それって、男女の友情? 色恋? 敬愛? -第4幕-

★自分が大切にされたいなら、まず、相手を大切に★


◆2回目のディナー翌日 → 3回目のディナー前日

 2回目のディナーの翌日、僕は前日から彼女に思っていたことをメッセージでつづった。
「おはよう。サキさんには正直でいたいから、いまの僕の気持ちを言います。昨日、サキさんと会ったばかりなのに、一晩明けて、心が満たされていないという気持ちです。最初に会ったとき、2回目に会ったときは、すごくモチベーションが上がったのに…
 これは勝手な言い分なんだけど、昨日会ったとき、僕がサキさんに会いたかった理由を、サキさんが最初に聞いてくれなかったからかもしれないと思っている。誤解しないでほしいのは、決して、サキさんを責めている訳ではなく、そもそも、こんなことをサキさんに求めてはいけないのかな?ということ。初めて会ったとき、サキさんの価値観と包容力に感動して惹かれたんだけど、もしかして、サキさん、僕に合わせて無理してない?」

その夜、彼女からメッセージが届いた。
「おはようございます😊
 そうなんですね、ごめんなさい、気が付かなくて😞
 私はタクヤさんの前だとすごく安心できて、素でいられるなーと思っていました。全く無理しているとかはないですよ😊」

すぐに、僕は返事を返した。
「やっぱり、しばらく会えないからこんな風に思ったのかなぁ...😞
 でも、サキさんの短い言葉から改めて伝わって来たよ。相手の気持ちを深く考える人だってことを。やっぱり、サキさんは僕に欠かせない女性です。たまに、こんな理由の分からないことを言う僕だけど、これからも付き合ってね。
 今度会ったとき、腕組んて歩きたいけど、ダメかなぁ? 」

次の日、彼女はこう言った。
「ちょっと先ですもんね😊
 もちろんです。よろしくお願いします😊
 はい、ちょっと恥ずかしいですけど良いですよ♪ 」

この返事を聞いたとき、僕は、ふと思った。
 僕は彼女をどういう存在として見ているのだろう...
 同じ価値観を持った異性の話し相手?
 それとも恋愛相手?

こんなことを考えながら、出張先へ向かった。

その晩、出張先のホテルから彼女へメッセージを送った。
「サキさん、こんばんは。
 今日は、どんな一日だった?
 今の現場は作業員として会社の人が来てくれていて、前のとき、僕が彼らをすごく大切にしたから今回は僕が大切にしてもらっているんだ。大切にされるのって、とっても心地が良いし、すごく幸せな気持ちになるよね。会社のみんながこうだったら良いのに...」

僕はこのメッセージを送信したあと、彼女と出会いを思い出していた。

 僕がパパ活を始めたきっかけは、研修を担当した新入社員との関係が上手くいかなかったことだった。でも、本当の理由はそこではなかったと気づいた。というのも、僕がいる会社は、はっきり言って「思いやり」が足りない。誰かのために自分から率先して何かをしてあげよう、という意識がとても低い。だから、さりげない声掛けなんて皆無に近い。

 僕自身は、まわりの人たちを気遣い、声を掛け、大切にしたいといつも思っている。むしろ、それをやらないと気が済まない。でもこれって、気づかないうちに莫大なエネルギーを使っているので、そのエネルギーが不足してくる。じゃあ、そのエネルギーの補充はどうやっているかというと、一番大きい補給源は「相手からの感謝」なのです。

 ところが、気遣いがたっぷり詰まった仕事を相手に届けても「ありがとう」という一言で終わってしまうと、自分のことを大切にされていないと感じてしまい、どんどんエネルギーを消耗してしまう。そして、エネルギーを完全に使い切った出来事が新入社員からの言葉だったのだ。

さて、話しを僕と彼女のやり取りに戻すとしよう。

1日あいだを空けて、彼女からメッセージが届いた。
「おはようございます😊
 昨日は会社で午前中メールが使えなくて、ちょっとだけバタバタしていました💦
 そうなんですね!
 素敵ですねー😊✨
 私もそういうお互い様というか、思いやる気持ちすごく大事だと思います✨
 自分のしたことって返ってきますよね😊」

 彼女が僕のことを理解し、寄り添い、大切にしようとしていることが、この言葉からたっぷり伝わってくる。このメッセージを読んだ瞬間、僕は冗談抜きで涙目になってしまった。僕は心のエネルギーが満タンになるのを感じながら、彼女との3回目のディナー当日を迎えた。

◆3回目のディナー当日
2023年8月7日(月)

 先週末に出張先から帰ってきて、今日は彼女との3回目のディナーだ。
今回のお店は松阪牛の焼肉。かなり、奮発したつもり。ということで、前回と同じところで待っていたら、彼女からメッセージが届いた。
「お疲れさまです😊
 すみません、少し残業があってギリギリになりそうです💦
 地下鉄の出口からお店近そうなので、お店待ち合わせでも大丈夫ですか?😣」

僕は“またか”と思いながら、格好よく、こう返した。
「大丈夫だよ。たぶん、正面口に出て来ると思うから、そこで待ってるね」

僕が待ち合わせ場所から歩いて移動していると、彼女がこう言ってきた。
「すみません💦
 地図見たら地下街からが近そうだったのでそこから行こうと思います!
 30分頃にはお店つけると思うので、暑いので先お店入っててください😊 」

 今日のお店は駅から少し離れた場所だったので、その道中を彼女と話しながら歩きたいと僕は思っていたから、この彼女の気遣いは逆に悲しかった。だから、僕は最後の抵抗として、こう返信した。
「じぁ、お店の前で待ってます」と。

 彼女が到着するまで少し時間があったから、僕はのんびりとお店まで歩くことにした。このあたりを歩くのは、何年ぶりだろう? 15年? いや、20年ぶりかな? なんて思いながら歩いていた。

 夏休みということも理由なのか人通りが多く、脇道へ曲がろうとする車が横断歩道を渡る人の流れが途切れるのをガマンしているのを眺めながら、僕は彼女が現れるのを待った。

しばらくすると、彼女が声を掛けてきた。
「お待たせしました。暑かったでしょう」と。

僕は彼女をお店へ案内しながら、待っているあいだに気になっていた目の前のおにぎり屋さんの話しを切り出した。
「このお店、おにぎりの専門店なんだね。サキさんは、どんなおにぎりが好きなの?」

彼女は意外にもこう答えた。
「わたし、何も入っていない塩むすびが好きなんです」

お米の味がよく分かる塩むすびという選択。勝手に嬉しくなって、僕はこう返した。
「今日食べるお肉もそうだけど、素材の良さを楽しむなら味付けはシンプルな方がいいよね」と。
僕は本心でこう思っているから、ますます彼女のことが気に入ってしまった。

 そんなことを話しながら、僕たちはお店に入った。コース料理を予約していたので、店員さんが説明をしてくれ、前回と同じ焼酎のソーダ割を注文したのだった。

 料理がテンポよく運ばれてくるなか、僕は出張の話しから彼女へ始めた。
ドラマや映画の話しなど途切れることない会話が続き、あっという間に2時間が経ってしまった。

 お肉を食べて大満足な彼女とお店を出て、すっかり暗くなった街を歩きながら、僕は少し落ち着かなかった。なぜなら、いつ、彼女に腕組みのお願いを切り出そうかと思っていたからだ。

そんな思いを抱えながら、はじめての横断歩道を渡ったところで、僕は思い切って彼女へこう言った。
「サキさん。この前、サキさんにお願いしたこと憶えてる?」と。

彼女は「えっ、何でしたか?」と返してきた。

僕はひと呼吸おいて「腕組みしたいって、お願いしたよね」と彼女に言った。

すると彼女は、何のためらいもなく「いいですよ!」と言って、さっと僕に腕を絡ませてきた。

 腕組みして歩くなんて何年ぶりだろう。このどきどき感はヤバイ! いまの僕は、彼女を完全に恋人だと思っている。その気持ちを伝えたくて、僕は彼女に言った。「いつまでも、こうしてたいなぁ」と。

彼女はちょっと照れながら「本当ですか? 嬉しいです」と言ってくれた。

 少しでも長く彼女と一緒にいたくて、僕は彼女が乗る地下鉄の改札口まで腕組みをしたまま一緒に歩いた。そのとき、僕は大切なことを忘れていることに気がついた。それは、お手当てを渡していないことだった。

 僕はあわてて背負っていたリュックからポチ袋に入ったお手当てを取り出し、彼女へ渡した。そのときの彼女の言葉が、今日の僕をさらに幸せにした。その言葉とは「私も楽しくて、すっかり忘れてました」だった。

彼女に別れを告げた僕は、電車の中でさっそくメッセージを送った。
「今日は、ありがとう。
 サキさんに2歩も3歩も近づけた気がします😊
 気をつけて帰ってね」

すぐに彼女から返事が届いた。
「こちらこそありがとうございました😊
 お肉すっごく美味しかったですね〜✨
 久しぶりにタクヤさんに会えて嬉しかったです♪
 タクヤさんも気を付けて帰ってくださいね😊」

こうして僕たちの3回目のディナーの幕が閉じた。

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