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企業の成長と人材確保に寄与する「ストックオプション制度」

ストックオプション制度は、企業が従業員や取締役に、自社株式をあらかじめ決められた価格で購入できる権利を付与する制度です。
従業員のモチベーションを高め、企業の業績向上に貢献することを目的としています。
2024年度税制改正では、ストックオプションの制度拡充が行われました。
スタートアップ企業の支援とストックオプションの利用促進が目的です。
より柔軟で使いやすい制度になり、企業の成長と人材確保に寄与することが期待されています。
ストックオプションとはどのようなものかについてお話しします。


1 ストックオプションの仕組み、メリット、デメリット


(1)ストックオプションの仕組み
 
①権利付与
企業が従業員や取締役に対して、一定期間内に自社株を特定の価格で購入できる権利を付与します。
この価格は、権利行使価格と呼ばれます。
 
②権利行使
従業員や取締役は、権利行使期間内に権利行使価格で株式を購入できます。
株価が権利行使価格を上回っている場合、購入した株式を市場で売却することで利益を得られます。
 
③キャピタルゲイン
権利行使価格と市場価格の差額がキャピタルゲインとなります。
たとえば、権利行使価格が1,000円で、株価(市場価格)が2,000円の場合、1株あたり1,000円の利益が得られます。

(出所)財務省「令和6年度税制改正」を加工

 
(2)メリット
 
①従業員のモチベーション向上
ストックオプションの付与により、従業員は企業の業績向上に対するインセンティブをもつようになります。
企業の成長が自分の利益に直結するため、モチベーションが高まります。
 
②優秀な人材の確保
ストックオプションは、優秀な人材を引き付けるための有力な手段となります。
とくにスタートアップ企業や成長企業においては、給与以外の報酬として魅力的です。
 
③企業の成長促進
従業員が企業の成長に積極的に関与することで、企業全体のパフォーマンスが向上しやすくなります。
 
(3)デメリット
 
①株価の下落リスク
株価が権利行使価格を下回る場合、ストックオプションの価値がなくなります。そうなると従業員のモチベーションが低下する可能性があります。
 
②希薄化のリスク
新たに株式を発行するため、既存の株主の持ち株比率が希薄化するリスクがあります。
 
③税務上の課題
ストックオプションの行使時や売却時に税金が発生するため、税務上の課題が生じることがあります。

2 ストックオプションの利用企業


ストックオプションは、とくに上場企業や成長企業で広く利用されています。
東京証券取引所に上場している企業の約3割がストックオプションを導入しています。
とくに、旧マザーズ市場では8割強という非常に高い割合で導入されています。
 
ストックオプションの利用がふさわしい企業はつぎのとおりです。
 
(1)成長企業
成長企業やスタートアップは、現金報酬を抑えつつ優秀な人材を引き付けるためにストックオプションを活用します。
企業の成長とともに株価が上昇することで、従業員に大きなインセンティブを提供できます。
 
(2)上場企業
上場企業は、従業員のモチベーションを高め、企業の業績向上を図るためにストックオプションを導入することが多くあります。
とくに、株価の上昇が期待できる企業にとっては効果的です。
 
(3)技術系企業
技術系企業やIT企業は、優秀なエンジニアや専門職を引き付けるためにストックオプションを利用します。
企業の技術力向上と競争力強化が期待できます。
 
(4)ベンチャー企業
ベンチャー企業は、資金調達が難しい場合にストックオプションを活用して、現金報酬を抑えつつ従業員に報酬を提供します。
企業の成長とともに従業員も利益を享受できます。

3 税制適格ストックオプション


ストックオプションは、税制適格ストックオプションと税制非適格ストックオプションに分けられ、税務上の取り扱いが異なります。
税制適格ストックオプションは、特定の要件を満たすことで税務上の優遇措置を受けられます。
 
税制適格ストックオプションのおもな要件はつぎのとおりです。
2024年度税制改正において制度拡充されました。
 
(1)権利行使価格
権利行使価格は、ストックオプションの付与時の株価以上でなければなりません。
 
(2)権利行使期間
権利行使期間は、ストックオプションの付与決議の日から2年以上10年以内である必要があります。
ただし、設立5年未満の非上場会社は、付与決議の日から2年以上15年以内である必要があります。
 
(3)付与対象者
付与対象者は、会社の取締役、執行役、使用人であることが必要です。
社外取締役や監査役、外部の専門家などは対象外です。
ただし、設立10年未満などの一定の要件を満たす企業は、高度な知識または技能を有する社外の人材も含みます。
 
(4)権利行使限度額
1年間の権利行使限度額は、1,200万円以下である必要があります。
ただし、つぎの例外があります。
・設立後5年未満の株式会社は2,400万円以下
・設立後5年以上20年未満の株式会社で、非上場会社または上場後5年未満の上場会社は3,600万円以下
 
(5)譲渡禁止規定
ストックオプションの株式は、譲渡が禁止されている必要があります。
 
(6)保管委託
ストックオプションの株式は、証券会社などの保管機関に保管される必要があります。
ただし、譲渡制限株式は企業自身が株式を管理できます。

4 税制適格ストックオプションと税制非適格ストックオプションの相違点


税制適格ストックオプションは、税務上の優遇措置があるため、従業員にとって有利な選択肢となります。
一方、税制非適格ストックオプションは、課税タイミングも早いため税負担が大きくなる可能性があります。

 
税制適格ストックオプションと税制非適格ストックオプションとで、税金面でどれくらいの差が生じるか、具体例を示します。
 
【事例】

よって、合計税額はつぎのとおりとなります。

この事例から、税制適格ストックオプションのほうが、税負担が軽減されることがわかります。
 
 
税制適格ストックオプションと税制非適格ストックオプションが存在する理由は、企業の多様なニーズや状況に対応するためです。
それぞれのメリットとデメリットはつぎのとおりです。

税制適格ストックオプションは、税務上の優遇措置があるため、要件を満たすことができる企業にとっては非常に有利です。
一方、税制非適格ストックオプションは、柔軟性が高く、適用範囲が広範です。そのため、特定の要件を満たさない場合でも利用できるという利点があります。
企業の状況や目的に応じて、適切なストックオプション制度を選択することが重要です。
 

 
ストックオプション制度は、企業と従業員の双方にとってメリットがある一方で、リスクや課題も存在します。
具体的な導入方法や詳細については、専門家に相談するとよいでしょう。

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