practice 8 邂逅
音楽は、媒体や環境が違うと味わいが違う。
中1はレコード、中3でCD。高校大学ウォークマン、卒業後はMD、iPod、今はサブスク。
ずいぶん激動の時代を渡ってきた。
かつては音楽を聴くのに、とにかく手間がかかった。
今は「聴こう」と思ったら、もうその時には音楽を手に(耳に)している時代だ。音楽が当たり前にそばにある。下手をすると「OKグーグル」「アレクサ」と言えばそれだけで事足りる。
思えば私はいつも音楽を探している。感覚的に「よい」と思えばそれでよい。音楽は国境を越え、年代を越える。そう信じている。
年月を経て、流行に乗っていただけと感じる曲もあるし、思い出を連れてくる曲、今聴いても新鮮な曲、その場面、この年齢で聴くからこそ心に響く曲がある。その時々で琴線に触れる音楽が確実にあって、その曲に助けられたり救われたりしているのはまごうかた無き真実だと思う。
これまで街中で聴いてハッとした曲が何曲かある。最初はそれを3曲選ぼうと思っていたが、中でも特に印象的だったことを書こうと思う。
ラーメン屋さんでラーメンを食べていた。すると、何気なく聴こえてきた曲に耳を奪われた。店内に流れている曲の中で、それだけが極めて際立っていた。
この声、西城秀樹だ。
すぐには曲名を思い出せなかった。亡くなってから半年は経っていた。その年私はとても忙しくて、訃報にも「ああ、西城秀樹さん亡くなったんだ」と思う程度だった。生前、物凄く好きだったわけでもなく、ヒロミ・ゴーよりはヒデキ派、くらいのものだった。
曲はいかにも昭和で、確かに古い。若い男性が人妻に横恋慕する歌詞だ。50代には心情に共感する部分があまりない。それなのに胸が熱くなる声だった。西城秀樹さんのシンガーとしての味わいを再発見したように思った。
帰宅後調べたら、曲は『ブルースカイブルー』。西城秀樹さんの出棺の時に流されたとあり、これには胸がいっぱいになった。
彼が活躍した時代、私は子供で、成長する日々の中にはテレビがあった。ブラウン管の中では彼が歌っていた。ちびまる子ちゃんのお姉ちゃんが大好きだった、というので覚えている方もいるかもしれない。
その時感じた感情を言い表すことが難しい。歌声に魅力と説得力を感じた。声という表現は時空を超えるんだと、思った。
亡くなってから。ラーメン屋で。
まさかの邂逅だった。