イギリス、あぁいとしのイギリス
良く知りもしないのに、むやみにイギリスに憧れていた時期があった。10年ぐらい前のことだ。イギリスに関することならなんでもうっとりできる。盲目的な恋みたいだった。よく知りもしないのに、いやおうなしに心奪われてしまう。これは恋だ。
イギリス男に恋をして、儚い夢を追って仕事を辞め、無謀にも単身ロンドンに渡り、玉砕したりもした(壮絶な体験だったのに、たったの一行ですんでしまうことに、今驚いている)。
はじめて訪れたロンドンは、想像どおり、いや想像以上に、何もかも素敵だった。ここでいつかは暮らすのだと期待に胸を膨らませていたけれど、ただ無色透明な空気で膨らませていただけなので、破裂したあとはペシャンコの風船が残っただけだった。
なにはともあれそんなわけで、クイーンズイングリッシュを習得しようと苦労し、一時期イギリス映画、もしくはイギリスに関する映画ばかり観ていた。今日はそんな私の大好きなイギリス映画から少しをご紹介しようと思う。
マイク・リー監督は、イギリスに恋をする30代からさらに遡ること10年、20代の時に大学の授業で観た「秘密と嘘」が出会いだった。こんなにリアルな人間の「反応」をカメラで追った映画を観たのは初めてだった。プロットはある。逆に、プロットしかない。マイク・リー監督がよく使う有名な手法なのだが、演者におおざっぱなプロットだけ渡す。今から撮るシーンの状況だけを説明し、カメラを回し始める。いわゆるインプロビゼーションといって、即興劇だ。セリフやト書きの書かれた脚本が存在しない。即興で生み出される衝動、伝えた言葉が化学反応を起こした、演者たちのリアルな反応が生々しく記録されている。
画面からは人々のそれぞれの苦悩、苦痛、劣等感が痛いほどのリアルさで伝わってくる。経済的な豊かさとか貧しさとかは、それぞれの抱える人生の心の安定にさして関係ないようだ。みな一様に、人生の苦悩を、沈痛な暗さを、瞳の奥に眠らせている。メンツ、体裁、プライド。息苦しいそんなものたちでなんとか隠し、それでも隠しきれていなかった秘密や小さな嘘が、後半のシーンで一気にめくれ、痛みに触れ、泣きだす登場人物たち。
ふくみのある書き方をしたので気になる人もいるかもしれない。興味があったら是非見てもらいたい。この記事でも書いたのだけれど、
私の映画の好みはアクションやホラーなど外的刺激を楽しむタイプではなく、人間の内面の微妙な動きを追うようなものだ。こういった「状況と反応」をただ静かに追っていくだけの映画がたいくつでたまらないという人たちが一定数いることは仕方がないことかもしれない。しかし一方で、平凡で普通な人たちの、平凡で普通な人生ほどのドラマってあるのかな、と思わせる説得力がある。優秀なエンターテインメントだ。人んちの家庭事情をかぎつけたくなる私の低俗な根性すら満たしてくれる。私は役者になりたかったことがあったのですが、マイク・リー作品に出させてもらえた役者は本当にうらやましく思うし、こんな監督の元で映画を作ることができたらどんなに幸せだろうと今でも思うのです。
そして、同じ手法で撮影された「キャリアガールズ」も大好きな映画。主演のカトリン・カートリッジという変わった名前の役者もすごく良くて。これも繰り返し繰り返し観て、しばらく観なかったけど、やっぱりたまにむしょうに観たくなって、でもどこにも落ちてないからDVDを買った。暗くてじめっとしてて、イギリスって感じ(イギリスに失礼かもしれないけど、どうしてもカラッと明るい太陽と青い海!VIVA!なイタリアとは対照的なのだ)。画面も常に青暗い感じで、寒々しい。もっとも、回想シーンをあえて青っぽい画面で描いているのだが、それが妙に冷たい雨の多いイギリスを、そして敏感で傷つきやすい彼女たちの感受性をうまく描き出しているようにみえる。
気弱で肌にアトピーをつくってメソメソ泣いてばかりの心理学科の学生アニーも私みたいだし、いつも何かに怒っていて尖って攻撃的で、でも大事な人には本当の優しさを隠せないハナも私みたいだ(自分で言ってしまうが)。 この二人、対照的なのに、この二人のどちらにも自分を見出してしまう。
6年ぶりにロンドンに住むハナに会いに来るアニー。アトピーもなくなって、人の顔色ばかりみて怯える癖はだいぶなくなったようだけれど、ハナの何気ない一言やしぐさでちょっと傷ついた表情をするところがかすかに見え隠れするあたり、芸が細かい。
今日はイギリス映画を紹介のつもりで書き始めたけど、マイク・リーで埋まりそうだ。
All or Nothing、邦題「人生は時々晴れ」もめちゃくちゃいいです。私にとってこんなに打率のいい監督もいないのよ。これも、ほつれた家族の物語。破綻した人間関係を描く腕、最高だよ。マイク・リー。これもDVD買おうと思う。
最後に。およそマイク・リー作品とは思えないジャケットとタイトルに惹かれて観てみたこちらはアカンかった。まず、この主演の女の人が無理だった。非常識な感じが苦手だし、うるさいし。いい子なんだろうけど無理でした。はみだした人間は好きだけど、憎めないはみ出し者じゃなくて、生理的に無理なタイプのはみだし者だった。。無秩序な感じが観ていて疲れた。。個人の感想です。。マイク・リー、"ハッピーゴーラッキー" 的なの描くの苦手なのに無理して作ったんじゃ…って感じ。観ててすごく疲れるしイライラするので、もう観ることはないと思う。結局観た後に不快感しか残らない映画。マイク・リーは得意分野だけやっててください。ちなみに今これ書いてて発見だったのが、私の好きな「人生は時々晴れ」にこの役者(サリー・ホーキンス)出てたらしい。どこにいたっけ??やっぱり「人生は時々晴れ」はDVD買ってもう一度観ないと!マイク・リー作品は、動画配信サービスではなかなか見つからないのです。
あ、そうそう。この映画はことさらに、イギリス英語が聴き取れなすぎて絶望した。ロンドン弁(コックニー)なんだろうか?もう、もはや英語ではなくてちがう言語なのでは?と思うほどに聴き取れなかった。
番外編だけど、昔1977年にマイク・リーがテレビ用に描いたこれも、絶妙な人間模様が面白い。
マイク・リー作品に対する思いは書ききれないので、おそらくいつか後編も書きます!まぁ、映画のレビュー書くの苦手だから、たいしたことは書けないわけですが。
好きな映画は繰り返し繰り返し観たくなる。あのシーンのあの顔。あの表情。やっぱり私は演技(感情のリアルな反応)を観るのが大好きなんだよね。マイク・リーの映画は、そんなところを楽しめる映画が多いのです。
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