デザイナーがコン活(=コンペ活動)をやることで感じたメリット
コン活。それは、コンペ活動の略。
彼氏彼女や結婚相手を探すために、マッチングアプリや相談所に勤しむことではなく、己のアイディア力や表現力を認められる機会を手にするために、色々なコンペに勤しむこと。
デザイナーに転身した4年くらい前に、名前は忘れてしまったが、実力のあるアートディレクターさんが、若かりし頃自身のデザイン力を鍛える方法として、コン活ーーーコンペ活動をしていたことをあげ、そのメリットを語っていたのをSNSで見かけて知ったのだ。
それから月日は流れ、今では私も定期的にコンペに出せるものは出す活動をしている。
そして先月、会社のデザイン部内勉強会で話す機会があり、同僚さんからアンケートをとった結果、このコン活について話すことになった。
コン活歴2年、そんなに受賞歴もない上にまだまだ未熟な部分がある私だが、勉強会の資料をまとめるうちに、現時点で多少なりともこのコン活のおかげで鍛えられた部分があると気づけたので、せっかくなのでnoteにも書いてみようと思う。
はじめたきっかけと経緯
大きなきっかけは、宣伝会議の「アートとコピー講座」だった。
私はいわゆる未経験からデザイナーになったキャリアで、新卒はSIerでサーバーサイドエンジニア、その後は制作会社でフロントエンドエンジニアをやっていた。前職に入社してデザイナーとしてなんとか活動するようにはなったが、まだまだペーペーなため、一人でデザインをする機会も少なく、実績も実力もまだ全然何もない状態だった。
「どうせなら誰かと一緒に組んで自分でデザインする機会が欲しいな」とぼんやり思っていたところ、たまたま広告で見つけたのがこの講座だった。
宣伝会議にも色々な講座があるが、この講座はアートディレクター講座とコピーライター講座をドッキングしたような講座だった。デザインを担当するアート生とコピーライティングを担当するコピー生が毎回ランダムでペアを組んで課題に取り組むという、ペア参加形式だ。
その課題の一環で実際にコンペに挑戦することもあったのだが、やがて講座で知り合った人と授業外でもコンペに挑戦するようになり、その結果色々なアイディアを考えたり、表現を試したり、試して試して試しまくるようになったのだった。
実際にどんなものを出したか
今まで挑戦してきたものの一部を挙げると、大体こんな感じ。
基本的には広告・デザイン系のコンペに出している。それと並行して、販促コンペなどの企画系のコンペにも出すことによって、ビジュアルを考える前段階の企画思考能力も鍛えられるので個人的にはおすすめだ。また、一つのコンペでグラフィック部門とプランニング部門に分かれている場合もあるので、余力がある場合に2つの部門に出す、ということもやろうと思えばできたりする。
グラフィック系であれプランニング系であれ、それぞれでアイディアを考える楽しさややりがいはどちらも個人的に感じている。ここで、実際に応募して受賞はしなかったが個人的に印象深かったものをいくつか紹介したいと思う。
販促コンペ
10pの企画書で100万円を目指す、プランナーなら大体の人は知っている企画型コンペ。一次通過率が毎回10%以下なので、企画コンペの中では結構な激戦を繰り広げている。
カロリーフォースンドゥブ
「スンドゥブを家で食べようと思いたくなるアイディア」のお題で出した企画。スンドゥブがダイエットメニューに適してることに着目してジムに絡めた案。企画書のデザインはインパクトありつつ読みやすくできたが、ジムと絡めるアイディアは結構ありふれているのではないかと反省。
刺激の証明
「サントリー 天然水 THE STRONGを飲んでみたくなるアイデア」のお題で出した企画。THE STRONGがサントリー天然水で作られていることに着目し、天然水が採取できる森に住む動物たちがTHE STRONGと出会ったらどうなるかを比較型ビジュアルで表したもの。チームメンバー全員ハイテンションになって作った企画書だが、完全に振り切ってしまいすぎて、企画案自体がそもそも結構怒られそうなものになったかもとちょと反省している。
Japan Six Sheet Award
受賞すると副賞として屋外掲載のチャンスがあるOOH広告コンペ。グラフィック部門と動画部門の2つがある。バス停や街中で見かける広告媒体のデザインを考える機会としても良い経験になる。
漕ぐチカラは、稼ぐチカラ。
Uber Eatsの配達パートナーを募集する広告のお題で作成した作品。ペアを組んだコピーライターの書いたコピーから発想した案。コピーをみた瞬間「なんかビジネス書っぽい言葉だ」と思い作成した。なんとなくビジネス書に対する逆張り案ぽくなったのが個人的に面白く感じた。
シフトに縛られない働き方を。
こちらもUber Eatsの配達パートナーを募集する広告のお題で作成した作品。そしてこちらもコピーライターが書いた連作のコピーから発想して作成。当時仕事でイラスト制作することがまだなかったので、結構楽しんで作れた。狙った情景は描けたほうだが、ちょっとネガ要素が強すぎて選ばれにくいものになったかもと反省。
Metro Ad Creative Award
受賞すると地下鉄に掲載のチャンスがある電車広告コンペ。グラフィック部門、プランニング部門、サイネージ動画部門の3部門がある。
優しすぎるティアーレ男子
「使い捨て目薬ティアーレをもっと知ってもらう広告」のお題で出した作品。一緒に組んだコピーライターが「ティアーレの製品に込められたユーザーに対する優しさを表現できたら」と言われて思いついた案。表現するならやり過ぎなくらいが面白いかもと思って作成。狙った絵柄が描けたことは結構満足していたが、使い捨てと言わせるのは流石にちょっと刺激が強かったかもしれない。
上を向いて、休もう。
こちらも同じく目薬ティアーレの案。中吊り広告が上にある点と目薬をさす仕草の共通点を元に作成した広告。シンプルだがインパクトあるものを目指して制作したが、今見るとちょと稚拙なところがあるのが悔しいポイント。また、受賞した作品で目薬を指すという点で別の表現をしたものの方がインパクトがあったので、そっちの方に持ってかれた可能性もある。
使い捨てにすればいいじゃない
こちらも同じく目薬ティアーレの案。目薬について考えた時に真っ先に思いついたのが「使い切らずに無くす」だったので、その点使い捨てはその心配がないと思い作成。マリーアントワネットに喋らせるというタレントパワー的な表現だが、伝わる速度は速いものができたと感じた。
コン活を通して体感したメリット
確かにコンペは力試しにはなるけれども、受賞するまではなかなか活かせないのでは?と思う人がいるかもしれないが、個人的にはそうは思わない。提出作品や企画をしっかり作りきれば、その作りきった経験がさまざまなことにつながると私は考えている。具体的には3つだ。
実務でコンペの経験が活かせる
正直にいうと、自分の中で1番大きかったのがこれだ。
そもそもコンペでは、明確に課題や最終的に何をゴールとしているか課題企業側や主催側が提示していることが多い。ちゃんとした背景設定の元に企画やグラフィックを考えていくプロセスは、実際の業務と同じ工程でありながらも、その前段階であるヒアリング等をすっ飛ばして純粋に企画や絵作りに集中することができるのだ。
そして、コンペでも実務でも言えることだが、「頭の中のイメージを、色々な手を駆使して何がなんでも『まだこの世に存在しないが、この世に実在してるような説得力のあるビジュアル』に仕立て上げること」が重要な鍵になってくる。例えば、販促コンペなどの企画書においては、読んでいる側のイメージがつきやすくなるように、企画書の内容やテイストに合わせてビジュアルを作り込むことが多い。この作り込みの工程が、そのまま広告提案での仮ビジュアル作成、企画提案のラフイメージ作成などのスキル磨きに直結するのだ。
当時私は、デザイナーとしてまだ一年目ということもあり、業務だと基本は上司のデザインをもとに横展開する多かったため、業務で上司のデザインから学びを得ながらも、空いた時間をコンペを通して説得力のあるビジュアルを錬成する訓練をしていた。その結果、業務でいざ提案用のラフイメージやカンプを作る役目が回ってきても、技術的に困ることはなかった上に、コンペでよくアイディア出しをしていたおかげか、自分の方から提案したラフデザインがクライアントに好評だったこともあった。
コンペの中で培ったビジュアル作成能力と、企画思考能力は、そのまま実務に領域展開できるのだ。
仕事では挑戦できない表現に挑めて、結果引き出しが増える
コンペで課題を読んでいるとよく見る文言がある。それは、「既存の発想にとらわれない自由な発想をお待ちしています!」だ。
コンペと業務のもう一つの違いとして、アイディアを考えるにあたって細かい制約に縛られることがないということだ。業務として受けた場合、暗黙の了解やら業界の通例を無意識のうちに踏まえて提案を出してしまうこともあるだろう。ただ、コンペの場合はそういった細かい事情に縛られない状態で考えることをむしろ歓迎される。提示された条件さえ守ればあとは自由に発想して制作に集中できるのだから、「今までやってこなかったけど、こんなアイディア試せるかも!」と思ったものをバンバン試していいのだ。その結果、しっかり作りきれば、たとえ受賞しなかったとしても自分の作例にはなる。一度作った経験は自分の表現の引き出しになるのだ。
人に見せれば成長のきっかけや評価につながる
そして、コンペにおいては2段階成長のチャンスがあると考えている。作品を制作している最中の制作スキル成長チャンス、そして作ったものを人に見せてフィードバックをもらうことによって、作ったものの客観視スキルの成長チャンスだ。
ちなみにこの「人に見せた時のフィードバック」には、身近な友人や同僚に見せた時にもらう反応やアドバイスはもちろん、審査員に提出して結果を出された時の両方を指す。
審査員は、基本的にいろんな作品を見てきた目のこえた人物、そして身近な友人や同僚はフランクな一般消費者として自分の作ったものを判断する。審
査員からのFBはつまり結果発表の受賞者一覧だ。ここで選ばれたものの特徴を分析すると、今の自分に何が足りないかヒントが見つかる。
そして、身近な人にもらうFBは、消費者がいざ初めて作品を目の前にした時の反応そのものだ。自分の作ったものがどんな印象を持たれるかを知ることができる。作って誰かに見せることで、自分の成長のきっかけにつながるのだ。
そして、これは狙っていたわけではないのだが、人に見せるもう一つの効果として、会社の人や周りの人にコン活をしていることを話すと、それだけで評価されることがあるということだ。自分にとっては趣味の一環であったり、勉強の一環だったり、力試しの一環であったとしても、業務とは別で個人で意欲を持って何かをやっていることと認められると、それだけで人の印象に残りやすいようなのだ。
作って終わりではなく、作って人に見せるまでワンセットにすると、思わぬ良いことがいろいろとあるということは、コンペに限らず個人的に体感してることである。
とりあえず気軽に出してみることから
私は幸い、コン活を通じて1個無事に受賞を手にすることができたが、会社の勉強会ではコンペをやったことがない人にも興味を持てたらと思い、受賞以外のメリットや、実際に出して落ちたものについて主に説明するようにしていた。やってみるだけでこれだけでメリットがあって、(受賞するかどうかは置いといて)こんなに自由すぎるものでも出してしまったりできるのだから、とりあえず自分の実力試しや表現力強化、企画発想力強化のための選択肢としては大いにありなのではないだろうか。
とはいえ、本業との両立でコン活をするのは、ちゃんとした婚活をする時と同じくらい根気と時間と体力が必要な可能性が高いため、まずは一作品だけ出してみるというところから始めて自分に合いそうかどうか様子を見てみるのがおすすめである。
MIO(designer & illustrator)
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