りんごの香り
母が退院。バタバタの我が家。
父の田舎や、私の従姉妹からの年末の小包が届いて、にわかに果物がいっぱいになる。
安曇野のりんご、干し柿、
香川の面白い型のキウイなど。
娘の発案で、またりんごを煮込んだ。
二人で大量に切る作業が楽しい。
りんごの◯◯◯
りんごの◯◯煮
アップル◯◯◯◯
どれもしっくり来ない、
コンポートやコンフィチュールでもなく、
きび砂糖を加えてストウブで煮ただけだ。
父が、張り切って母にコーヒーを淹れたのはいいが
なぜか流しに置きっぱなしにしたコーヒー滓で排水溝が詰まり、
私はイライラと片付ける。
食卓にはみかんの皮が置きっぱなし。
そのくらいはやって!と私の言葉はきつくなる。
そう言えば母の介助についても
私は父にガミガミ指導したばかりだった。
まずい、言い過ぎかな。
リビングには退院後の荷物が溢れ、
床に置きっぱなしのそれらに母がつまづいたら大変。
コーヒーをどうにかしたら、
荷物を片付けなくては。
まだ歩行が覚束ない母からは、遠慮がちに、でもわりと頻度が高く、
スマホを取ってちょうだい、
寒いから何か掛け物ないかしら、
私のあの書類はどこかしら、
とあれこれ要望が飛んで来る。
母本人は、大量に溜まった請求書やハガキなどを整理中。
りんごにシナモンを入れてみようかな、
娘に言われて探すが見つからない。
最近母が一切使わなくなったスパイスの引き出しを探してみる。
そこにあったガラムマサラにびっくり。
なんと賞味期限が10年前。
詰め替えた覚えはないし、そもそも使った記憶がないそうで。
スパイスなんだから大丈夫よ、と母は言う。
幸いに、未開封。
使わなかったようだけど……
そこに、娘の煮ているりんごの香りが漂って来た。
ああ、りんごの甘い香り、いいわね。
そう言う両親に、娘が“味見して”と小皿を渡す。
ばば達がいいねって言ってくれて良かった。
娘の言葉に、少し優しい気持ちになる。
娘は洗い物は私に任せて、のんびりPCを見始めた。
まあ、いいか。
明日はクリームチーズを買って来て
干し柿に挟んで食べようかな。