認知症に備える介護保険・認知症保険
厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」から引用します。
要介護認定者の、介護が必要となったおもな原因は、「認知症」が23.6%でもっとも多くなっています。
介護が必要になれば経済的負担が増えるので、将来に不安を感じている方が少なくないでしょう。
介護が必要になった場合、まずは公的介護保険の介護サービスを受けられます。
不足するなら民間保険会社の介護保険や認知症保険への加入を検討できます。
それらがどのようなものなのかについてお話しします。
1 公的介護保険制度
(1)介護サービスの対象者
40歳以上の人は、介護保険の被保険者となります。
①65歳以上の人(第1号被保険者)
②40~64歳までの公的医療保険に加入している人(第2号被保険者)
介護保険のサービスを利用できる人は次のとおりです。
①65歳以上の人(第1号被保険者)
・寝たきりや認知症などにより、介護を必要とする状態(要介護状態)になった場合
・家事や身支度など、日常生活に支援が必要な状態(要支援状態)になった場合
②40歳~64歳までの人(第2号被保険者)
・初老期の認知症、脳血管疾患など老化が原因とされる病気(特定疾病)により、要介護状態や要支援状態になった場合
(2)介護サービスの内容
認知症になった場合、公的介護保険から受けられる介護サービスは、つぎのようなものがあります。
サービスを利用するためには、市区町村の窓口で「要介護認定」を受ける必要があります。
要介護度に応じて、利用できるサービスや費用負担が異なります。
①訪問介護サービス
介護スタッフが自宅を訪問し、日常生活のサポートを行います。
たとえば、食事の準備や掃除、入浴の介助などです。
②デイサービス
日中に施設で介護やリハビリを受けることができます。
デイサービスでは、食事や入浴、レクリエーション活動などが提供され、家族の負担を軽減します。
③ショートステイ
短期間の施設入所が可能で、家族が一時的に介護から離れることができます。
家族が旅行したりや休養したりする際に利用されることが多いです。
④介護老人福祉施設
長期的な入所が必要な場合に利用できる施設です。
24時間体制で介護が提供され、医療ケアも受けられます。
⑤福祉用具の貸与
介護ベッドや車椅子、歩行器などの福祉用具を借りることができ、自宅での生活がより安全で快適になります。
⑥訪問看護
看護師が自宅を訪問し、医療的なケアを提供します。
たとえば、薬の管理や傷の手当てなどです。
⑦訪問リハビリテーション
理学療法士や作業療法士が自宅を訪問し、リハビリテーションを行い、身体機能の維持や改善を図ります。
⑧認知症対応型共同生活介護(グループホーム)
認知症の方が少人数で共同生活を送りながら、専門的な介護を受けることができる施設です。
家庭的な環境で生活することで、認知症の進行を遅らせる効果が期待されます。
(3)支給限度額
公的介護保険の居宅サービスを受けるには支給限度があります。
介護保険から給付される1カ月あたりの上限額として「区分支給限度基準額」が設けられています。
2024年時点ではつぎのとおりです。
支給限度額を超えた分は全額自己負担となるので、ケアマネジャーと相談しながら適切なサービスを選択することが重要です。
(4)介護サービスの利用者負担
介護サービスの費用は、所得に応じて1割から3割を自己負担することになります。
(5)高額介護サービス費
月々の自己負担額が一定の上限を超えた場合、その超えた分が介護保険から支給されます。上限額はつぎの通りです。
上限額を超えた場合、超過分は全額自己負担となりますので、注意が必要です。
(6)高額医療・高額介護合算制度
同じ医療保険の世帯内で、医療保険と介護保険両方に自己負担が生じた場合は、合算後の負担額が軽減されます。
決められた限度額(年額)を500円以上超えた場合、医療保険者に申請をすると超えた分が支給されます。上限額(世帯単位)はつぎの通りです。
2 民間介護保険
民間の介護保険は、おもに生命保険会社などが提供する保険商品です。
公的介護保険で対象外の年齢での保障が必要な場合や、介護サービス費用以外の費用、自己負担部分を補てんするために加入します。
(1)介護にかかる費用
まず、介護費用はどれだけかかるのかをみておきましょう。
生命保険文化センター「2021年度生命保険に関する全国実態調査」から引用します。
1カ月当たりの介護費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)は、平均8.3万円となっており、近年増加傾向にあります。
(2)公的介護保険との相違点
①現金給付
公的介護保険が現物給付(サービスの提供)であるのに対し、民間介護保険は現金給付が特徴です。
介護が必要になった際に、一時金や年金として現金が支給されます。
そのため、リハビリ費用や介護施設の食費など、介護サービス以外の費用にも対応できます。
また、働けなくなった場合の収入の補てんにもなります。
②年齢制限がない
公的介護保険は40歳以上が対象ですが、民間介護保険は年齢に関係なく加入でき、給付も受けられます。
③特定疾病以外もカバー
65歳以下の人が特定疾病以外で介護が必要になった場合も給付の対象となります。
③保険料がかかる
民間介護保険に加入するには保険料の支払いが必要です。
若いうちに加入するほど保険料は安くなりますが、家計の負担を考える必要があります。
④給付要件の確認が必要
保険金が定める給付要件を満たす必要があり、商品によって異なります。
公的介護保険の要介護認定と連動するものや、保険会社独自の基準を満たすものがあります。
(3)選び方のポイント
①保険金額の設定
介護にどのくらいの費用がかかるのか、公的介護保険や預貯金などで賄えないのはいくらかを確認し、必要な保険金額を設定します。
保険料を無理なく支払える範囲で選ぶことが大事です。
②給付条件の確認
各保険商品の給付条件を確認し、自分に合ったものを選びます。
3 認知症保険
認知症保険は、認知症と診断された場合や、認知症で介護が必要な状態になった場合に給付金が支払われる保険です。
(1)認知症保険の特徴
①診断給付金
認知症と診断された場合に、一時金として給付金が支払われ、治療費や介護費用に充てられます。
②介護給付金
認知症と診断され、さらに所定の要介護状態と認定された場合に、介護給付金が支払われます。
給付金は一時金形式や年金形式で支給されます。
③軽度認知障害(MCI)への保障
認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)と診断された場合にも、給付金が支払われる保険があります。
④アクシデントへの補償
認知症の人が起こした事故や行方不明になった場合の捜索費用などを補償する特約もあります。
(2)選び方のポイント
①保障内容の確認
診断給付金や介護給付金の金額、支給条件を確認しましょう。
保険会社によって異なるため、自分のニーズに合ったものを選ぶことが重要です。
②保険期間の選択
終身型と定期型があります。
終身型は一生涯保障が続きますが、保険料が高めです。
定期型は一定期間のみ保障されますが、保険料が比較的安くなります。
③免責期間の確認
契約から一定期間内に認知症と診断された場合、給付金が支払われない免責期間が設けられていることがあります。契約前に確認しておきましょう。
④加入年齢の確認
保険会社によって加入できる年齢が異なります。
一般的には20歳から70歳、または40歳から79歳などの範囲で設定されています。
⑤民間介護保険と認知症保険との相違点
認知症保険は、認知症と診断された場合に保険金を受け取れます。
保険会社が定める要件を満たさなければなりません。
要介護認定を受けても認知症と診断されなければ受け取れません。
一方、民間介護保険は、認知症を含む介護全般をサポートする保険で、要介護状態になった場合の費用を広くカバーできます。
(3)認知症保険への加入の必要性が高い人
①認知症のリスクを感じている人
家族に認知症の患者がいる場合、遺伝的なリスクが高まることがあります。
また、年齢が上がるにつれて、とくに65歳以上の場合は認知症のリスクが高まります。
②経済的な備えをしたい人
認知症になると、治療費や介護費用が大きな負担となります。
認知症保険はこれらの費用をカバーするための経済的な備えとなります。
また、家族の経済的・精神的負担も軽減できます。
③早期の備えを考えている人
若いうちに加入すると保険料が安く抑えられます。
将来のリスクに備えて早めに加入するのもよいでしょう。
④すでに軽度認知障害(MCI)と診断された人
一部の認知症保険は、軽度認知障害にも対応しています。
診断された早期の段階から保障を受けられます。
民間介護保険や認知症保険は、認知症になる人、要介護認定者が増加するなか、将来のリスクに備えるための重要な手段です。
公的介護保険制度をしっかり理解したうえで、預貯金などでは不足する部分の補てんを検討する必要があります。
そして、自分や家族の状況に応じて、適切な保険を選ぶことが大切です。
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