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おトクな販売住宅・賃貸住宅選びに役立つ「建築物の省エネ性能表示制度」

2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。
それに向けた取り組みとして建築物省エネ法が改正され「建築物の省エネ性能表示制度」がスタートしました。
2024年4月から建築物の販売・賃貸を行う事業者は、所定のラベルを使って省エネ性能を表示することが努力義務となっています。
「建築物の省エネ性能表示制度」とはどういうものか、一般消費者にどのようなメリットがあるのかなどについてお話しします。


1 建築物の省エネ性能表示制度の目的

 
①消費者の意識向上
消費者が建築物の省エネ性能を理解し、比較・検討できるようにして、省エネ性能の高い建築物を選択するよう促すものです。
 
②環境保護
省エネ性能の高い建築物の普及を促進してエネルギー消費量を削減し、二酸化炭素(CO2)の排出量の減少を目指しています。
 
③経済的メリット
省エネ性能の高い建築物は光熱費の削減につながり、長期的な経済的メリットを提供することになります。
 
④市場の透明性向上
建築物の省エネ性能を明確に表示して市場の透明性を高め、消費者が適切な選択を行えるようにします。

2 建築物の省エネ性能表示制度の概要


建築物の省エネ性能表示制度は、建築物の省エネ性能を評価し、その結果を表示する制度です。
消費者が建築物の省エネ性能を把握し、比較・検討できるようにすることを目的としています。

(1)対象となる事業者


住宅・建築物を販売・賃貸する事業者は、広告等に省エネ性能ラベルを表示することが努力義務となりました。
表示をしない事業者は勧告等の措置の対象となりますが、当面は社会的な影響が大きい新築に対して実施する予定とされています。

(出所)国土交通省「建築物省エネ法に基づく省エネ性能表示制度事業者向け概要資料」を加工

(2)対象となる建築物


2024年4月1日以降に建築確認申請を行う新築建築物が対象です。
その物件が、同時期以降に再販売・再賃貸される場合も含みます。
注文住宅やウィークリーマンションなどの販売または賃貸する用途でない建築物、自社ビル、民泊施設は対象外です。

(出所)国土交通省「建築物省エネ法に基づく省エネ性能表示制度事業者向け概要資料」を加工

 
既存物件(2024年3月以前に建築確認申請を行った物件)は対象外です。
ただし、省エネ性能が評価されている場合には表示することが望ましいとされています。

(3)発行物


①省エネ性能ラベルおよび②エネルギー消費性能の評価書がセットで発行されます。
 
①省エネ性能ラベル
ポータルサイトやチラシ等の広告に使用するラベル画像です。
建築物の省エネ性能を星の数や数値で表示するラベルで、エネルギー消費性能や断熱性能などが評価されます。
 
【サンプル】

(出所)国土交通省のウェブサイト

 
②エネルギー消費性能の評価書
建築物の概要と省エネ性能評価を記した保管用の証明書です。
省エネ性能の詳細な評価結果を記載した書類で、消費者が建築物の省エネ性能を詳しく理解するための資料となります。
 
【サンプル】

(出所)国土交通省のウェブサイト

(4)発行方法


省エネ性能表示制度の発行物には、自己評価と第三者評価の2つの発行方法があります。
 
①自己評価
販売事業者や賃貸事業者が自ら、国が指定するWEBプログラムや仕様基準に沿って建築物の省エネ性能を評価する方法です。
事業者が自ら評価を行い、省エネ性能ラベルや評価書を作成します。
手続きが比較的簡単で迅速に評価結果を得られる一方、評価の信頼性が第三者評価に比べて低い場合があります。
 
②第三者評価
第三者評価とは、第三者の評価機関に依頼して建築物の省エネ性能を評価してもらう方法です。
事業者が評価機関に申請し、評価機関が建築物の省エネ性能を評価し、省エネ性能ラベルや評価書を発行します。
ラベルや評価書にBELS(ベルス)マークを表示できます。
評価の信頼性が高く消費者に対して信頼性のある情報を提供できる一方、手続きに時間がかかる場合があり費用も発生します。

3 省エネ性能ラベルおよびエネルギー消費性能の評価書の利用場面と表示内容 

(1)利用場面 


①広告媒体への掲載
省エネ性能ラベルを掲載する広告媒体にはつぎのようなものがあります。
• インターネット広告
• 新聞/雑誌広告
• 新聞折り込みチラシ
• パンフレット
 
ラベルは、視認性に配慮し、一定のサイズを下回らないように掲載します。
誌面広告の場合、横幅60mm程度が目安となります。
なお、ラベルを掲載するスペースの制約がある紙面広告(目安:A4サイズ相当以下)には必ずしもラベル掲載の必要はありません。
 
②接客時・契約時の説明
販売・賃貸事業者や仲介事業者が顧客と商談・契約・引き渡する際、評価書を用いた省エネ性能の説明が望ましいとされています。

(2)省エネ性能ラベルの表示内容


省エネ性能ラベルの表示内容により、消費者は建物の省エネ性能を総合的に評価し、選択する際の参考にできます。
建築物の種類によって表示内容が異なるため、使用する省エネ性能ラベルも異なります。

(出所)国土交通省「建築物省エネ法に基づく省エネ性能表示制度事業者向け概要資料」をもとに作成

 
①エネルギー消費性能
国が定める省エネ基準からどの程度消費エネルギーを削減できているかを見る指標(BEI)を、星の数で示します。
建物の省エネ性能を一目で把握できます。
 
②断熱性能
建物からの熱の逃げにくさと建物への日射熱の入りやすさの2つの点から建物の断熱性能を見る指標です。
建物の断熱性能を評価し数値で表示します。
断熱性能が高いほど、冷暖房効率が良くなり、快適な室内環境を維持できます。
 
③目安光熱費
年間の光熱費を目安として示します。
住宅の省エネ性能にもとづき算出された電気・ガス等の年間消費量に、全国統一の燃料等の単価を掛け合わせて算出します。
消費者は建物のエネルギー効率を経済的な観点から評価できます。
 
④自己評価・第三者評価の別
省エネ性能の評価が販売・賃貸事業者による自己評価か、評価機関による第三者評価かを示します。
第三者評価は信頼性が高く、消費者にとって安心材料となります。
 
⑤建物名称
省エネ性能の評価対象がわかるように物件名を設定します。
必要に応じて、棟名や部屋番号も掲載します
どの建物が評価対象であるかが明確になります。
 
⑥再エネ設備あり・なしの別
再エネ設備(太陽光発電・太陽熱利用・バイオマス発電等)が設置されている場合に「再エネ設備あり」と表示できます。
再エネ設備がある場合、さらに省エネ性能が向上することがわかります。
 
⑦ZEH水準
ZEH水準を満たしているかどうかを表示します。
エネルギー消費性能が☆ 3つ、断熱性能が5以上で達成のチェックマークがつきます。
ZEH水準を満たす建物は、年間の一次エネルギー消費量が正味ゼロとなることを目指しています。
 
⑧ZEB 水準
ZEB水準を満たしているかどうかを表示します。
エネルギー消費性能が事務所等の用途は☆5つ、病院等の用途は☆ 4つで達成となります。
国の誘導基準でもあります。
 
⑨ネット・ゼロ・エネルギー
ZEH水準またはZEB 水準の達成に加え太陽光発電の売電分も含めて年間のエネルギー収支がゼロ以下で達成のチェックマークがつきます。
建物がどれだけエネルギー効率に優れているかを示します。

⑩評価日
評価された省エネ性能がいつ時点のものかを示します。

4 建築物の省エネ性能表示制度が一般消費者にもたらすメリット


建築物の省エネ性能表示制度により消費者が省エネ性能の高い建築物を選ぶことは、経済的にも環境的にも賢明な選択となります。
 
(1)光熱費の削減
省エネ性能が高い建築物はエネルギー効率がよいため、冷暖房や照明などの光熱費を削減できます。
その結果、長期的な生活費の節約が期待できます。
 
(2)快適な居住環境
省エネ性能が高い建築物は断熱性能や気密性能が優れているため、夏は涼しく冬は暖かい快適な居住環境を提供します。
また、結露やカビの発生リスクも低減されます。
 
(3)健康への影響
快適な室内環境は健康にもよい影響を与えます。
高齢者や小さな子供がいる家庭では、室温の急激な変化が少なくなり健康リスクの軽減が見込めます。
 
(4)環境への貢献
省エネ性能が高い建築物はエネルギー消費量が少ないため、二酸化炭素(CO2)の排出量を削減して環境保護に貢献できます。
その結果、持続可能な社会の実現に寄与します。
 
(5)資産価値の向上
省エネ性能が高い建築物は、ゆくゆくは資産価値が高まる可能性があります。
エネルギー効率のよい建物は購入者や借り手にとって魅力的であり、売却時や賃貸時に有利です。
 
(6)補助金や税制優遇
省エネ性能が高い建築物には補助金や税制優遇が適用されることがあります。
適用を受ければ初期投資の負担を軽減し、経済的なメリットを享受できます。
 

 
建築物の省エネ性能表示制度は、環境保護や経済的メリット、住民の健康と快適性の向上などといったさまざまな効果が見込めます。
今後も多方面にわたるポジティブな影響をもたらすことが期待されるのです。
住宅を購入したり賃貸したりする際に検討材料として活用することをおすすめします。

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