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男もすなる日記といふものを女もしてみんとてするなり。

履修登録や新入生オリエンテーションに忙殺される毎日。
授業は始まっていないが、わたしは大学生になったことを実感し始めている。

先日、新入生歓迎会があり色々なサークルの活動内容や雰囲気を知る機会があった。 
それぞれのサークルが決められたスペースにブースを作り、そこでサークルの説明をしたり、新入生からの質問に答えたりする形式。サークルによってはステージでの発表もあった。
前もって地図やサークル一覧などの資料が配られていたので、興味のあるサークルや絶対に話を聞きに行きたいサークルは予めマーカーで印をつけていた。
だけど興味の有無に関わらず色々なサークルをみてみようと思い、片っ端から回った。


前日、資料に目を通し情報量に殴られていると競技ダンス部の文字を見つけた。
競技ダンスはたまにテレビで取り上げられていたり、漫画の題材になっているから聞いた事がある方もいると思うが、まだ知名度が高いとは言い難い。
簡単に言えば、社交ダンスを競技化したものである。

そんな競技ダンスの世界にわたしが興味を持ったのは高校生の頃だった。『ボールルームへようこそ』という漫画が原作のアニメを観たことがきっかけだ。
ざっくりとしたあらすじ。主人公の富士田多々良(ふじた たたら)は平凡な中学生だったが、プロダンサーの仙石要(せんごく かなめ)と出会い、自分を変えるために競技ダンスの世界へと踏み出す。
このアニメがわたしに競技ダンスの世界を教えてくれた。
すっかり魅了されたわたしのこの頃のYouTube履歴は競技ダンスの大会動画でいっぱいだ。

競技ダンスかっこいい、やってみたい という気持ち 
vs 
わたしにこんなステップできると思えない、出来ない という気持ち 

ふたつの相反する気持ちが拮抗していてなかなか踏み出せずにいた。いつも引き分けのまま、競技ダンスへの興味をどうすることもできないまま。
わたしは流れる時間に任せてやってみたい気持ちに蓋をする選択をした。

まさかこんな形で再会できるとは。
自分にはできないと蓋をしてしまったものともう一度向き合えるチャンス。逃すまい、と地図に黄色のマーカーペンで線を引いた。

新入生歓迎会当日、競技ダンス部のブースに行くと某推しグルの某メンバーにそっくりな先輩がいた。その先輩が活動について丁寧に詳しく教えてくださった。
部員の99%が大学に入ってから始めたようだ。
みんなほぼスタートラインが一緒だからできるかも。いや、本当にわたしにもできるのだろうか。

前向きで後ろ向きな思いが未だに居座っていたことを改めて感じつつ、他のサークルも見てみることにした。

「あ!さっきは来てくれてありがとうね。この後ステージで発表があるからよかったら観にきてよ。」

ベンチで休憩していた時に偶然通りかかった競技ダンス部の先輩に声をかけられた。1時間くらい前に説明してくれた某推しグルの某メンバーにそっくりの先輩だ。
わたし以外にもたくさんの新入生に説明をしていたのに覚えていてくれたことがとても嬉しかった。顔に出ていたかもしれない。それくらい嬉しかった。底なし沼だと思う。
もともとその予定だったので「観に行くつもりでした!楽しみにしています。」と伝えた。

パフォーマンスの時間までステージの前でぼけ〜としていたら、競技ダンス部の先輩方がステージの横で待機しているのが目に入った。
仲が良さそうに談笑しているのを素敵だなあ、と眺めていると某推しグルのメンバーにそっくりの先輩と目が合った。と思ったら手を振ってくれた。よくある勘違いかも、と後ろを確認したが、わたししかいなかった。
危ない危ない。
マスクがなければ、にこにこしていたのがバレてしまっただろう。つくづくずるい先輩だなあ、なんて思っているとパフォーマンスの時間になった。

競技ダンスを生で観るのは初めてだったが、最初の曲は某世界的ボーイズグループの某曲。
振りはオリジナルだった。ジャズダンスと日本舞踊しかやったことがないので詳しくは分からないが、多分競技ダンス要素を取り入れた振り。
観客の注目を集めるために多くの人に知られている曲で始めたのだろうか。真意は定かではないが、わたしは競技ダンスが以前より身近に感じられた。

その次からは競技ダンスらしい曲。
ワルツの優雅さ。ラテンの力強さ。
2人の人間が踊っているのではなく、もはや1つの生命体だと思ってしまうほど息の合ったステップ。3年程前に蓋をした気持ちが1秒ごとに膨らんでゆく。

やってみたい気持ちの圧勝だ。


その日の夕方に体験会があった。
最初はそんなイベントがあることすら知らなかったが、某推しグルの某メンバーにそっくりな先輩からのLINEで体験会の存在を知った。
ちょうど予定もなかったので行くことにしたが、集合時間が近づくにつれて鼓動が速くなっていく。不安が膨らんでいく。
どうやら後ろ向きなわたしを完膚なきまでに叩きのめすことはできなかったらしい。

先輩方と合流して、色々と話して、ニックネームのようなものも頂いて。(他大学の競技ダンス部でもみんなニックネーム的なものがついているらしい)
スタジオに移動して、もっとたくさんの先輩とお話しできて。
温泉みたいにぽかぽかした雰囲気に既に居心地が良いと感じていた。

デモンストレーションを観てからいよいよ体験。この日はワルツの体験だった。最初こそ不安でいっぱいだったが、徐々に楽しいと思えてきた。
丁寧に教えてくださった先輩方のおかげだろう。教えていただいている間パンクしそうだったが、ワルツの基礎中の基礎、、、なのかわからないが教えてもらったステップはなんとか覚えられた。正確にいうと、先輩方の足を見ていれば踊れる状態になった。カラオケの文字を見ていれば歌えるけど、歌詞が表示されていなければ歌えない、みたいな。分かりづらいけどそんな感じ。


2時間の体験で競技ダンスに対する恐れよりも楽しさが上回った。わたし自身にかけてしまっていた呪いが解けたようだ。
部内の雰囲気もとても良くて、温かくて、入部したら楽しそう。入りたいな、とぼんやり思った。

帰りの電車で1人になってからもずっとどきどきしていた。
お酒を飲んだ後みたいな楽しい気持ちのまま夜の東京を眺めていた。1滴も飲んでいないけど。
20歳以上で、しかもお酒を好んでいる人にしか伝わらない表現かもしれない。わたしみたいな。

どきどきの正体はきっと、新しい世界に飛び込んだ時にだけ訪れる高揚感だろう。このわくわくした気持ちは絶対に忘れたくない。忘れない。

過去の恋愛を元にした書きかけの小説もどきをほっぽって、この日のことを書き始めた。忘れてしまう前に新鮮な気持ちを残しておきたかったからだ。

それくらい、わたしにとって大切な日になった。

既に次の体験会が楽しみだ。

競技ダンスやってみようかな。

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