子どもの肥満の治し方 -9- 〜子どもの肥満と現代社会〜
50年前には肥満の子どもは半分しかいなかった
小児肥満は現代社会が抱える大きな問題です。文部科学省の調査*によると、肥満学童の割合は1970年代から2000年頃までに男女ともに倍増し、現在は学童の約10人に1人が肥満です。肥満児の増加は2000年代以降横ばいですが、高度肥満児が増えているという研究もあり、楽観視はできません。
肥満が少なかった1970年代に小児期を過ごした人たちでさえ、今では60代の約30%が肥満で、様々な生活習慣病に苦しんでいます。50年前と今で何が変わっていったのかを考えてみましょう。
50年前の小学生の生活
私は1964年生まれで、高度経済成長期に育ちました。当時すでにテレビは普及していましたが、ゲーム機はなく、放課後は公園や裏山で鬼ごっこやソフトボールを楽しみ、外遊びが当たり前でした。
スナック菓子には「かっぱえびせん」や「カール」がありましたが、「ポテトチップス」は身近ではなく、スイーツや外食は特別な機会だけのものでした。冷蔵庫も小型で、ジュースやアイスの買い置きは一般的ではありませんでした。
ざっとこのように、50年前の子どもたちは、日常的に外で体を動かして遊び、高カロリーの食品を摂取する機会が少なかったのです。
全国的には「コマ」ってこれなんでしょう?
私の子供時代、地元では「コマ」と言えばこれでした。相手のコマにぶつける「けんかゴマ」で、上手になるとオーバースローで投げるんです。
子どもの遊びと生活の変化
1980年代になると、自家用車の普及やニュータウン開発により、子どもの遊び場が減少し、1983年には「ファミリーコンピューター」、1989年には「ゲームボーイ」が登場。子どもたちの遊びが外から室内へと変化しました。
さらに、コンビニやファミレス、学習塾のチェーン店が広まり、放課後は公園や裏山ではなく塾通いが増加。また、「カウチポテト」という言葉に象徴されるように、ポテトチップスを片手に室内で過ごす生活スタイルが大人から子どもへと浸透していきました。
2000年代にはスマホやタブレットが普及し、子どもたちは外遊びをしなくなっただけでなく、夜更かしするように。睡眠不足は肥満のリスクをさらに高めています。
大人の責任
さて、学校検診で肥満と言われて病院を受診した子どもの親御さんから「家でゴロゴロばかりしているから」と嘆く声をしばしば聞きますが、子どもたちがゴロゴロしがちな社会を作ったのは、間違いなく私たち大人です。私は個人的には、インターネットのような科学技術の発展や情報の民主化、日常生活の利便性向上は大歓迎の人間ですが、社会が発展していく過程で国の宝であるはずの子どもの健康が脅かされるようなのはバランスを欠いていると思っていて、今回は少しその事に触れました。機会があれば、また書きます。
次回は、「おやつのカロリー」について書き留めます。
*出典:令和5年度学校保健統計(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/content/20241127-mxt_chousa02-000038854_1.pdf
著者について
山田克彦
私は小児科医として30年以上、子どもたちの健康に関わってきました。「子どもの肥満」に悩む多くのご家族のお役に立ちたいと思い、このノートを始めました。