【英語で文化を話そう】言葉の背後に何がある?
自分の描いたマンガやイラストを海外の人に見て欲しい。
だから英語で作品を書きたい、または翻訳をしたいと言う方もいるのではないでしょうか。
今回は、マンガの翻訳にまつわるお話をします。
なかなか難しく、そして面白い問題がたくさん出てきていますので、これからAI翻訳を使ったり、翻訳に出したいと言う方の参考になればと思います。
純粋にマンガを楽しみたい方には蛇足となりますので、ここでUターンを(笑)
ただ、これから英語でお話を書きたい方には、楽しんでもらえるかと思います。
私のイラストやマンガはできるだけ日英併記にしています。
その理由ですが、本文はブラウザ翻訳をかけれますが、絵は翻訳ができないから。(iPhoneなどで画像を見たときは、右下のアイコンからテキストハイライトと翻訳が可能)
私のことを応援してくださる方は海外在住の方も多く、その方々にも絵やお話を楽しんで貰いたかったからです。
そのため、英語に関しては富田梨恵さんに監修や翻訳をお願いしています。
梨恵さんは英語と日本語のエキスパートですがネイティブではないため、梨恵さんからネイティブチェックをShōn Senseiにお願いしています。
では、今回はこのお話から抜粋しましょう。
マンガの翻訳で、一体どんなことが起こったのか、一緒に見てみたいと思います。
絵で説明できることは言葉にしない
私の本職のひとつにアニメーション制作があります。
アニメの絵コンテを描くときに心がけていること。それは、映像で見えていることをセリフやナレーションで言わないと言うこと。
例えば、雨が降っているシーンで「今日は雨だ」と言わせるのは無駄です。
雨の空を見上げて「あーあ、がっかり」とひとりごとを言わせるのも、場合によって野暮です。
だって、がっかりしている様子が映像になっていたら、そのセリフはいらないから。
こんな感じなら、主人公の過去に繋がる物語があるように見える。
日本語は、こういう言葉の裏側を想像させるのにとても適した言語だと思います。あとで述べますが、こういうときは高コンテクストなセリフにすると物語が膨らむということです。
さて、今回の焦点となったのは、2コマの翻訳でした。
2パターンの翻訳ができた…さあどちらにする?
この部分はRieの翻訳とネイティブチェックの修正に相違が出ました。
Shōn氏の訳は流れるようで、とても美しいですね。小説だったらこちらかもしれません。
しかし私はRieの訳を採用することにしました。
さてその根拠はどこから来たのでしょうか。
私たちがネイティブの修正を採用しなかった理由は2つあります。
ひとつは、私たち日本語ネイティブの考える新しい翻訳の形があるのではないかという模索。
そして私の理由として、絵で見えているものと翻訳が合っているか?絵の説明をし過ぎていないか?という、上記に書いた観点からです。
左のコマ、カドゥは本を見ながら独り言を言っています。
本を読みながら「I can take a train and see the lavender fields.(電車に乗って、ラベンダー畑を見よう)」という綺麗なセンテンスで話すだろうか?
本のキャッチコピーを読み上げるとか、文中の一部を切り取って喋ってる風のほうが絵に合うため、SVのない翻訳を採用しました。
右のコマでは、メモをしながら独り言を言っています。
元々のセリフは「ブイヤベースも忘れずに」でした。
これをズバリ「must eat : bouillabaisse」と翻訳したRieは、すごく勘が良くて、さすが日本語ネイティブの翻訳だな!と思いました。
あまりに良くて、日本語のセリフも「ブイヤベースも食べなきゃ」に変更しました。
And I have to try the bouillabaisse.(そして、ブイヤベースを食べなきゃ)
Andから入っていますし、前のコマのセリフを受けてのセリフで綺麗に流れています。ですが、これだとちょっとlow context(低コンテクスト)すぎる。ブイヤベースのことだけに触れている感じがする。
このシーンはメモをとりながら話す言葉なのでhigh context(高コンテクスト)なセリフにしたかったのもあります。言葉の裏や言葉になっていない続きがあって、何かが隠れているようにしたいということです。
コンテクストの問題
さて、ここでも、上の方でも出てきた、コンテクストという言葉。
英語や現代アート、建築などでも使われる言葉です。
文脈とか背後とか、文化の共有とか。言葉の裏側にあるものということですね。日本語だと「行間を読む」「空気を読む」という感じです。
日本語は空気を読む、高コンテクストな言語です。言葉の裏に何かがある。
英語は低コンテクストな言語です。言葉をそのまま受け取る文化です。
そうか!こういう感覚が、日本語と英語のネイティブの差を生むんですね。
だから、ネイティブ案は「ブイヤベースを食べないと」という言葉そのものをそのまま過不足なく伝えているわけだ。
左コマのカドゥは旅先の情報をメモしているので、must eat : のあとには、ブイヤベースだけじゃなくてラタトゥイユとかピエ・エ・パケとかいろんなのをメモしそうな感じがする。
だから私は、センテンスで言い切らない方が合うと思ったんですね。言葉で言い過ぎたくないと。
絵に合わせるセリフは高コンテクストになりがちな上、日本語自体が高コンテクスト。
シンプルに真っ直ぐ表現する英語に翻訳するには、こういう部分のズレがあることを今回知りました。
英語はその国それぞれの英語があります。
日本のマンガには、日本語ネイティブが考える英語が良いのではないか?と試行錯誤中です。高コンテクストで日本人以外には分かりにくいかもしれないけど、それが日本語のマンガの良さとも思うからです。
さて、今後もっと難しい内容のストーリーを書いているのですが…今からドキドキしつつ、翻訳がどう転がるか、楽しみでもあります。
言葉って難しくて、そしてとても面白いですね。
↓ ↓ Rieこと、富田梨恵さんから見た記事もどうぞ!