りんごの押し売りと、ストウブ
両親が相次ぎ入院した夜、
疲れ果てて帰宅すると生協の配送トラックがガレージの前に停まっていた。
呼び止めて、急ぎ次週からの食品の配達をキャンセルして貰い一安心。
しかし翌週、カタログと一緒に届けられたのは二つのりんごだった。
我が家には、母が毎週注文していたりんご、柿などが溢れている。
私と娘だけで毎日食べても食べきれず、
知り合いに持って行ったばかり。
そんな事情は別としても、配達はキャンセルにしたのに、なぜ?
配達の男性は言った“せめてりんごだけでも…”
いやいやいやいや
そう言いたかったが、不躾と思い
私は“食品はキャンセルしたのですが”と呆然と言った。
そうですか、残念です、といった表情で彼はりんごを持ち帰った。
私、なんだか悪いことを言ったのかしら。
定期配送で、キャンセル不可、とか?
そして今週、留守にしている間に、
玄関先には宅配の発泡スチロール箱が置かれていた。
まさか、ね?
恐る恐る、でも少しだけ面白がりながら
私は蓋を開けた。
そこには、ビニールで梱包されたりんごが二つ、ちんまりと入れられていたのだった。
私は宅配センターに電話した。
いつも高齢の母がお世話になっていることをお礼し、
先日と、今週のりんごはキャンセルができているか確認、
配達男性の“せめてりんごだけでも”の意図が計りかねることを話した。
あまり意地悪くならないように。
担当者は謝り、確かに私からのキャンセルは受け付けていると説明しながら
“なんでそんなこと言ったのでしょうね…”と言った。
ええー
なんか、この会社、面白い。
あまんきみこさんとか、何かのファンタジーを読んでいるような不思議な気持ち。
入院前からある大量のりんごは、味がぼんやりして来たので煮ることにした。
ストウブに、薄切りにしたりんごをわさわさと重ねて、
蓋をしてしばらく中火で蒸す。
蒸気が出てきて中を覗くと、もう果汁が鍋底にたくさん染み出して来ていた。
砂糖が見当たらず探すと、きび砂糖が見つかった。
砂糖は目分量、あとは柔らかくなるまで煮ていたら、
部屋中が甘い香りになった。
見た目はパッとしない、
“りんごの炊いたん”という感じのものがイワキの容器二つに出来上がった。
無事退院した父は、これはいいねと言った。
体調いまいちの娘も喜んで
冷蔵庫で冷やしたのが、喉に気持ちいいと言う。
バニラアイスに載せようかな。
娘は、アップルパイにしたいけど、
扁桃腺がやられている今は、パイ生地が喉にぶっ刺さりそうと笑った。
改めて、
あのりんごの配達はいったいなんだったのだろうと可笑しくなった。