空洞の感動
劇中歌は、映像作品において重要な役割を持っていると思う。
例えば、今敏監督の『パプリカ』には平沢進の楽曲が使われているし、蜷川実花監督の『さくらん』には椎名林檎の楽曲が使われている。全て、私が大好きな監督とミュージシャンだ。
科学の力で他人の夢に干渉できるようになった世界線の物語である『パプリカ』には、エレクトリックで幻想的な楽器を使う平沢進の楽曲がぴったりだと思う。
遊郭が舞台の、艶やかで哀しい物語『さくらん』には、椎名林檎の歌声がよく似合うと思う。
以上のように、少なくとも私にとって劇中歌は、映像作品を彩る重要なファクターである。
最近、園子温監督の『愛のむきだし』を見た。劇中歌は、ゆらゆら帝国の『空洞です』だった。
性的虐待に苦しむ女学生と、宗教二世である男子学生、新興宗教に傾倒している転校生が、家族も巻き込んで大騒動する物語である。
新興宗教のアジトに潜入した男子学生が、洗脳されたふりをして教会の掃除をしている場面で、劇中歌が流れる。
おどろおどろしいイントロが展開していき、
「僕の心をあなたは奪い去った」
「俺は空洞 でかい空洞」
「全て残らずあなたは奪い去った」
「俺は空洞 面白い」
と続いていく。
宗教二世の男子学生は、新興宗教の転校生に家族も好きな女の子も奪われてしまう。これは、歌詞の「全て残らずあなたは奪い去った」と繋がっている。
さらに、宗教二世の男子学生は、神父である父のために「罪」をいくつも重ねる。父の愛を得るために「罪」を犯し続けるひたむきさ、愚直さ、純粋さには「からっぽ」「空洞」という言葉がぴったりだと思える。
きわめつけは、新興宗教のモチーフが「ゼロ」つまり「0」であるということだ。
ゼロには真ん中がない。すなわち「空洞」である。
非常に感動した。物語と歌詞が連動している。これは小説ではできないことである。
小説もいいけれど、映像作品もいいなと思えた。
https://music.apple.com/jp/album/%E7%A9%BA%E6%B4%9E%E3%81%A7%E3%81%99/1535500874?i=1535500886