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認知症になったときの公的支援と必要金額を知っておく

「認知症」とは、認知機能(記憶、判断力など)が低下して、社会生活に支障をきたした状態をいいます。さまざまな脳の病気により、脳の神経細胞の働きが徐々に低下することが要因です。
アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症が三大認知症と呼ばれ、認知症の大部分を占めています。
 
厚生労働省の研究班の推計(2024年5月)では、認知症の高齢者は、2025年には471.6万人、2040年には584.2万人にのぼるとされています。2040年には高齢者のおよそ15%、6.7人に1人が認知症という計算になるのです。
 
だれもが認知症になる可能性があります。認知症になったらどのような公的制度を利用できるのか、どれくらいの費用を準備しておけばよいのかなどについてお話しします。


1 認知症の相談窓口


わが国は、認知症の予防と共生を重点に置いた政策を推進しています。
認知症発症を遅らせる、認知症の進行を緩やかにする、認知症発症後も希望をもち日常生活を過ごせる社会を目指すというものです。
 
認知症の早期診断や早期治療につなげるために、「もしかして認知症では」と気づいたら、専門家に相談できる窓口があります。
 

(1)地域包括支援センター


住み慣れた地域で暮らすための保健医療や介護に関する相談を行っています。
認知症に詳しい関連機関とも連携して、適切な保健福祉サービスや制度の利用をサポートしています。
すべての市町村に設置されています。市区町村の高齢者福祉担当課に問い合わせるか、厚生労働省のホームページで検索できます。
 

(2)電話相談

 
①「認知症の人と家族の会」が提供する電話相談
0120-294-456(フリーダイヤル)
(携帯電話・PHSの場合は050-5358-6578)。
受付時間:10:00~15:00(土日祝日除く)
 
②若年性認知症専用コールセンター
0800-100-2707(フリーダイヤル)
受付時間:10:00~15:00(土日祝日および年末年始除く)
(注)65才未満の認知症の人や家族向け
 
③認知症疾患医療センター
認知症に詳しい専門医が在籍しており、認知症に関する相談を受け付けています。厚生労働省のホームページから検索できます。
 

(3)かかりつけ医


それぞれのホームページから検索できます。
 
日本認知症学会専門医
 
日本老年精神医学会専門医
 
医療機関の「もの忘れ外来」

(4)認知症カフェ


地域の人や専門家と情報を共有し、理解し合う場です。問い合わせ先は市区町村の高齢者福祉担当課や地域包括支援センターです。

2 認知症と診断されたときに利用できる公的制度


認知症と診断された場合、つぎのような公的制度を活用できます。
 

(1)障害者手帳


身体に障害がない場合は「精神障害者保健福祉手帳」、身体に障害がある場合は「身体障害者手帳」を申請できます。
公共交通機関の料金割引や税金の控除・減免、再就職の際の障害者雇用枠などが受けられます。
市区町村の障害福祉担当窓口に申請します。
 

(2)生活福祉資金貸付制度


所得が少ない人や障害がある人の生活を経済的に支える貸付制度で、低い金利で借りることができます。
市区町村の社会福祉協議会に申請します。
 

(3)特別障害者手当


精神または身体に著しく重度の障害があり、日常生活で常時特別の介護を必要とする人に支給される手当です。
所得制限があります。
市区町村の障害福祉担当窓口に申請します。
 

(4)日常生活自立支援事業


日常生活自立支援事業は、認知症高齢者、知的障害者、精神障害者などの判断能力が不十分な人を対象としています。地域で自立した生活を送れるように、福祉サービスの利用援助を行う制度です。
 
①相談・申請窓口
市町村の社会福祉協議会で相談や申請ができます。
 
②対象者
判断能力が不十分で、日常生活に必要なサービスを利用するための情報の入手や理解、判断、意思表示が困難な人です。
本事業の契約の内容について判断できる能力があると認められる人である必要があります。
 
③援助の内容
・福祉サービスの利用援助
・苦情解決制度の利用援助
・住宅改造、居住家屋の貸借、日常生活上の消費契約及び住民票の届出等の行政手続に関する援助等
・預金の払い戻し、預金の解約、預金の預け入れの手続等利用者の日常生活費の管理(日常的金銭管理)
・定期的な訪問による生活変化の察知
 
④手続きの流れ
 
㋐利用希望者は市町村の社会福祉協議会に相談、申請(相談)します。
 
㋑市町村の社会福祉協議会は、利用希望者の生活状況や希望する援助内容を確認します。合わせて本事業の契約の内容について判断し得る能力の判定を行います。
 
㋒市町村の社会福祉協議会は、利用希望者の意向を確認しつつ、援助内容や実施頻度等の具体的な支援計画を策定し、契約します。
なお、支援計画は、利用者の必要とする援助内容や判断能力の変化等利用者の状況を踏まえ、定期的に見直されます。
 
⑤利用料
実施主体が定める利用料を利用者が負担します。
訪問1回あたり利用料の平均は1,200円です。
ただし、契約締結前の初期相談等に係る経費や生活保護受給世帯の利用料については、無料となっています。
 

(5)認知症初期集中支援チーム


認知症初期集中支援チームは、認知症の人やその家族を支援する専門家によるチームです。早期診断・早期対応に向けた支援体制を構築することを目的としています。
 
①対象者
40歳以上の在宅生活者であり、認知症が疑われている、または認知症である人が対象です。
医療・介護サービスを受けていない人を中心に支援しています。
 
②活動内容
認知症の疑いがある人の家族から相談を受け、医療職と介護職のペアで自宅へ訪問し、観察・評価を実施します。
認知症患者とその家族をおおむね6カ月間集中的にサポートします。必要に応じて適切な医療・介護サービスに繋げ、自立生活のサポートを行います。
認知症初期集中支援チームのサポートにより、認知機能の低下や介護者の負担の改善といった効果が認められています。

3 介護にかかる費用


生命保険文化センター「2021年度 生命保険に関する全国実態調査」から引用します。
介護に要した費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)はつぎのとおりです。
・住宅改造や介護用ベッドの購入費など一時的な費用の合計は平均74万円
・月々の費用は平均8.3万円
介護を行った場所別の介護費用(月額)は、在宅では平均4.8万円、施設では平均12.2万円となっています。
なお、介護期間は平均5年1カ月です。4年を超えて介護した人も約5割います。
単純計算しても、月額8.3万円×61カ月=506.3万円もかかることになります。
 
預貯金や投資などの金融資産で備えておくことがもっとも効果的ですが、認知症保険などへの加入も考えられます。
また、親が認知症になった場合は、親の資産から費用を賄うのが基本です。子が費用負担したり介護離職をしたりすることはできるだけ避けたほうがよいです。
親が元気なうちに親の資産を把握しておき、場合によっては相続について話し合っておくことも必要でしょう。
 

 
だれもが認知症になる可能性があります。
自分が高齢になって認知症になったときに備えるためにも、利用できる公的制度を知り、費用の準備をしておくことが大事です。


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