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相続税の負担を軽減できる「小規模宅地等の特例」

小規模宅地等の特例は、相続や遺贈によって取得した宅地の評価額を最大80%減額することで、相続税の負担を軽減する制度です。
 
地価高騰により相続税の支払いが困難になるケースが多発していたことを背景に1983年に創設されました。
被相続人の事業用宅地を引き継いだり居住用宅地を相続したりする相続人が、その宅地を手放さずに済むようにすることが目的です。
 
小規模宅地等の特例とはどのような制度なのかや、注意点などについてお話しします。


1 小規模宅地等の特例の概要


相続した宅地等に高額の相続税がかかった場合、相続人は支払いのためにその宅地等を売却せざるをえなくなることもありえます。
そうなると、被相続人とともに事業を営んでいたり居住していたりした相続人は事業や生活の基盤を失い困ってしまいます。
そこで、一定の要件を満たす宅地等の一定の面積までの部分について相続税の評価額を減額する制度が設けられたのです。
相続税の負担軽減という効果をもたらします。
 
具体的な適用対象宅地、限度面積、減額割合はつぎの表のとおりです。

(出所)国税庁のウェブページを加工

 
適用対象宅地等が複数ある場合の限度面積は、つぎの表のとおりです。

(出所)国税庁のウェブページを加工

 
具体的な計算例はつぎのとおりです。
 
<例1>評価額5,000万円、面積500㎡の特定居住用宅地等の場合
 
限度面積330㎡に対して80%の減額が適用されます。
 
評価減となる額は、5,000万円 × 330㎡/500㎡ ​× 80% = 2,640万円
 
したがって、相続税の課税対象となる評価額は、
5,000万円 - 2,640万円 = 2,360万円 となります。
 
<例2>評価額2,000万円、面積200㎡の特定居住用宅地等、および評価額1,000万円、面積100㎡の貸付事業用宅地等の場合
 
特定居住用宅地等を優先的に特例の対象とするほうが得になるで、
適用限度面積は、
0 × 200/400 + 200 × 200/330 + C ≦ 200㎡
∴ C = 78㎡となります。
 
評価減となる額は、
特定居住用宅地等は、2,000万円 × 200㎡/200㎡​ × 80% = 1,600万円
貸付事業用宅地等は、1,000万円 × 78/100 × 50% = 390万円
 
したがって、相続税の課税対象となる評価額は、
(2,000万円 - 1,600万円)+(1,000万円 - 390万円)= 1,010万円 となります。

2 適用要件


まず、被相続人または同居の親族が、相続開始直前において、居住または事業の用に供されていた宅地等である必要があります。
さらに、特定居住用宅地等および特定事業用宅地等における取得者ごとの要件は、つぎのとおりです。
 
(1)特定居住用宅地等

(出所)国税庁のウェブページを加工


なお、対象宅地等が複数ある場合は、主として居住していた一つの宅地等に限られます。
 
(2)特定事業用宅地等

(出所)国税庁のウェブページを加工

 
事業には、不動産貸付業、駐車場業などの貸付事業は含まれません。
また、相続開始前3年以内に新たに事業のために用いられた宅地等は対象外です(一定の規模以上の事業の場合を除く)。

3 注意点


小規模宅地等の特例を受ける際の注意点はつぎのとおりです。

(1)相続税の申告が必要
小規模宅地等の特例を受けるためには、相続税の申告書を提出する必要があります。
たとえ特例を適用した結果、相続税が発生しない場合でも、申告書の提出が必須です。
 
(2)適用要件の確認
特例を受けるためには、配偶者、同居親族、別居親族それぞれの要件を満たす必要があります。
とくに、同居の実態や過去の居住状況など、細かな要件に注意が必要です。
 
(3)遺産分割協議の完了
特例を適用するためには、遺産分割協議が完了していることが条件となります。
遺産分割協議が未完了の場合、特例を受けることができません。
 
(4)申告期限の遵守
相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10カ月以内です。
期限を過ぎると、特例を受けることができなくなるため、早めの準備が重要です。
 
(5)必要書類の準備
特例を受けるためには、相続税の申告書に加えて、遺産分割協議書、住民票、戸籍謄本などの書類が必要です。
 
(6)相続税申告期限前の売却は適用対象外
小規模宅地等の対象となる宅地等を相続税の申告期限まで保有することが要件になっています。
申告期限の前に売却した場合には特例は受けられません。
ただし、配偶者はこの限りではありません。

4 判断に迷う可能性があるケース


国税庁のウェブサイトに掲載されている質疑応答事例からいくつかピックアップします。
 
(1)相続開始の年に被相続人から贈与された宅地
贈与により取得した土地の価額は贈与税の課税価格に算入されずに、相続税の課税価格に加算されることになります。
しかし、贈与を受けた宅地は相続または遺贈により取得したものではないので、小規模宅地等の特例を受けることはできません。
 
(2)特例の対象となる私道
被相続人は相続開始直前においてB土地に居住していました。
私道Aは、B、CおよびD土地の所有者の共有で、通行に用いられています。

(出所)国税庁のウェブページを加工

 この場合、私道Aは被相続人の居住用宅地等であるB土地の維持・効用を果たすために必要不可欠なものです。
よって、私道Aの土地の共有持分についても特例の対象になります。
 
(3)「被相続人等の居住の用に供されていた宅地等」の判定
被相続人等が、その宅地等の上の建物に生活の拠点を置いていたかどうかにより判定されます。
日常生活の状況、入居目的、建物の構造や設備の状況、生活の拠点となるほかの建物の有無などの事実を総合勘案して判定されます。
したがって、つぎのような建物は対象外となります。
・居住の用に供する建物の建築期間中だけの仮住まいである建物
・ほかに生活の拠点と認められる建物があるのに、特例の適用を受けるためなどの一時的な目的で入居した建物
・主として趣味、娯楽又は保養の用に供する目的で有する建物
 
(4)入院により空家となっていた建物の敷地
被相続人が居住していた建物が入院のため空家となりました。退院後は再び居住するつもりでしたが、そのまま亡くなりました。
この場合、入院のために一時的に離れたものの、被相続人の生活の拠点はなおその建物にあったと考えられます。
よって、その建物の敷地は、空家となっていた期間の長短を問わず、特例の対象となります。
 
(5)「相続開始時から申告期限まで引き続き当該建物に居住していること」
次のような場合に、居住しているかどうかの判断が分かれる可能性があります。
なお、いずれの場合も相続人の配偶者と子が当該建物に居住し続けているものとします。
・被相続人と同居していた相続人が相続開始時に単身赴任していた場合
・被相続人と同居していた相続人が申告期限前に海外へ転勤した場合
 
転勤という特殊事情が解消したときに配偶者等とふたたび同居するのなら、相続人の生活の拠点として利用している家屋といえます。
よって、いずれの場合も特例の対象となります。

 
小規模宅地等の特例の適用件数は増加傾向にあるといいます。
小規模宅地等の特例は複雑な制度であるため、税理士などの専門家に相談し、アドバイスを受けることをおすすめします。

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