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せいかつの軌跡(37)

芸術家の友人の家に遊びに行った。

狭い住宅街の路地を通り、竹や雑木に囲まれた細くて薄暗い道を、奥へ奥へと進んでいく。本当にこの先に目的地はあるのか?少し不安を感じ始めた頃、パッと視界が開けて休耕田の間に建つ古民家が見えた。

車から降りると、白毛の大型犬が待ってましたとばかりに飛びついてきた。お客さんが来て嬉しくなるのは、うちの子達と同じだ。納屋から出てきた友人はいつものように素敵なチョッキを着ていた。分厚い外国製のウールと絣のような生地を組み合わせたそれは、彼のパートナーの作品。彼の身体の一部のように、ぴったり似合っている。彼は突然私の写真を二、三枚撮り、ニカッと笑った。先週新しいカメラを買ったばかりだそう。

珈琲を頂きながら、彼の暮らしや半生にいついて色々とインタビューした。

「上手くいかなくなると土地のせいにして、あちこち移動して暮らしている時期があった。遊ぶ金は無かった。」

「友人とものづくりをしている時、ふと悟った。何かを作っている時が、自分の一番の幸せな瞬間だと。その時、私は芸術家として食べていくと決めた。」

「いつも何か作ってる。もう、中毒だっちゃ。」

「欲しいものはまず、自分で作ってみる。プロの美しい完成品より、自分のヘタな作品がいい。それが僕のポリシー。」

話を聞きながら、この先五年、十年のうちに何度か彼の言葉を思い出す時が来るんだろうな、と思った。私は人の言葉を理解するのに、いつもものすごく時間がかかる。

彼らの家はキッチンもテーブルも、あらゆるものが彼らの手作り。壁には日本のレトロな看板やヨーロッパの執事が使っていたという鏡など、様々な物語を持ったモノ達が大勢住み着いている。この家自体が、彼らの作品なのだと思った。

別れ際に彼はCDをたくさん貸してくれた。近いうちに返しに来ますと言うと、
「その為に貸してるんだっちゃ。」
と言ってまたニカッと笑った。

帰り道の途中で、コロッケとアジフライを買った。夕飯にそれらを食べながら、ツキイの今日の話を聞く。

月「今日学校でね、男子に変なあだ名つけられたー。」

み「へー。どんなの?」

月「山のオオカミ、だって。でも、よかった。わたし、オオカミ好きだから。」

山のオオカミ。
そんなカッコイイあだ名、私も欲しい。


よろこぶ子胸に絵描いて昇る月 
今日はコロッケ、アジフライ買う


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