフレ
1.エネルギー危機
ロシアのウクライナ侵攻後、欧州はエネルギー価格の高騰に直面しています。
8月26日には欧州市場で天然ガス価格が一段高となり、指標のオランダTTF(9月物)が1メガワット時あたり340ユーロ台に浮上しました。
その原因はウクライナ侵攻したロシアとの関係悪化です。特にドイツは深刻です。ドイツは元々天然ガスの輸入の40%超をロシアに頼っていました。ドイツとロシアの間にはノルド・ストリームという天然ガスのパイプラインがあり、そこから供給されています。しかし、現在、ピーク時の20%程度しか稼働していません。
ドイツは従来、9月1日までに国内のガス貯蔵量を、容量の75%まで溜める目標を立てていましたが、これを8月31日に前倒しで達成しました。10月1日には85%までに、11月1日には95%までガスを溜める計画です。ただし、仮に100%になったとしても、ロシアが完全にガスの供給を停止すると2カ月半程度で枯渇するという厳しい現実があります。
(注)8/28までのデータ 出所:ENTSOG Transparency Platform
こうした状況の中でロシアのガス供給会社のガスプロムは8月31日から9月2日までの3日間、現在唯一稼働しているタービン施設の保守点検作業のためにノルド・ストリームを停止すると発表しました。あくまでもガスタービンの点検と発表されていますが、ロシアからのガス供給の完全停止もあり得ない話ではないと緊迫した状況となっています。
2.英国のエネルギー事情
そして、英国では2023年1月に計画停電の実施が想定されています。
英国立統計局(ONS)によると、英国が2021年に輸入した天然ガス(金額ベース)のうち74%がノルウェー産であり、ロシア産は5%弱に過ぎませんでした。しかし、ロシアとの関係の悪化に伴い大陸の市場で天然ガスの受給がひっ迫し、価格と急騰することでその煽りを受けて、本格的なガス不足が意識さえるようになりました。
英国のエネルギー規制当局は26日、家庭の電気・ガス料金水準の大幅な引き上げを発表しました。年間の光熱費は標準世帯のモデルケースで10月から3549ポンド(約57万円)と、現在の1971ポンドから80%高まります。英国の消費者物価指数(CPI)の上昇率は7月に前年同月比10.1%と2桁に乗せました。伸び率は光熱費高騰の影響でさらに跳ね上がる見通しです。米金融大手シティーグループの予測では、CPI上昇率が10月に14.8%、23年1月に18.6%になるとしています。
3.欧州全体のインフレと景気後退
ドイツ、イギリスだけでなく、欧州全体がエネルギー危機に直面しています。そして、それはエネルギー高によるインフレをもたらしています。
出典:世界経済ネタ帳/https://ecodb.net/commodity/ngas_eur.html
世界的なインフレの加速は今年の夏がピークではないかと言われていますが、欧州はこのエネルギー問題が解決しない限り、インフレはまだ加速するのではないでしょうか。
そのため、ジャクソンホール会議で講演したECBの専務理事シュナーベル氏は利上げによるインフレ阻止の強い姿勢を示しました。今後、ECBは利上げを継続していくでしょう。
そうなると、欧州の景気後退懸念が強くなります。現在、欧州から投資マネーが退避しています。通貨ユーロは約20年ぶりの安値をつけ、株式時価総額は主要地域で最も減少し、3.6兆ドル消失しました。
ユーロ圏の8月の総合購買担当者景気指数(PMI)は2カ月連続で好不況の分かれ目となる50を下回り、ガスなど資源価格の高騰が景況感を強く押し下げています。
今後もエネルギー価格主導のインフレが加速する可能性が高く、欧州はスタグフレーション(物価高と景気後退が同時に進行)に陥る可能性が高まっています。
欧州は今、世界で最も景気後退懸念が強い地域となっています。
まとめ
ドイツはロシアとの関係から天然ガスの調達で危機的状況
英国はその煽りを受けてエネルギー価格80%高。来年は2桁インフレの予想。
欧州全体でエネルギー価格高騰から高インフレ、景気後退、資金の退避が起きている。
未来創造パートナー 宮野宏樹
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