クーリング・オフはどのような場合に可能か、手続きはどうするか
クーリング・オフとは、消費者が特定の取引を行ったあとに、一定期間内であれば無条件で契約を解除できる制度です。
消費者が冷静に考え直す時間を確保し、衝動的な購入や不当な勧誘から保護することを目的としています。
クーリング・オフはどのような場合にできるのか、手続き方法などについてお話しします。
1 クーリング・オフの導入経緯と目的
1970年代、訪問販売や電話勧誘販売などの手法が広まり、消費者が不意打ちで高額な商品を購入させられるケースが増加しました。
とくに、百科事典セットや高価な布団などを分割払いで購入させられる被害が多発していたのです。
1972年、割賦販売法の改正により、クーリング・オフが初めて導入されました。
訪問販売による高額商品の分割払い契約に対する消費者保護が目的です。
さらに1976年、訪問販売法(現在の特定商取引法)が制定されました。
訪問販売や連鎖販売取引(マルチ商法)に対するクーリング・オフが導入されたのです。
クーリング・オフのおもな目的はつぎのとおりです。
(1)消費者保護
消費者が不意打ちで契約を結んでしまった場合に、冷静に再考する機会を提供し、不当な契約から保護すること
(2)契約の透明性向上
契約の透明性を高め、消費者が十分な情報を得た上で契約を結ぶことを促進すること
(3)市場の健全化
不当な販売手法を抑制し、公正な取引環境を整えること
2 クーリング・オフできる取引と期間
(1)クーリング・オフできる取引形態、販売方法、期間、適用対象品目
契約は守らなければならないのが原則です。
そのため、例外としてクーリング・オフできる取引は、法律や約款などに定められている場合に限られます。
ほかにも、金融商品や保険、宅地建物の契約などでもクーリング・オフできる取引があります。
(2)クーリング・オフできる期間の起算日
クーリング・オフできる期間は、契約書面または申込書面のいずれか(以下、法定書面)早いほうを受け取った日から始まります。
(3)法定書面に記載が必要な事項
法定書面にはつぎの内容が記載されていなければなりません。
・商品(権利、役務)の種類
・販売価格(役務の対価)
・代金(対価)の支払時期、方法
・商品の引渡時期(権利の移転時期、役務の提供時期)
・契約の申込みの撤回(契約の解除)に関する事項(クーリング・オフができない部分的適用除外がある場合はその旨含む)
・事業者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人にあっては代表者の氏名
・契約の申込み又は締結を担当した者の氏名
・契約の申込み又は締結の年月日
・商品名及び商品の商標又は製造業者名
・商品の型式
・商品の数量
・引き渡された商品が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合の販売業者の責任についての定めがあるときは、その内容
・契約の解除に関する定めがあるときには、その内容
・そのほか特約があるときには、その内容
(4)所定の期間を過ぎてもクーリング・オフできることがある場合
①法定書面の不備
法定書面に必要な記載事項が欠けている場合、クーリング・オフ期間が延長されることがあります。
たとえば、クーリング・オフの説明が記載されていない場合などです。
②クーリング・オフ妨害
業者がクーリング・オフを妨害した場合は、所定の期間を過ぎてもクーリング・オフが認められることがあります。
たとえば、クーリング・オフができないと誤って説明したり、脅迫したりした場合です。
3 クーリング・オフができない場合
(1)通信販売
通信販売(インターネットショッピングやテレビショッピングなど)で購入した商品は、クーリング・オフの対象外です。
消費者が自ら積極的に購入を申し込むため、再考の機会が十分にあると考えられているためです。
返品の可否や条件についての特約があればそれにしたがうことになります。
特約がない場合は、商品を受け取った日を含む8日以内であれば、消費者が送料を負担し返品できます。
返品が可能な場合でも、返品期限が設けられている場合があるので、商品を受け取ったらすぐに中身を確認することが大切です。
購入時に、返品ができるかどうかや返品が可能な場合の条件などをよく確認しておくとよいでしょう。
(2)営業用の取引
営業や事業のために購入した商品やサービスは、クーリング・オフの対象外です。
事業者が専門的な知識をもっていると考えられているためです。
(3)自ら店舗に出向いて契約した場合
消費者が自らの意思で店舗に出向いて契約を結んだ場合、クーリング・オフは適用されません。
ただし、特定継続的役務提供に該当する場合は例外です。
(4)特定の消耗品を使用した場合
化粧品や健康食品などの消耗品を使用した場合、クーリング・オフは適用されません。
未使用の場合は適用されることがあります。
(5)自動車の購入
自動車の購入契約は、クーリング・オフの対象外です。
(6)3,000円未満の現金取引
3,000円未満の現金取引は、クーリング・オフの対象外です。
(7)クーリング・オフ期間が過ぎた場合
クーリング・オフ期間(8日間または20日間)が過ぎた場合、クーリング・オフはできません。
4 クーリング・オフの手続き
クーリング・オフの申出は、書面(はがき可)または電磁的記録で行います。
(1)法定書面の確認
まず、法定書面を確認し、クーリング・オフの対象であることを確認します。
法定書面には、クーリング・オフの説明や手続き方法が記載されています。
(2)通知書の作成
クーリング・オフを行うための通知書を作成します。
通知書には、つぎのような内容を記載します。
・契約解除の意思表示
・契約日
・契約内容
・契約者の氏名と住所
・契約先の業者名と住所
(3)通知書の送付
作成した通知書を、特定記録郵便や簡易書留など、送付の記録が残る方法で送付します。
通知書が確実に業者に届いたことを証明できるからです。
なお、クレジット契約をしている場合は、販売事業者とともにクレジット会社へも同時に通知します。
(4)控えの保管
送付した通知書の控えや郵便の受領証を保管します。
後日トラブルが発生した場合に証拠として使用できます。
保管期間は5年間です。
クーリング・オフの通知書の例
(5)電磁的記録によるクーリング・オフの手続き
2022年6月の法改正により、電磁的記録(電子メールや専用のウェブフォームなど)でも行えるようになりました。
①電子メール
クーリング・オフの通知を電子メールで送信できます。
②専用ウェブフォーム
業者が提供する専用のウェブフォームを利用してクーリング・オフの通知を行うことも可能です。
③その他の電磁的記録
USBメモリなどの記録媒体を利用して通知することも認められています。
なお、送信したEメールや、ウェブフォームの送信完了画面のスクリーンショットを保存しておくことが重要です。
また、契約書に電磁的記録によるクーリング・オフの方法が記載されている場合は、その指示に従って手続きを行う必要があります。
(6)その他の注意点
①クーリング・オフについての相談先
全国の消費生活センターでは、クーリング・オフに関する相談を受け付けています。
最寄りの消費生活センターは、検索したり、消費者ホットライン(188)に電話して問い合わせたりして調べられます。
また、各地の弁護士会でも、クーリング・オフに関する法律相談を受け付けているところがあります。
②返金の手続き
クーリング・オフが成立した場合、業者は支払った代金を速やかに返金する義務があります。
返金が遅れる場合や問題が発生した場合は、消費生活センターに相談することが重要です。
③商品の返送
クーリング・オフが成立した場合、購入した商品を返送する必要があります。
返送にかかる費用は、業者が負担することが一般的です。
クーリング・オフは、消費者が冷静に考え直す時間を確保し、不当な取引から保護するための重要な制度です。
クーリング・オフができるかどうかは、契約の内容や状況によって異なります。
手続きや具体的なケースについては、消費生活センターや弁護士などの専門家に相談するとよいでしょう。