0968.かっこよくてきれいだったよ、と彼はいった
午前はかんくん(小6野球少年)の試合の応援のため、となりの市まで遠征。
いつもなら厳しい球数制限の中で投げている彼だけど、今回は準公式戦という位置付けなので、70球までという球数制限はなし。
よって、先発で登板し、たぶん初めての「完投」を果たして、そして辛くも勝ったので、無事に勝ち投手になったのでした。
おめでとう。完投だって。今日はすべての打席でヒットも打っていて、とにかくかっこいいかんくんだった。
よおし、次はわたしの番だぜ!
と、意気揚々とバッチメイクで会場入りし、控室で軽くストレッチをしたり、振り付けの最後の確認をしながら過ごす(夢みたい。こんな時間を過ごしてみたかった)。そう、午後はベリーダンスの発表会なのである。なんてことないスケジュールなのか、盛りだくさんすぎるのか、頭が混乱する。
さんざん「緊張するんだよ」「頭が真っ白になるんだよ」「振り付けが全部飛ぶんだよ」と先輩がたに脅されて、最悪のケースを想定していたせいなのか、思ったよりも緊張もせず、振り付けを忘れることもなく、ただずうっとワクワクと楽しい気持ちで2曲を踊ることができた。
雨だしさむいし、べつに市の催しだからPRや告知がじょうずなわけでもないので、観客もそんなにいない。
けれど、席のいちばん前には、雨なのにわざわざ来てくれたかんくんが、スマホをかまえて待っていてくれて。そして、「わたしを”踊るひと”にしてくれたのは、あなたのおかげなんだよ」といちばんに言いたかった祝里(のり)ちゃんが、これまた忙しい時間の合間をぬって観に来てくれていて。
それがほんとうに、ほんとうに、びっくりするくらいに感動して、うれしいことだった。
このびっくりするくらいの感動に比べたら、緊張なんてほとんど感じなくって、ただみてくれているひとたちがいるのがうれしくて、幸せな気持ちで踊っていた。
フォーメーションの取り決めで後列になったとき、正直ホッとした。
わたしは、目立ちたくないんだな、引っ込み思案なんだな、と自分でそのときは思ったけれど、いざ本番が始まって、「もっとちゃんとみんなから見える場所で踊りたい」と思っている自分に気づいた。
前列のメンバーがほんとうはもう少しサイドに寄って、そのすき間からわたしが見えるように、というポジションだったのが、前列のひとがほとんどセンターに寄っていたので、そうなると彼女とかぶってしまって、わたしは客席からは見えなくなる。
「それはいやだ」、と強く思って、なんとかちゃんと自分が映り込むようにポジション採りをして踊っていることに気づいたとき、
「なんだよ、どこが引っ込み思案だよw」とちょっと笑いそうになってしまった。だったら最初から前列にいけよ、めんどくさいやつだな!と。
だれかに隠れている自分、いつも後ろに下がりたがる自分、はじっこにいたがる自分。そういうのも、なんかもう、なんていうか”思い込みによって、使い古された自分”なんだな、と思った。
だいたい、引っ込み思案のひとが下着みたいな衣装で、キャバ嬢みたいなくるくるのつけ毛をつけて人前では踊らないだろう。わたしの中にはちゃんと、「見せたい、見てほしい。そして魅了してみたい」という欲があるのだ。
前に出て。真ん中で。
終わってから、かんくんが控室に来てくれるタイミングで、ノリちゃんとも話すことができたので、「来てくれてほんとうにありがとう」と伝えたら、きれいなバラとかわいいお菓子をプレゼントしてくれた。
いつか、ノリちゃんにちゃんと子どもたちを紹介したいなあと思っていたので、かんくんと会わせることができて良かった。
ノリちゃんがかんくんに「お母さんどうだった?」と聞いたら、
「かっこよかった」
と、すごくふつうにそう答えていて、なんだか意外だった。もっと小学生男子らしく照れたりして、冗談ぽく茶化すのかと思っていたから。そしてさらに、
「かっこよくて、きれいだった」
というので、もー!わたしのプリンスは最高だな!と思って、ほんとうは泣いてしまいそうなのをがまんして、頭をぐりぐりとなでまわしてあげた。世界でいちばんすきなひとたちが見にきてくれて、最高の褒め言葉をもらえてたので、その瞬間わたしは地球上でいちばん幸せだったと思う。
仕事でも幸せを感じることはたくさんあるけれど、ちょっとそれとはちがう、ある種独特な喜び。
もう2022年に思い残すことなし!という豪気な気持ちになった。
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