日米のROEは売上高利益率の差にあり
日米の主要企業のROE(自己資本利益率)を比較すると日本企業が米国企業に比べて低く、この状況が継続していることに経済力格差の原因があります。これは日本と欧米企業の売上高利益率の差が主因であると言えます。稼ぐ力が弱ければ賃金も上昇することは難しいです。したがって個人消費も振るわない。コスト構造の違いや為替によるマージンの圧迫、新興国などの新市場への進出状況など、売上高利益率の差の要因は多岐にわたると思われますが、日本企業の利益率は相対的に低く利益率の改善は依然として日本企業にとっての大きな課題です。稼ぐ力が弱いままでは賃金も上がらず、インフレに賃金は追いつかないので個人消費も停滞したままです。この問題を最重要課題として取り組まなければ賃金と物価の好循環は起こりえません。
日米の比較において総資産回転率や財務レバレッジに大きな差は見られません。日本企業はコストカットによるマージンの維持に努める一方です。金融緩和をしていても日本企業の積極的な設備投資も見られません。米国企業は資本コストを意識した経営を行っており、営業キャッシュフローに対する自社株買いの比率は日本企業より高いです。ROEにみる資本効率(調達した株主資本あたりの利益)は米国企業に優位性があります。先進国経済が成熟するなかで新興国の成長を取り込むなど売上高を増加させる戦略にも米国企業に優位性が見られます。
営業利益率を改善するには、売上を増加させる、経費を削減する、原価を下げるなどの方法が考えられますが、これらのいずれも試みてきた結果が現在の日本企業の利益率の低さに表れているのだろうと思います。考えられる改善策としては、商品のクオリティを上げる投資・ブランディング戦略・プライシング戦略があります。マーケティングの観点から言うと日本に定着しているマーケティングはマスマーケティングです。これは産業革命時代の大量生産モデルに対応した大量販売のマーケティングですが、値下げのインセンティブなしには機能しません。日本はこのマスマーケティングを踏襲し、値下げを繰り返して在庫を売るために低利益率になってしまいました。
プライシング戦略では製品の製造原価や市場調査などの情報をもとに顧客や市場にとって高すぎず安すぎない適正な価格を導き出します。また、消費者心理を利用した価格の見せ方(ダイナミックプライシング等)や、ブランディングと密接に関係する戦略など様々な考え方があります。プライシングは利益を決める大きな戦術ですが、よく考えられたものです。ブランディング戦略では企業や製品のブランドイメージを顧客などからどのように持たれたいかを決め、戦略を立てて取り組んでいきます。ブランド名やロゴ・カラー・商品の質・世界観・採用タレントやCMなど様々な要素を組み合わせ、道筋を立てたうえでイメージ形成をしていきます。そのイメージ形成の結果、付加価値を生み、顧客の信頼を獲得します。
商品のクオリティを上げる投資を行い、商品のクオリティを上げ、ブランディング戦略とプライシング戦略を組み合わせていけば他社との明確な差別化・顧客ロイヤリティの獲得・利益率の向上・知名度の向上・企業価値の向上が図れます。日本企業に今、求められているのはマスマーケティングから脱却し、日本人の民族性と時代にあったマーケティング戦略とブランディング戦略・プライシング戦略が同じ方向を向きながら一貫性のある活動を目指すことです。ブランドに対する認知度を上げて、自社の商品・サービスの価値をより高めていき、顧客との関係を長期にわたって良好なものにしていくことしか、利益は企業にもたらされません。かつては顧客との長期にわたる信頼関係を勝ち取ることを重視した経営を日本企業は行ってきましたが、いつしか米国流の四半期決算重視・事業年度見通し重視の短期偏重型になってしまいました。かつての長期的な視野で顧客との関係を紡いでいくこと、それが日本企業に求められている長期的に持続的に稼ぐ力を向上させることにつながるのです。