220.才能とかセンスとか認識力とか
少年野球な一日。朝からAチームの試合を見に行って、お昼を子どもたちに食べさせたらもう、午後のCチームの試合。Aは小学6年主体のチームで、Cは小4主体のチームなんだけど、どうしても今は少年野球人口が少ないので、チームの中でも動ける子はどんどん高学年の試合にも出ることになる。
かんちゃん(小4息子)は、今日はダブルヘッダーというわけだ。
野球とかんちゃんについて考える。野球ってすごく不思議なスポーツで、ワンプレーごとに流れが止まるので、局面を考える時間を持つことができる。わたしにとっては野球はスポーツというよりは、将棋とか囲碁とかに近い。だってランナーという駒を進めるゲームだから。
そしてめっちゃ、数をカウントする。まずアウト三つ取ると攻守が入れ替わるので、アウトカウントをするし、ストライクがいくつなのか、ボールがいくつなのか、バッターは何番バッターで上位打線なのか下位打線なのか。ランナーは一塁にいるのか二塁にいるのか。打球を守備がとったら、ノーアウトのときとツーアウトのときでは対応が違う。ランナーがどこにいるのかでも違う。ベースを踏むだけでいいのか、タッチの必要があるのか。
とにかくいつもなにかをカウントしていないと、その局面で適切なプレーができないというのが子どもたちにとってはとてもむつかしいだろうな、と思う。特に”振り逃げ”なんて最高にむつかしい。一塁に走者がいない時、またはツーアウトのとき、三つ目のストライクをキャッチャーが後ろにそらしてしまった場合(パスボールといいます)、バッターは一塁を目指して走ることができる。
だから打席に立っていても、「今はツーアウトで、ツーストライクが入っていて、次のストライクが入ったときにキャッチャーが落としたら、俺はファーストに走っていい.....」ということを理解していないといけないわけだ(少年野球ではけっこうパスボールがあるので、振り逃げでの進塁はだいじ 笑)。
で、かんちゃんは特に運動神経が良いわけでもなく、野球のセンスがあるわけじゃないんだけど、いつもAチームの試合にひとりかふたりの枠で選ばれて帯同されるのは、彼が「局面を理解し、自分が次にすべき行動をわかっている」から。
これに尽きるだろうな、と思ってた。
かんちゃんより足の早い子はチームにいっぱいいるし、彼より打てる子もいっぱいいる。でも、変な話、いくら足が早くても打って飛ばせても、その局面が理解できていない限り、それを生かすことができない、ということだ。
リスクを冒して走っていい局面なのか、むりせずじっくり行く場面なのか。ドカンと一発いちかばちか狙ったほうが良いのか、ゴロの当たりでもいいからとにかくランナーを進めることが優先なのか。もちろんコーチや監督の指示はあるけれど、ほんとうに強いチームはひとりひとりが局面に応じてしっかりと自律して動いている。
わたしがかんちゃんを見ていて感じるのは、頭がいいとか悪いとかではなく「野球というゲームは、局面に応じてやるべきことがちがうらしい」ということに気づいていて「常に頭の中でさまざまな要素をカウントしながら、緻密に進めるモノなんだな」という概念が、彼の中にはできあがっているんだな、ということ。
そして、これまた良い悪いではなく、どうやら他の子たちはまだ、野球というゲームの概念が適切に構築されていないようだ、ということ(もちろん個人の発達度にもよるし、大きな要因は大人の指導によると思うんだけど)。
というようなことを、彼の少年野球ライフをここ数年見守りながら、ずっと考えていた。この、ゲームやプロセスの全体像が、自分の中で概念化されるということが、いろんなものごとにおいてすごく大事なんだろうな、と思えてすごく面白かった。
わたしが彼の中に見出した、この力っていったいなんなんだろうな。論理的思考力?思慮深さ?周りを見る力?ルールを覚える記憶力?それとも野球が好きだという情熱?よくわからない。どれも当てはまるのかな。
とにかく、わたしは彼のことをとても大切に思っているし、かっこよくて優しい男の子だと思っているけれど、なんかうまく言えない上記のような「ものごとの構造そのものを認識できる力」があることを、とても嬉しく誇らしく感じてる。それって、自分なりに問いを立てているからだと思うから。
今、どういう場面だ?アウトカウントは?ボールカウントは?ツーアウトでサードランナーがいるから、取ったらファーストかホーム?次の球のストライクでキャッチャーが取りこぼしたら振り逃げで走られる。ホームが空くとサードランナーは突っ込んでくるから、自分はベースカバーに動く?
一球一球ごとに考え続けて、投げ続ける。「考えろ、考えろ、考えろ、思考を止めるな!」って、炭治郎のように考え.......てるかどうかはわからないけど、そんなふうに自分にいつも問いかけること。その局面での解を自分なりにホールドしていること。決して正解をひとまかせにしないこと。
今日はふた試合とも負けちゃったので、悔しがって泣いていた。
「おれが悪いの?負けたのはおれのせい?おれはフォアボールぜんぜん出さなかったのに」
そうだね。いいピッチングしてたと思うよ。
試合って、スポーツって、勝ったり負けたりするものなんだよ。
「どうしたらいいと思う?」「自分だったらどうする?」「あのとき、どうしたかったの?どうしてほしかったの?」
べつにわたしが野球を指導しているわけでもなんでもないし、特に彼にコーチング的なアプローチで接しているわけではないけれど、自分の体験をいっぱい話してくれるときは、彼が持っている大きな強みである「認識力」というものを、なるべくせばめない方向で聞いてあげたいな、とは思ってる。
フィジカルの強さや、やる気やセンスももちろんだいじだけど、そういうものに恵まれていない彼だからこそ、考える力があるのかもしれない。そういう、素直にすばらしいなあ!と思う資質を子どもに感じられることって、なかなかすてきな体験だと思う。
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