おひとりさま、高齢者が活用できる「死後事務委任契約」
国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)2024年推計」から引用します。
2020~50年の間に、高齢単独世帯に占める未婚者の割合は、男性は33.7%から59.7%へ、女性は11.9%から30.2%へと増える見込みです。
近親者のいない高齢単独世帯が急増するとみられています。
高齢のおひとりさまが活用しうる「死後事務委任契約」についてお話しします。
身体状況による利用期間からみた「死後事務委任契約」の位置づけはつぎの図のとおりです。
1 死後事務委任契約の概要
死後事務委任契約とは、本人が亡くなったあとに発生する事務手続きを、信頼できる第三者に委任する契約です。
とくにおひとりさまや家族が遠方に住んでいる場合、または家族に負担をかけたくない場合に有用です。
死後事務委任契約は、つぎのような相手に依頼することが一般的です。
①弁護士や司法書士などの専門家
法律に詳しい専門家と死後事務委任契約を結ぶことが多くあります。
②NPO法人やボランティア団体
地域の福祉団体が死後事務委任サービスを提供している場合もあります。
③信託銀行
財産管理や相続手続きに強みがあり、死後の事務手続きも包括的にサポートします。
④社会福祉協議会
地域の福祉サービスを提供する団体で、死後の事務手続きもサポートする場合があります。
ただし、条件が限られている場合が多いので確認が必要です。
2 死後事務委任契約でできることと、できないこと
(1)できること
①葬儀や埋葬の手続き
葬儀の手配、火葬、埋葬に関する手続きを行います。
具体的には、葬儀社との連絡や葬儀の内容の決定、火葬許可の申請などです。
また、死亡届の提出、健康保険証や運転免許証の返還、年金の資格喪失手続きなど、各種行政手続きを代行します。
②諸支払いの精算や財産の整理
未払いの医療費や介護費用の精算、公共料金の支払い、賃貸契約の解約と原状回復、不動産の明け渡しなどを行います。
③デジタル遺品の整理
SNSアカウントの削除、パソコンやスマートフォンに保存された個人情報の消去など、デジタル遺品の整理も行います。
④ペットの世話
飼っていたペットの世話や、新しい飼い主への引き渡しを行います。
(2)できないこと
①相続手続き
相続財産の分割や相続税の申告など、相続に関する手続きは死後事務委任契約では行えません。
②遺言の執行
遺言の内容を実行することは死後事務委任契約では行えません。
遺言執行者が遺言の内容を実行する役割を担います。
③法律で禁止されている行為
法律で禁止されている行為は当然ながらできません。
④本人の意思に反する行為
本人の意思に反する行為を行うことはできません。
死後事務委任契約は、本人の意思を尊重し、サポートすることを目的としています。
3 死後事務委任契約のメリットとデメリット
(1)メリット
①安心感の提供
自分の死後の手続きを信頼できる第三者に任せることで、安心できるようになります。
とくに、おひとりさまや家族が遠方に住んでいる場合に有用です。
②家族の負担軽減
家族や親族に負担をかけずに、必要な手続きをスムーズに進められます。
③確実な手続き
専門家に依頼することで、手続きが確実に行われ、トラブルを未然に防げます。
(2)デメリット
①費用の発生
死後事務委任契約には費用がかかります。
契約内容やサービスの範囲によって異なりますが、一般的には数万円から数十万円程度です。
②信頼できない可能性
信頼できる第三者を選ぶことが重要です。
信頼性の低い事業者に依頼すると、トラブルが発生する可能性があります。
③相続手続きの限界
死後事務委任契約では、相続財産の分割や相続税の申告など、相続に関する手続きは行えません。
相続人や遺言執行者が手続きを行う必要があります。
4 死後事務委任契約を締結する際に注意すべきポイント
(1)信頼できる依頼先の選定
信頼できる人物や専門家を選ぶことが重要です。
家族や親族、信頼できる友人、または専門の弁護士や司法書士などが適しています。
専門家や事業者に依頼する場合は、実績や評判を確認し、過去のトラブルがないかを調べることが大切です。
(2)契約内容の明確化
委任する業務の具体的な内容を明確にし、契約書に詳細に記載します。
たとえば、葬儀の手配、行政手続き、財産の整理などです。
また、委任する範囲や制限を明確にし、受任者がどこまでの権限をもつかをはっきりさせておきます。
(3)費用の確認
契約にかかる初期費用や委任者への報酬を確認し、予算に合っているか検討します。
さらに、サービス利用中に追加費用が発生する場合があるので、その点も確認しておきます。
(4)契約書の確認と理解
契約書の内容をしっかり確認し、不明点があれば事前に質問して解決しておきます。
もし、契約書の内容について不安がある場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
(5)契約解除の条件
契約解除の条件を明確にし、契約書に記載します。
とくに、信頼関係が崩れた場合や委任者が不正行為を行った場合の対応を明示します。
また、契約解除の手続き(解除条件や費用の返金など)についても確認し、スムーズに解除できるように準備しておきます。
5 死後事務委任契約を利用したほうがよい人、利用しないほうがよい人
(1)利用したほうがよい人
①おひとりさま(独身で頼める家族や親族がいない人)
独身で家族や親族がいない人にとって、死後の手続きを信頼できる第三者に任せることで安心できます。
②家族や親族が遠方に住んでいる人
近くに頼れる家族や親族がいない場合、死後事務委任契約を活用することで、必要な手続きをスムーズに進められます。
③家族に負担をかけたくない人
自分の死後の手続きを家族に任せることに不安を感じる場合、専門家に依頼することで、家族の負担を軽減できます。
④ペットを飼っている人
飼っているペットの世話や新しい飼い主への引き渡しを確実に行いたい場合、安心して任せられます。
(2)利用しないほうがよい人
①家族や親族が近くに住んでいる人
近くに信頼できる家族や親族がいて、その人たちに死後の手続きを任せられるなら必要ないでしょう。
②費用を負担できない人
死後事務委任契約には費用がかかるため、経済的に余裕がない場合は、ほかの方法を検討する必要があります。
③信頼できる第三者が見つからない人
信頼できる第三者が見つからない場合、契約を結ぶ前に慎重に検討することが重要です。
④相続手続きが必要な人
死後事務委任契約では相続手続きは行えません。
相続手続きを要する場合は、遺言書の作成や遺言執行者の選任を検討する必要があります。
6 死後事務委任契約の手続き
死後事務委任契約の手続きの流れはつぎのとおりです。
(1)依頼内容の決定
まず、どのような事務手続きを依頼するかを決定します。
葬儀の手配、役所への届出、未払いの請求書の処理などです。
(2)受任者の選定
つぎに、事務手続きを行う受任者(代理人)を選定します。
信頼できる友人や専門家(弁護士、司法書士など)に依頼することが一般的です。
(3)契約書の作成
依頼内容と受任者を明確にするために、契約書を作成します。
契約書は公正証書として作成することが推奨されます。
(4)事務手続きの実行
本人が亡くなったあと、受任者が契約内容にもとづいて事務手続きを実行します。
(5)費用
費用は依頼内容や受任者によって異なりますが、一般的には以下のような費用が発生します。
①委任契約の作成費用
公正証書の作成費用が含まれます。
②事務手続きの実行費用
葬儀費用、役所への届出費用、未払い請求書の処理費用などが含まれます。
③受任者への報酬
受任者に支払う報酬も発生します。
依頼内容や受任者の専門性によって異なります。
一般的には数万円から数十万円程度となります。
具体的な費用については、依頼する内容や受任者によって大きく変わるため、詳細は専門家に相談することをおすすめします。
(6)ほかの契約との併用
「財産管理等委任契約」と「任意後見契約」をセットにする「移行型任意後見契約」という形があります。
本人の判断能力が低下する前から財産管理を行い、判断能力が低下したのちに任意後見契約に移行する仕組みです。
判断能力が低下する前後の財産管理をスムーズに行うことができるというメリットがあります。
また、「見守り契約」をセットにすれば本人の健康状態や生活状況を定期的に確認できます。
早期に異変を察知し、任意後見契約への移行を的確に行えるようになります。
さらに、「死後事務委任契約」もセットに加えることで、生前から死後までの一貫したサポートが可能になります。
財産管理、判断能力の低下に伴う後見、そして死後の事務手続きまで、すべてをカバーすることで安心感が得られます。
死後の事務手続きも明確に定められるので、遺族間の争いを回避できる効果があります。
死後事務委任契約は、本人が亡くなった後の手続きをスムーズに進めるための重要な契約です。
死後の不安を軽減し、安心できる手段になります。
信頼できる受任者を選び、契約内容をしっかり確認することが重要です。
具体的な手続きや詳細については、専門家に相談しながらすすめるとよいでしょう。