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57.円陣の中に
競技場には、学生さんたちが集まり始めていた。
いつもならもっとにぎやかなのだろう。部外者が訪れていたことで、少し緊張した空気が流れていた。
みな、三々五々にウォーミングアップを始めていた。私にとっては初めて見る光景だ。いったいどういう効果がある運動なのか。興味津々で彼らの様子を眺めた。
うむ、スウェーデン体操でないことは確かだ(それは「いだてん」に出てきた永井先生ね)。
16時を過ぎたころ、学生さんたちは弘山さんやコーチ陣とともに丸い陣形を取って、練習前のミーティングを始めた。
弘山さんが私のことを説明している。
「以前話した、メールをくださったクラウドファンディング支援者の方が、来てくれました」
弘山さんに送ったメールのことも、学生さんたちに伝えてくれてたんだ…。
ありがとうございます。
紹介されて、円陣の中に加わった。緊張する。
こんにちは!
私は、話し始めた。
そのときの要約である。
■私は何者か
箱根駅伝予選会のとき、案内係さんに謎のぬいぐるみ持たせて記念撮影してた者です。あの時は怖い思いをさせてゴメンナサイ。
■クラファンをしようと思ったきっかけ
タキシード仮面が困っていたから。(陸上のことはほとんどわかりません)
■このプロジェクトのすごいところ
弘山さんの知と技で、プロジェクトの存在がインターネットの大海を渡って陸上に全く縁のなかった私のもとまで届いたこと。そして自分がいまここにいること。
■絵を贈ろうと思った理由
皆さんがもっと頑張るっていうから、私もお金だけじゃなくてもっと応援したいなと思ったから。(だからって絵を贈るってどうなん…)
■絵について
相馬くんが出場した第95回箱根駅伝をきっかけに、鉛筆画家のkeikaさんとネットで知り合いました。参考にした写真を撮ったアフロスポーツだけでなく、関東学生陸上競技連盟と読売新聞にも許可をもらって制作してもらってます。マグカップつくるとか、そういう商売には使わないでください。
■今後について
ネット上でもっとがんばって筑波大学を応援します。
今思い返すと、この内容をいきなり聞かされて、学生さんたちが理解できたとは思えない。表情は思い出せないのだけど、たぶんポカンとしていたと思う。
(タキシード仮面ってどっから出てきたんだよ、って人は、この連載を最初から読んでね(笑))
救いは、円陣に加わっていた山田里美アシスタントコーチ(かつて資生堂ランニングクラブでコーチとして活躍されていた、セーラーヴィーナス)だった。終始微笑を浮かべ、うなずきながら聞いてくださっていて、その笑顔にすがって何とか話し終えた。
もとにした写真と、制作した絵とを紙袋から取り出して掲げたとき、「おおぉ~!!!」と円陣にどよめきが起きた。
その絵を、相馬くんに手渡した。
相馬くんは、受け取った絵を、感慨深げな表情でいつまでも眺めていた。走った当日のことを思い出していたのだろうか。
次回は、チームで箱根を走ろう。
絵と共に、差し入れもお渡しした。
(画像は上記サイトから引用)
馬のひづめに付ける蹄鉄をかたどった、縁起物のお菓子である。西洋では、馬蹄を玄関のドアに掲げておくと幸運を呼び込むという伝承がある。
筑波大学は留学生が多いし、逆に、卒業して世界に飛び出していく人もいるだろう。小さなことだけれど「他の文化圏の風習や習慣」の知識は、相手との距離を縮めるきっかけになってくれるかもしれない。
そして、蹄鉄を付けた馬のように、皆これからのレースを軽やかに疾走してほしい。そんな様々な願いを込めて贈った。
選んだときは、我ながらいい思い付き!ってご満悦だったんだけど、厳しい栄養管理してるアスリートにお菓子を贈るって…
絵を贈る思い付きといい、陸上シロートの「いい思い付き」が明後日方向すぎて、ことごとくヤバイ。