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義務になった相続不動産登記

所有者不明土地が日本全国で深刻な社会問題となっています。
所有者不明土地とは、相続や住所変更の際に登記が行われなかったため、所有者が不明または連絡が取れない土地を指します。
このような土地の全国の合計面積は九州の面積を超えるとも言われています。
また、2022年度の国土交通省調べでは、不動産登記簿のみで所有者の所在が判明しなかった土地の割合は24%にも及んでいます。
今後、所有者不明土地はさらに増えていくと予想されています。
 
所有者不明の土地には、つぎのような問題点があります。
 
(1)管理の不備
所有者が不明なため、土地の管理が行われず、雑草の繁茂や不法投棄などが発生し、周辺環境や治安が悪化します。
 
(2)公共事業の妨げ
土地の所有者が不明なため、公共事業や災害復興事業が円滑に進まないことがあります。
 
(3)防災対策の遅れ
土砂崩れなどの防災対策が必要な場所でも、所有者が不明なために対策が遅れることがあります。
 
そこで、相続不動産登記の義務化、住所変更登記の義務化、相続土地国庫帰属制度といった解決策が実施されてきています。
具体的にどのようなものなのか、詳しく見ていきましょう。


1 相続不動産登記の義務化


2024年4月1日から、相続によって不動産を取得した相続人は、相続不動産登記を義務づけられました。
相続登記が未了のまま放置されることを防ぎ、所有者不明土地が増えないようにすることが目的です。
 
(1)義務の内容
具体的には、相続によりその所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければならなくなりました。
また、遺産分割で不動産を取得した場合も、遺産分割から3年以内に、遺産分割の内容に応じた登記をする必要があります。
相続によって取得したすべての不動産(土地・建物)が対象になります。
 
2024年4月1日より以前に相続が開始している場合も義務化の対象です。2027年3月31日までに相続登記をする必要があります。
 
(2)義務を怠った場合のペナルティ
正当な理由なく義務を怠った場合には、10万円以下の過料が科される可能性があります。
過料の対象外となることがある、正当な理由がある場合とはつぎのとおりです。

①相続人が極めて多数にのぼり、戸籍関係書類等の収集やほかの相続人の把握などに多くの時間を要する場合
②遺言の有効性や遺産の範囲などが相続人などの間で争われているために相続不動産の帰属主体が明らかにならない場合
③相続登記の義務を負う者自身に重病その他これに準ずる事情がある場合
④相続登記の義務を負う者がつぎのいずれにも該当する場合
・DV防止法の被害者その他これに準ずる者である
・その生命・心身に危害が及ぶおそれがある状態にあって避難を余儀なくされている
⑤相続登記の義務を負う者が経済的に困窮しているために、登記の申請を行うために要する費用を負担する能力がない場合

(3)相続人申告登記
遺産分割が難航する場合などには、相続人申告登記という手続きも利用可能です。
期限内(3年以内)の相続登記の申請が難しい場合に、簡易に相続登記の申請義務を履行できるようにする仕組みです。
 
具体的な手続きは、対象となる不動産を特定し、登記官(不動産を管轄する登記所)に対して、つぎの旨を申し出ます。

①所有権の登記名義人について相続が開始した旨
②自らがその相続人である旨

登記官は、所要の審査をしたうえで、申出をした相続人の氏名・住所等を職権で登記に付記します。
その後、遺産分割協議が成立したら、3年以内に登記する義務が発生することになります。
遺産分割協議が成立しなければ、それ以上の登記は義務づけられていません。
 
なお、特定の相続人が単独で申し出ることができます。ほかの相続人の分も含めた代理申出も可能です。
登録免許税はかかりません。
 
以上をフローチャートで示すとつぎのとおりです。

(出所)法務省のウェブサイトを加工

2 住所変更の登記義務化


2026年4月1日から、不動産の所有者は住所変更の登記が義務化されます。
具体的には、住所や氏名に変更があった場合、その変更日から2年以内に変更登記を申請することが義務付けられます。
所有者不明土地の発生を防ぎ、土地の適正な管理を促進することが目的です。
所有するすべての不動産(土地・建物)が対象になります。
 
2026年4月1日より前の変更についても、変更の登記をしていない場合は、2028年3月31日までに変更の登記を申請する必要があります。
 
正当な理由なく義務を怠った場合、5万円以下の過料が科される可能性があります。
正当な理由がどういうものかについては、今後通達等で明らかにされることになっています。
 
また、同時に職権登記制度も導入されます。
具体的には、法務局が住基ネットを利用して住所変更を確認し、所有者の了承を得たうえで職権により変更登記を行えるようになります。

3 相続土地国庫帰属制度


相続土地国庫帰属制度は、相続や遺贈によって取得した土地を国庫に帰属させることができる制度です。2023年4月27日に創設されました。
相続人が土地の管理や利用に困難を感じた場合に、土地を手放すことを可能にし、所有者不明土地の発生を防ぐことが目的です。
 
(1)制度の概要
 
①対象者
相続または遺贈によって土地を取得した相続人が対象です。
相続または遺贈によって土地を取得した共有者は、共有者全員が共同申請することで本制度を利用できます。
 
②申請条件
土地が一定の要件を満たしている場合に限り、国庫に帰属させることができます。
通常の管理または処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地は引き取り不可とされます。
 
引き取ることができない土地とはつぎのような場合です。

(出所)法務省のウェブサイト

 
③負担金
土地を国庫に帰属させる際には、一定の負担金を納付する必要があります。
負担金の額は土地の種類や状況によって異なります。

(出所)法務省のウェブサイトを加工

 
④手続きの流れ
 
㋐申請書の提出
土地が所在する都道府県の法務局に申請書を提出します。
審査手数料(土地一筆当たり14,000円)相当額の収入印紙を申請書に貼って納付します。
 
㋑審査
法務局が申請内容を審査し、土地が帰属の要件を満たしているかを確認します。
 
③承認と負担金の納付
承認が得られた場合、相続人は負担金を納付し、土地の所有権が国庫に帰属します。

4 その他新たな制度


上記の制度のほか、つぎのような制度も創設されます。
 
(1)親の不動産がどこにあるか調べられる「所有不動産記録証明制度」(2026年2月2日施行)
 
(2)他の公的機関との情報連携により所有権の登記名義人の住所等が変わったら不動産登記にも反映されるようになる仕組み(2026年4月1日施行)
 
(3)DV被害者等を保護するため登記事項証明書等に現住所に代わる事項を記載する特例(2024年4月1日施行)

  
以上についての詳しい情報や具体的な手続きについては、法務局のウェブサイトなどで確認できます。
また、個別のケースについては、司法書士や弁護士などの専門家へ相談するとよいでしょう。

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