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失業手当だけでない 雇用保険から受けられる給付

雇用保険は、会社勤めなら雇用保険料を支払っている方がほとんどなのですが、実際に給付を受ける機会はそう多くありません。
そのため、あまり知られていないのが実態なのではないでしょうか。
いわゆる失業手当のほかにどのような給付が受けられるのか、今後の改正予定も含めてお話しします。


1 雇用保険とは


雇用保険は、労働者が失業した場合や育児・介護休業を取る場合などに、生活の安定と再就職の促進を図るための制度です。
また、失業予防・雇用状態是正・雇用機会増大、労働者の能力の開発・向上・労働者の福祉の増進を図る事業も実施しています。
 
(1)適用対象
雇用保険は、原則としてすべての労働者が対象です。
ただし、週の所定労働時間が20時間未満(注1)の人や、31日以上継続して雇用される見込みがない人などは適用外となります。
 
(注1)2028年10月1日から、週所定労働時間が20時間未満から10時間未満に変更されます。
 
(2)保険料
労働者と事業主がそれぞれ負担します。
2024年度の失業等給付等の保険料率は、労働者負担、事業主負担ともに6/1,000です。
 
次章からおもな給付内容について個別にお話ししていきます。

2 失業等給付の基本手当


雇用保険の被保険者が、失業中の生活を心配せずに新しい仕事を探し、早期に再就職するために支給されるものです。
 
(1)基本手当の概要
基本手当は、被保険者が失業した場合に支給されるもので、つぎの条件を満たす必要があります。
 
①離職前の2年間に被保険者期間が通算して12カ月以上あること(特定受給資格者(注2)や特定理由離職者(注3)の場合は6カ月以上)
 
(注2)倒産・解雇等による離職者
(注3)特定受給資格者以外で期間の定めのある労働契約が更新されなかった離職者
 
②働く意思と能力があり、積極的に求職活動を行っていること
 
(2)給付額
雇用保険で受給できる1日当たりの金額を基本手当日額といいます。
離職した日の翌日から原則1年間、基本手当日額が所定給付日数を上限に支給されます。
 
①賃金日額の計算
離職前6カ月間の賃金総額を180で割った金額が賃金日額となります。
 
②基本手当日額の計算
賃金日額に給付率(50%~80%)を掛けた金額が基本手当日額です。
給付率は年齢や賃金額によって異なります。
 
なお、自己都合離職の場合は原則2カ月間、受給できない期間(注4)があります。
 
(注4)2025年4月1日から、離職期間中や離職日前1年以内に所定の教育訓練を行った場合には、給付制限がなくなります。
 
③所定給付日数
所定給付日数は、被保険者期間や離職理由によって異なります。
一般的な離職の場合は90日~150日です。
特定受給資格者の場合は90日~330日です。
 
(3)受給手続き
 
①ハローワークでの求職申込み
離職票を持参してハローワークで求職の申込みをします。
 
②受給資格の決定
ハローワークで受給資格が確認されます。
 
③失業認定
4週間ごとにハローワークで失業の認定を受ける必要があります。
 
(4)受給中の注意点
受給中は、積極的に求職活動を行い、ハローワークの指示に従う必要があります。
不正受給が発覚した場合、返還を求められることがあります。

3 就職促進給付


就職促進給付は、失業者の早期の再就職を支援するための給付金です。
 
(1)再就職手当
基本手当の受給資格者が安定した職業に就いた場合に支給されます。
支給条件は、基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上あることです。
支給額は、支給残日数に応じて、基本手当日額の60%または70%です。
 
(2)就業促進定着手当
再就職手当を受けた人が、再就職先で6カ月以上雇用され、賃金が低下している場合に支給されます。
支給額は、離職前の賃金日額と再就職後の賃金日額の差額に基づいて計算されます。
 
(3)就業手当
基本手当の受給資格者が、常用雇用以外の形態で就業した場合に支給されます。
支給条件は、基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上かつ45日以上あることです。
支給額は、就業日数に応じて、基本手当日額の30%です。
なお、就業手当は2025年4月1日に廃止されます。

4 育児休業給付


育児休業給付は、雇用保険の被保険者が育児休業を取得した場合に支給されます。
生活の安定を図りつつ、育児に専念できるようにするための制度です。
 
(1)支給要件
 
①育児休業開始前の2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12カ月以上あること
 
②育児休業期間中に就業していないこと(一定の範囲内での就業は可能)
 
(2)支給額
育児休業開始から180日間は、休業開始時賃金日額の67%(注5)が支給されます。
181日目以降は、休業開始時賃金日額の50%が支給されます。
 
(注5)2025年4月1日から、つぎのとおり育児休業給付と合わせて80%へ引き上げられます。
【要件】男性は出生後8週間以内、女性は産後休業後8週間以内に、被保険者と配偶者の両方が14日以上の育児休業を取得する
【支給内容】最大28日間、休業開始前賃金の13%相当額を給付する
 
(3)支給期間
原則として、子が1歳になるまでの期間が対象です。
ただし、保育所に入所できない場合などは、最長で2歳まで延長可能です。
 
(4)注意点
育児休業給付金を受給するためには、育児休業期間中に一定の範囲内での就業が認められています。ただし、超過すると給付金が減額または不支給となる場合があります。
不正受給が発覚した場合、返還を求められることがあります。
 
なお、2025年4月1日から、育児時短就業給付を創設されます。被保険者が2歳未満の子を養育するために時短勤務をしている場合の新たな給付です。

5 介護休業給付


介護休業給付は、雇用保険の被保険者が家族の介護を理由に介護休業を取得した場合に支給されます。
介護に専念できる環境を整えるための制度です。
 
(1)支給要件
 
①介護休業開始前の2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12カ月以上あること
 
②介護休業期間中に就業していないこと(一定の範囲内での就業は可能です)
 
(2)支給額
介護休業開始時賃金日額の67%が支給されます。
 
(3)支給期間
対象家族1人につき3回まで、通算93日を上限として支給されます。
 
(4)注意点
介護休業給付金を受給するためには、介護休業期間中に一定の範囲内での就業が認められています。ただし、超過すると給付金が減額または不支給となる場合があります。
不正受給が発覚した場合、返還を求められることがあります。

6 高年齢雇用継続給付


高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満の労働者が賃金の低下を補うために支給される給付金です。
 
(1)高年齢雇用継続基本給付金
被保険者期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の労働者が対象です。
支給条件は、 60歳以後の各月に支払われる賃金が60歳時点の賃金額の75%未満であることです。
支給額は、賃金の低下率に応じて、賃金の15%です(2025度以降は10%)。
支給期間は、65歳に達するまでです。
なお、2025年度以降、給付金は段階的に廃止されることが決まっています。
 
(2)高年齢再就職給付金
基本手当を受給した後、60歳以後に再就職し、再就職後の賃金が基本手当の基準となった賃金日額の75%未満である人が対象です。
支給条件は、被保険者期間が5年以上あり、再就職した日の前日における基本手当の支給残日数が100日以上あることです。
支給額は、再就職後の賃金の15%が支給されます(2025年度以降は10%)。
支給期間は、基本手当の支給残日数が200日以上の場合は2年間、100日以上の場合は1年間です。
 
(3)注意点
賃金が75%以上に回復した場合、給付金は支給されません。
不正受給が発覚した場合、返還を求められることがあります。

7 教育訓練給付


教育訓練給付制度は、働く人の能力開発やキャリア形成を支援するために設けられた制度です。
厚生労働大臣が指定する教育訓練を修了した際に、受講費用の一部が支給されます。
教育訓練給付の対象として厚生労働大臣の指定を受けている講座は、教育訓練講座検索システムで検索できます。
 
(1)教育訓練給付の種類
 
①一般教育訓練給付金
対象者は、雇用保険の被保険者期間が3年以上(初回の場合は1年以上)ある人です。
支給額は、受講費用の20%(上限10万円)です。
 
②特定一般教育訓練給付金
とくに労働者の速やかな再就職及び早期のキャリア形成に資する教育訓練が対象となります。
対象者は、雇用保険の被保険者期間が3年以上(初回の場合は1年以上)ある人です。
支給額は、受講費用の40%(上限20万円)(注6)です。
 
(注6)2024年10月1日から、資格取得し就職等した場合、10%が追加で支給されるようになります。
 
③専門実践教育訓練給付金
とくに労働者の中長期的キャリア形成に資する教育訓練が対象となります。
対象者は、雇用保険の被保険者期間が3年以上(初回の場合は2年以上)ある人です。
支給額は、受講費用の50%(年間上限40万円)です。
資格取得後、さらに20%(年間上限16万円)(注7)が追加支給される場合があります。
 
(注7)2024年10月1日から、受講後に賃金上昇した場合、さらに10%が追加で支給されるようになります。
 
教育訓練支援給付金(2025年3月31日までの時限措置)
初めて専門実践教育訓練(通信制、夜間制を除く)を受講し、訓練期間中、失業状態にある場合に支給されます。受講開始時に45歳未満など一定の要件を満たす必要があります。
 
さらに、2025年10月1日から、教育訓練休暇給付金が創設されます。教育訓練受講のための休暇を取得した場合に、基本手当に相当する給付として、賃金の一定割合を支給するものです。
 
(2)支給要件
 
①受講開始日時点で雇用保険の被保険者であること、または被保険者資格を喪失してから1年以内であること
②厚生労働大臣が指定する教育訓練を受講し、修了すること
 
(3)注意点
受講費用はいったん全額自己負担し、あとから給付金として支給されます。
不正受給が発覚した場合、返還を求められることがあります。
 

 
雇用保険にはさまざまな給付メニューがあります。
ご自身の働き方やライフスタイルに合わせて積極的に活用するとよいでしょう。

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