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やっぱり楽しめなかった

これは、塾講師のバイトをしている私の話だ。
この出来事が起こった直後(2020年2月)に、メモ書きしていたものを、以下に載せる(一部加筆)。

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今日、バイト先の飲み会に参加してきた。メンバーは受付の人達と、あと数日で異動の先生が1人。その先生の送別会だった。
男女の内訳は私を含めた女が4人に、受付メンバーの私の2つ年上の先輩が唯一の男だった。初めに断っておくと、私は彼のことをとても信頼しているし尊敬している。今までも何度か同じような飲み会に参加しているが、彼はいつもさほど酔わないので特に彼に対して何かを感じたことは無かった。

その日の彼は珍しくよく飲んでいた。お店に入る前から「今日は飲むぞ~」と言っていたし楽しみにしていたのかもしれない。

大ジョッキのハイボール。その3杯目が空きそうになったころ、だんだんと彼の呂律が回らなくなり同じことを繰り返し言っているのに気が付いた。別に珍しくもない、よくある酔っぱらいの症状だ。そのはずなのに。

それに気が付いた瞬間、私は自分の体温が一気に冷えた心地がした。
先輩が、ふにゃふにゃに酔っている。
前後不覚になるくらい、言葉が通じなくなるくらいに酔っている。

珍しい、と思うより先に、私は、「怖い」と感じた。正確に言えば、頭で考えるより先に身体がゾッと震えた。
虐待を受けたことは無いけれど、それに近いように思う。相手が動くたび、触られるんじゃないか、肩を掴まれるんじゃないかと思って身が竦む。彼は悪酔いする人じゃないし、そんなことする人じゃないって頭でははっきり分かっているはずなのに怖くて彼の顔を見ることが出来ない。目が合わないように無意識に別の人の方を向く。



2019年の6月末、別のバイト先の先輩と2人で飲みに行った。私よりずっと年上の、長くそこに勤めていた男の先輩だった。彼はもうすぐ辞めることになっていて、せっかくだからと誘われ2人で飲みに行った。

彼とはサシ飲みどころか同じ飲み会に参加したこともなかった。だから私は彼がどのくらい飲めるのかとか、酔ったらどうなるタイプなのかとか、そんなことは何も知らなかった。

彼はカクテルを4杯か5杯くらい飲んだ。それでへべれけになっていたからそんなに強くはなかったんだと思う。「ちょっと飲みすぎた」と店を出る時本人は言っていた。

店を出てエレベーターを待っているとき、肩に手を置かれた。その時既に呂律は回っておらず会話は上手くいかなかった。
4人くらいしか乗れないような小さなエレベーターだった。エレベーターに乗り、扉が閉まった瞬間、肩を掴まれた。彼の顔が息のかかる距離にあった。

その日から、私はそのバイト先の飲み会は全て断るようになった。

今その日のことを思い出しても吐きそうになるし、酔っぱらった男性を見るとそれが赤の他人だろうと身が竦む。でもこういう経験をしているかどうかは関係なく、酔っ払いが怖いと言う人が多いということを私は知っている。私自身も子供のときから酔っ払いは怖い。というか酒に限らず、いつもはちゃんとした人が言語の通じない状態になってしまうことが怖いのかなと思う。

でも、だけど、あの日一緒に飲みに行った先輩を私は心から尊敬しているんだ。それなのに、彼がこちらに手を伸ばすだけで身体に触れられるんじゃないかと怯えてしまう。彼のことを信頼しているのに、そんな事しないって分かっているのに、ずっと心臓の辺りが冷たい感じがして、機嫌の悪い父親を前にしたときみたいな言い様のない恐怖感がずっと身体にまとわりついていた。


もう大丈夫だと思っていた。軽々しく人に話せる経験ではないが、前は口にすら出来なかったその人の話を今はすることが出来るし、もう傷は癒えたと思っていた。でも、案外そうでも無いらしいということが今日(2020年2月)分かってしまった。嫌な感覚だ。もう少し経てば大丈夫になるかもしれないが、もしこれが一生続くのだとしたら、あの人は私に対してとんでもないことをしでかしてくれたもんだと思う。トラウマってこういうことを言うのだな。

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