77.チームつくば(1)
2019年10月26日。
私にとって、3回目の箱根駅伝予選会がやってきた。
1年目は、ひとりぼっちだった。応援の勝手がわからず、筑波大学のユニフォームさえ知らず、混乱しているうちに選手たちが走り去っていった。圧倒的敗北だった。
2年目も、ひとりぼっちだった。ネットで知り合った筑波大の卒業生さんが心の支えだった。はじめて「みんなの原っぱ」に行き、筑波大学の小さな陣地にショックを受けた。
そして3年目。
JR立川駅に降り立った私は、やはりひとりぼっちだった。
でも、過去の2年間とは違う。私には、応援仲間がいる。
相馬崇史くんの鉛筆画を描いてくれたkeikaさんは、遠い広島の地から応援してくれている。
5年間隠れ筑波大ファンをしてきたYさんは、カメラを携え立川参戦。撮影スポットを探して駆けずり回っているから、実際に会えるのはレース後、結果発表が行われる「みんなの原っぱ」だ。
それ以外にも、筑波大を応援してくれる皆さんがたくさんいる。
結局ぼっち参戦ではあるけれど、「ひとり」じゃない。
私たちは、チームつくばだ。
体に力がみなぎった。
クラファンTシャツの上にしろたんパーカーという、どうにも怪しげないでたちで、立川駅から予選会会場に向かう。
背中のリュックには「はこねえきでん手ぬぐい」をかぶったしろたん「いだてんまぁる」が、やる気満々で待機している。それから、2本のジングルスティック。午後のキネカ大森で使用するものだけど、周りの雰囲気を見て大丈夫そうだったら振っちゃおう。沿道応援の注意書きに鳴り物禁止とは書いてなかったし(実のところ、そんな余裕はゼロだった(笑))。
今回も、警視庁が当時発表した交通規制のお知らせ図で、予選会のコースを紹介しよう。
この年のコースは、陸上自衛隊立川駐屯地内を2周半したのち公道へ。昭和記念公園の北側、砂川口から公園に入り園内を1周、みんなの原っぱ東端がゴールだ。もう少し詳しい地図がスポーツ報知さんの記事に掲載されているので、こちらも参考まで。
私が降り立った立川駅は、地図の右下方向にある。
駅から向かい、手前のセブンイレブンで飲料などを調達。3年目ともなると、前回・前々回の反省を踏まえ、公園内に入る前の準備もバッチリだ。公園の一番東南にある、あけぼの口から入っていく。
いきなり大きな看板が目に入る。予選会の看板ではない。このエリアにある「ゆめひろば」で10月18日から開催されている、「肉フェス(R)︎︎国営昭和記念公園2019」の看板だった。
肉フェス…!そんな魅力的なイベントが!!!
しかし今日は無理だ。レース観戦後はインド…もとい、大森へダッシュしなければならない。くそぅ、残念すぎる…。
後ろ髪を引かれながら、ゆめひろばのエリアを通り抜けると、車道の上に陸橋が架かっていた。「みどり橋」と言うらしい。橋を渡ると、公園のゲートが見えてきた。
筑波大学の幟を探す。3年目は勝手がわかっているから不安はない。OB会や保護者会など団体で対応している大学もあるが、筑波大はきっと学生さんが一人か二人で立っている。
今回はSNSでも案内してくれていた。
2年前、事前情報を流す余裕さえなかったプロジェクトの状況を思うと、学生さんたちの意識の高さは桁違いだ。
すぐに、クラウドファンディングで作った筑波紫の幟と、フューチャーブルーの幟を持った二人の学生を発見した。
2年生の岡島広周くんと1年生の坂見一将くん(いずれも当時)だった。
挨拶をして、例によってしろたんを押し付け、記念撮影をする。
今回の二人はニコニコ顔で写ってくれた。こんな怪しいサポーターでゴメンよ(汗)。快く撮影に応じてくれてありがとう!!!
彼らの背後には、白い雲が後光のように広がっていた。いい天気になりそうだ。
関係者用の入場券を出そうとする二人に「いえいえ大丈夫です(だって部外者だし)」と辞退し、入場券を買って公園内に入る。
歩きながら、今朝のTwitter記事を思い出していた。
朝7時、当日の出走メンバーが発表されていた。
各チームとも、予選会にエントリーした14人のうち、じっさいに走るのは12人である。
出走メンバーの中に、駅伝主将の大土手くんの名前はなかった。
資格記録が下位だったこともあり何となく予想はしていたが、本人の気持ちを思うと胸が苦しかった。
このtweetに、大土手くんが引用コメントを付けていた。
ずっと後になって、当時のプロジェクトメンバーが告白している。
「大土手主将は厳しかった。怒られた覚えしかない。」
主将に立候補してから3カ月あまり、公私に渡り、皆を叱咤激励してきた。
また、9月の熊本での選抜合宿では、この年放映されていた大河ドラマ「いだてん」効果もあって、合宿先でテレビや新聞の取材が入った。このときの対応は、すべて大土手くんが引き受けたという。他のメンバーが練習に専念できるようにするためだ。それが、彼の主将としての矜持だった。
熊本は大土手くんの地元だったから、地元応援者の方々の、大土手くんに対する出走期待も大きかったと思う。
短いつぶやきの中に、本人の落胆のすべてが詰まっていた。
このとき、私の心の内に確信にも似た不思議な感覚が沸き上がった。
今日、筑波大学は予選会を突破するんじゃないか。
だって、箱根の神様が大土手くんを走らせないわけがない。
プロジェクトメンバーの個人アカウントには、なるべくコメントを付けないポリシーだったが、この時思わずコメントを付けた。
みんなが、そして箱根の神様が、大土手主将を箱根に連れて行ってくれる。
必ず。
根拠のない、謎の高揚感を覚えながら、私はスタート地点の立川駐屯地内に向かった。