アイドルを探せ
ときめきは大切だ。
何に対してでもいいが、異性に対するときめきというのは、やはり特別なものだと思う。
私が人生において最初にそのことを意識したのは、小学生の時にクラスメイトから「トシちゃんとマッチ、どっちが好き?」と聞かれた時だ。
昭和のあの頃、「たのきんトリオ」というジャニーズグループが少女たちの心に旋風を巻き起こしていた。
ちなみによっちゃんが好きかどうか聞かれたことはない。
なぜか聞かれるのはいつも「トシちゃんかマッチ」だった。
でも、どんな質問でもわたしにはたいして変わりがなかった。
当時の私は正直、たのきんにはあまり、いや全然、興味がなかった。
しかし、この質問を無下にすることは絶対に許されなかった。
今でいうスクールカースト的にマズかった。
とにかく、仲間外れにならないように、答えるときはおざなりに聞こえないように細心の注意を払わなければいけない。そしてつじつまがあわなくならないように、気を付けなければならなかった。私はそのときどきで、なんとなく相手にあわせて適当に答えていた。
あざとい。
あざといが女子にとっては死活問題。
私はアイドルよりは本や漫画やアニメにときめきを感じるヲタク気質だったので、本当は「メーテルとエメラルダスのどっちがすき?」という話のほうが良かった。「はいからさんが通る」ならちゃんと「軍曹か編集長」と答えられるのだが(それも絞れてないけど)、でもトシちゃんとかマッチとかが好きな、普通の女の子のフリをしていた。なんかそうせねばならない気がしていた。
友達がアイドルの話を語るのを聞くのは楽しい。
私に「どっちが好き」「だれがいい?」と聞かないでさえくれればいいのにな、と思っていた。
とても不思議なのだが、異性のアイドル三人(以上の)組となると、女の子(いくつになっても心は乙女)はちょっと目の色が変わる。
ジャニーズを創設したジャニーさんがその心理をがっちりつかんでいたからこそ、ジャニーズは今も輝き続けているのだと思うし、これは女の子ばかりではなく、むしろ男の子にも当てはまるのだということは、その後秋元康さんから教えてもらった。
昔、アイドルと言っていいのかわからないが、ジェリー・イェンが好きだったことがある。
台湾版「花より男子」のF4の道明寺だ。
「グループ」の中のひとり、しかもイケメンをいいと思ったのは後にも先にもあの時だけだったのでは、と思わなくもない。
しかしそれも、一過性の熱だったようだ。
ファンクラブに入ったり、ファンミーティングに行ったり、台湾に行ったり、ということは一切なかった。歌はなんとなくグッと来なかったし、やっぱり全部にはなれなかった。
役者さんは役によって好きだし、歌手も歌によって好きだ。
でもトータルすべて、その人全部、に、ならない。
名前を出すと、ああじゃあ、みらっちさんはジェリー・イェンの、藤井風のファンなんですねと言われることになるのだろうが、正直、そんな熱量じゃないのだ。全然、ない。突然風が吹いてきたけど気にしない気にしない。
先日、空ちゃんにKinKi Kidsのイベントに連れて行ってもらったとき、
「みらっちはさ、誰かのライブに行きたいと思うことってないの?」
と空ちゃんに問われて、考え込んでしまった。
空ちゃんがKinKi Kidsのイベントに私を誘ってくれたときに私が「行く」といったことにえらい驚いていたのは、私が以前から空ちゃんのKinKi Kidsの話を聞くのが好きなだけの「聞き専」だったからだ。
友達が好きな人の話をするのを聞くのが好きだ。
コイバナもいいが、推しの話も楽しい。
空ちゃんは、自分が好きな人のライブに行って生のその人に会いたいと思わないのかな、と思ったようだ。
「藤井風さんとかさ、良くブログに書いてたりするじゃない。ライブに行きたいと思うんじゃないかな、と思って」
うーん、うーん、うーん。
考えたあげく、
「私は家でチルりたい」
と言って空ちゃんをがっかりさせた。
生のその人に会う、ということがどれほどエネルギーをもらえる素敵なことかはわかる。でも、ライブに行く情熱がどうしても持てない。
家でお茶でも飲みながら曲を聴くのは大好きなのだけど。
ファンならばファンクラブに入り、ライブにでかけて、心行くまで、その人を応援するものなのかもしれない。
歌手やアイドルに限らず、スポーツ選手とか、俳優さんとか、宝塚とか、情熱をかける対象はたくさんいるはずだ。
息子の運動会にも出かけるのがメンドクサイと思う私に、そんなのは全くのムリゲーなのだった。
愛情が足りないのか。
イベントごとが好きじゃないのか。
家が好きすぎるのか。
移り気なのか。
そんな私が、最近、意識して変わろうとしている。
昨年空ちゃんに誘われてイベントに行ったのも、変わろう、変わりたいと思っていたからだし、これからも機会があったらいろんなものを観てみたいと思うようになった。
空ちゃんも、変わりたい私を後押ししようとしてくれているのがわかる。
そうだよ、みらっち。
推しは人生の潤いだよ!
誰かみつけなよ~
きっとどこかにいるよ💕
口に出しては言わないが、そんな感じだ。
そんなこともあって昨年末、空ちゃんが三谷幸喜さんの公演に行かない?と誘ってくれた。
まだチケット発売前だから、一緒に取ろう、と言う。
うんうん!頑張るね!
そう言って、張り切って何時間も前にPCを起ち上げ、画面も出して、準備万端でスタンバっていたのに、時刻が来たら回線が切れた。
うんともすんとも動かない。
えええっ‼
なにこれ大変じゃん!
うっそーん。
みんな、毎回このスリルを味わっているの⁉
空ちゃんに、ごめん、ダメだったよ、大変なんだね、チケット取るのって、今も昔も変わらず大変なんだねと口説いた言ったら、「ああ、人気のある公演だからね、しょうがない。そんなもんだよ」という返事。
後日、空ちゃんはしっかり別日のチケットを手に入れていた。
(私は日程上都合が悪かったのもあり、1度の失敗で諦めた)。
情熱!
それな!
なかなか困難な道のりのような気がするが、いつかきっと、この手になにがしかのチケットをつかみ、私のアイドルを探しに行きたいと思っている。
なにがしかの。
なんかもうこの時点で見つからない気がしないでもない。