なぜ リ・ジョンヒョクに何度も会いたくなるのか 『愛の不時着』
「愛の不時着」でヒョンビンが演じる「リ・ジョンヒョク」にハマっている。
このドラマを何周も観てしてしまう理由の一つは、彼に会いたいから。
はじめはリ・ジョンヒョクに恋してしまったのか、ヒョンビンに惹かれているのか判断がつかなかったが、結局のところリ・ジョンヒョクなのだと思う。
正確にはヒョンビンが演じるリ・ジョンヒョクに惚れたのだ。
ここでは、何度も会いたくなる(観たくなる)リ・ジョンヒョクについて深掘りしてみたい。
1. リ・ジョンヒョクという人生
北朝鮮の将校であるリ・ジョンヒョクは、第5中隊を率いる中隊長という立場。
生真面目で融通がきかないところもあるが、誠実かつ自分側にいる人間には愛情深く、部下たちの信頼も厚い。
口数が少ない リ・ジョンヒョクは、あまり感情表現をしないため人に冷たい印象を与える。でも実際は温かい心の持ち主だ。
また恵まれた容姿を持つだけでなく、北朝鮮の総政治局長の息子(物語中盤まで出身を隠している)というサラブレッドっぷりである。
軍人として優秀なリ・ジョンヒョクだが、類い稀なピアノの才能に恵まれ、子供の頃からピアニストを目指していた。スイスの音楽大学に留学した経験もあるほど将来を期待されていた。
しかし、軍人だった兄の突然の死によって彼の人生は大きく変わった。
兄の代わりに軍人となり自分の夢を諦めることを余儀なくされたのだ。
兄を人一倍敬愛していたリ・ジョンヒョクは、兄の死以来、心を閉ざして生きている。自分の宿命を受け入れ、未来に夢を持たず淡々と与えられた役割をこなしていた。
また彼には親が決めた美しい婚約者がいるが、結婚も宿命のひとつとして受け入れ、そこに彼の希望や意志のようなものは存在しない。
一方、未来に期待をせず生きている彼の関心事は、事故死とされている兄の死の真相だ。「兄の死は本当は事故ではないのでは」という疑問を抱き真実の追求に執念を燃やしている。
いずれにせよ、兄の死がリ・ジョンヒョクの人生に大きな影を落としたことは間違いない。
2. リ・ジョンヒョクを目覚めさせたユン・セリ
そんなリ・ジョンヒョクに人生を変える出会いが突然訪れる。
パラグライダーの事故で韓国から不時着したユン・セリとの出会いがそれだ。
リ・ジョンヒョクは、北朝鮮の非武装地帯に不時着したユン・セリを発見したものの、彼女を取り逃がしてしまう。
冷静沈着・俊敏で強靭。軍人として素晴らしい資質を備えたリ・ジョンヒョクだが、実は意外と抜けている。そのギャップが彼の魅力でもあるのだが、ここではその抜けているところが災いした。地雷の専門家と自称する彼自身が地雷を踏むという失態を犯し、ユン・セリに逃げられてしまうのだ。
北朝鮮において不法に侵入してきた人間を取り逃がせば重い処罰は免れない。
要するにバレたら終わり。
しかし運命のいたずらか、ようやく発見したセリを匿うことになってしまう。
彼にとってユン・セリは自分や中隊員達の地位を脅かす火種だ。つまり厄介な女。
本来なら処分するか(殺すか)、軍の機関である保衛部に引き渡すべきところだが、頭の回転の早い南から来たこの女に「自分を取り逃がしたことを保衛部に話す」と脅され、秘密裏に彼女を南に帰すことを画策する。
こうしてユン・セリと運命共同体となるリ・ジョンヒョクと中隊員達。
ユン・セリがリ・ジョンヒョクの家に潜んでいるところを保衛部に見つかった時には、その場をしのぐために彼女を「自分の婚約者」だと嘘までつく。
でも結果としてこのことが二人の距離を縮めたと言えるだろう。
とにかく厄介で何かと世話のやける女だが、リ・ジョンヒョクはなぜか彼女が他の男の話をしたりするのが面白くない。彼女の前では拗ねたり嫉妬したりとポーカーフェイスが保てない。
一方で、意図せず北朝鮮に舞い降りてしまったユン・セリの心情も理解している。
知らない場所にたどり着き、帰国できる保証もない。
悲しくて、怖くて、不安なはず。
顔にこそ出さないがリ・ジョンヒョクにはそれがよくわかっている。
そんな状況でも、ユン・セリは前向きに事態を捉え、強がり、言いたい事をズバズバと言う。時にわがままで世話がやけるが、自分の前では弱いところや涙も見せる。そんな彼女に心揺さぶられるリ・ジョンヒョク。
祖国である北朝鮮から最も近くて最も遠い場所から来た南の女が、気がつかないうちに彼の心に入り込んでいた。
さて、脅されたとは言え、リ・ジョンヒョクがユン・セリの帰国を手伝うのは自分や部下の身を守るためだけではない。
彼女を無事に家に帰してあげたいと心から思っている。
しかしリ・ジョンヒョクは慎重だ。
自分のユン・セリへの気持ちに気づきながらも、彼女と一線を引く事を忘れない。
第一、自分には親が決めた本物の婚約者がいる。それにユン・セリは近々南へ帰る身だ。内心彼女を帰したくないと思っていても、帰さなければ自分を含めた皆が困ったことになる。本人も帰国を望んでいるし、ユン・セリを南に帰す以外の選択肢はない。つまりユン・セリは絶対に恋してはならない相手なのだ。
一方、恋に慣れていないリ・ジョンヒョクと違い、ユン・セリは自分の気持ちをさりげなく吐露する。
船渡しでユン・セリを帰国させようと港に向かう車の中で彼女が言う。
アフリカにも南極にも行けるのに あなたは よりによって ここにいるのね
帰りたがっているくせにリ・ジョンヒョクとの別れを惜しんでいるかのような発言をサラリとするユン・セリ。
直接的な言葉ではないからこそ想いはジワジワと伝わる。
それにしてもこの二人の相性は抜群だ。
感情表現豊かなユン・セリと感情表現をしないクールなリ・ジョンヒョク。
無邪気で積極的なユン・セリとそれを静かに見守るリ・ジョンヒョク。
磁石のN極とS極のように異なる二人だから惹かれ合う。
たとえば、帰国計画の準備のために二人で訪れた平壌で、ユン・セリが告白に近い行動をとる場面がある。
酔いも手伝いリ・ジョンヒョクの肩に頭を乗せて寄りかかるユン・セリ。
そんな彼女に「頭が重い」と文句を言うリ・ジョンヒョク。
彼は常に心にブレーキをかけているが、そんなことは気にせずユン・セリは言う。
(頭が重いのは)頭が混乱しているからなの
不思議がるリ・ジョンヒョク。
帰れるのに なぜ混乱する。 喜べばいいのに
幸せなの 幸せだがら混乱してるの
リ・ジョンヒョクがいくら自分の気持ちを抑えても、ユン・セリは少しづつ彼の心に侵入してくる。硬く閉ざしたリ・ジョンヒョク心は彼女によって溶かされていく。
決定的な出来事は船渡しの失敗後、ユン・セリを空路で帰国させる計画実行途中に起きる。
リ・ジョンヒョクはユン・セリを銃から守ったことで撃たれてしまい、彼女は飛行機に乗らずに彼を病院へ運んだ。意識を取り戻したリ・ジョンヒョクは輸血に協力し病院で献身的に看護をしてくれたのがユン・セリだと知り、彼女への気持ちが抑えられなくなってしまう。
それからの彼の行動はユン・セリ一筋だ。
本物の婚約者であるソ・ダンには「好きな人がいるから結婚できない」と真っ先に告げるという潔さ。ソ・ダンにとっては辛い告白だが、結果としてユン・セリにもソ・ダンにも誠実な対応。優柔不断なところがまったくないのもリ・ジョンヒョクの魅了のひとつだろう。
ユン・セリを愛している事を認めた後は、彼女を守ること、そして無事に南へ帰すことが彼にとって第一の使命となる。
そのためには自分が死んでもしたがないとさえ考えている。
なぜなら彼は愛する人を亡くした苦しみを知っているから。そしてそれが死ぬより辛いことだということとも。
リ・ジョンヒョクには他に選択肢はないのだ。
またユン・セリを無事に韓国に帰した後も愛する人を守る使命は消えない。
兄を殺した張本人であるチョ・チョルガンがユン・セリを狙っていることを知ると彼女を守るため、命をかけて韓国に侵入するという危険な行動にさえ出る。
兄の死後、宿命を淡々と生きてきたリ・ジョンヒョクだが、自分の情熱に従い未来に夢や希望を抱くようになっていた。
韓国でユン・セリがリ・ジョンヒョクを守り、銃に撃たれ重体になった時の場面で、それが如実に語られる。
(兄を亡くして以来)ぐっすり眠ることもなく冗談も言わず、演奏もしなかった。
そして誰も愛さなかった。
ある日 僕の世界に不時着した君に会うまでは そんな人生だった
でも今後は つらくてもかまわないから 君がいる人生をおくりたい
叶わぬ夢でもいいから 未来を夢見てみたい
だから 死なないでくれ
ユン・セリとの出会いでリ・ジョンヒョクの人生は大きく変わった。
彼女が彼を目覚めさせたと言っても過言ではない。
3. リ・ジョンヒョクの「僕の女」の守り方とその温かさについて
多くの視聴者が「愛の不時着」を何周もしてしまうのは、リ・ジョンヒョクがユン・セリを守る場面を観たいというのがひとつの理由なのではないだろうか。
とにかく、リ・ジョンヒョクは女が理想とする男そのもの。
安定感があり頼り甲斐がある。
精神的な支えになるだけでなく、物理的な危険からは身もって守ってくれる。
誠実で一途。口数は少ないが心は温かく優しい。素直で純朴。
控えめに嫉妬したり拗ねたりするところがまたカワイイ。そして容姿端麗。
ここまで揃ってしまうともう敵うものはいない。
そんなリ・ジョンヒョクにとって「僕の女」であるユン・セリを守ることは、兄を殺した犯人を突き止め失脚させた今、人生の最優先事項になった。
ちなみにリ・ジョンヒョクが「僕の女」という表現を使ったのは、兄の仇であるチョ・チョルガンとの会話の中。
余談だが、Netflixの日本語字幕は刻々と修正・更新されているみたい。1ヶ月前は「僕の女」ではなく、確か「俺の女」という字幕だったと思う。
ところでこの「僕の女」と訳される韓国語「내 여자(ネ ヨジャ)」は、日本語で聞くほど "俺のもの感"、 いわゆる所有のニュアンスはないのかもしれない。
でも「僕の女」という日本語字幕にリ・ジョンヒョクのただならぬ気迫を感じてしまうのは私だけだろうか。「俺の女」「僕の女」という表現に抵抗感がないわけではないが、リ・ジョンヒョクに言われるなら、ただただ、ときめく。
さて、リ・ジョンヒョクがユン・セリを見守る姿勢はいつも控えめで適切だ。
たとえば船渡しに失敗した時、「来週の今頃は江南のカフェでくつろげると約束して!」と半ばやけくそになって訴えるユン・セリに、リ・ジョンヒョクは「約束はできない」と事務的に答える。
しかし帰国できずに気落ちしている彼女を気遣い、カフェでくつろげない代わりにわざわざコーヒー豆を買ってコーヒーを入れてあげたり、中隊員たちを交えて貝プルコギのバーベキューをご馳走したり、彼なりに彼女の気分を慰め、少しでも楽しく過ごせるように心を尽くしている。
この時もリ・ジョンヒョクは皆の輪の中に入って一緒に楽しむのではなく、中隊員たちと笑いながら酒を飲む彼女を静かに見守る。
この「彼女が気づかないところで」という控えめな感じに視聴者はリ・ジョンヒョクの優しさと温かみを実感するのだ。
他にもたくさんのエピソードがある。
夜道が心配で偶然を装い迎えに行ったり、ユン・セリが市場で迷子になれば何をおいても真っ先に探し行ったりする。
空路での帰国計画では「空港への見送りはしない」と言いつつ、完全装備でこっそり護衛し、結局はリ・ジョンヒョクの命がけの阻止によってユン・セリの命は守られた。
とにかく「俺が守ってやるぜ」的なオレオレ感が全くないのに誰よりも誠実に、そして確実にユン・セリを守るのだ。
これらのリ・ジョンヒョクの行動は絶大な安心感となってセリを包み込む。
視聴者はリ・ジョンヒョクに守られているセリをみて安心し、自分までその恩恵に預かっているような温かい気持ちになる。
この温かさを感じたくて、視聴者はリ・ジョンヒョクに何度も会いたくなるのだと思う。
4. 一途な男 "사랑꾼(サランックン)"
一途な男 "사랑꾼(サランックン)"は、中隊員のジュモクがリ・ジョンヒョクを形容した言葉。
ユン・セリへの愛に気づいてからのリ・ジョンヒョクはまさにこれ。
そっと見守るから一歩踏み込んで一途に尽くす。
それに、韓国に渡ってからのリ・ジョンヒョクは自分の気持ちに正直だ。
中隊長という立場の軍人ではなく、一人の男として過ごしている。
ユン・セリの家で二人で晩酌をした夜、リ・ジョンヒョクは寛いだ姿で今まで言ったことのない本音を漏らす。
北に 帰りたくない 帰るのがイヤだ
君と ここにいたい 君と結婚して 君に似た子供が欲しい
見てみたい
君に白髪が生えて シワもできて 老いて行く姿を きれいだろうな
それは叶わぬ夢だとわかっていている。
だからシラフで口に出すわけにはいかなかった。
お酒の力を借りて言ったこの言葉は、ユン・セリの心のみならず、ここでも視聴者の心を温める。一方で、二人の間に立ちはだかる38度線のことを考えるとたまらなく切なくなる場面でもある。
この幸せな時間から数日後、ユン・セリはリ・ジョンヒョクを守ろうとして銃撃戦に巻き込まれる。
ユン・セリの怪我を自分のせいだと感じ心を痛めているリ・ジョンヒョクは、献身的にセリの看護をする。ここでもまさに一途な男 "사랑꾼(サランックン)"を発揮する。
守ると決めた女を守れなかったことは彼にとって大きな後悔だ。彼女が撃たれた時は生きた心地がしなかったはず。
その反動か、中隊員たちに呆れられるほど、周りの目も気にせずユン・セリに尽くす。
また最終話で再び意識不明になったユン・セリを、集中治療室の窓越しに身動きもせず、何日もただただ見守り続ける。その姿は涙を誘うほどの一途さ。これに心を打たれない女はいないはず。
しかし別れの日は近づいてくる。
リ・ジョンヒョクは自分が去った後にユン・セリが快適に過ごせるよう、きめ細やかな気遣いを彼女の家に残していた。
もう二度と会えないとしてもそれを悲観するのではなく、孤独にならず、彼女には前を向いて生きて欲しいと心から願う。
そう過ごすうちに 人生が楽しくなりすぎて 僕を忘れてもいい
それでも 僕は大丈夫だから
ユン・セリが幸せに生きていてくれることこそが、リ・ジョンヒョクが心から望んでいる事。
そばにいることができなくても、いつも彼女のことを思うと心に決めている。
それが離ればなれに暮らすしかない彼女を愛し続ける唯一の方法だ。
それにしても、こんな風に想われ、そして見守られてときめかない女はいないんじゃないかな。
何度も言うが、視聴者はリ・ジョンヒョクに愛され、見守られているユン・セリを見て心が温まるのだ。
だから、何周もリ・ジョンヒョクに会いにいく。
5. ヒョンビンが演じるからこそのリ・ジョンヒョク
今まで韓流ドラマをほとんど観たことがなかったので「愛の不時着」までヒョンビンの存在を知らなかった。
それにしてもヒョンビンがあまりにカッコ良すぎて、彼を知っただけでもこのドラマを見た甲斐があったと思うほど。
個人的には、聞いているだけで心地よくなるヒョンビンの静かで優しい声にすっかり魅せられてしまっている。
ところで、私がリ・ジョンヒョクにこれだけ惚れ込んでいるのは、ヒョンビンが彼を演じたからだ。
演技や役者について詳しいわけではないが、演じるということは、本来の自分とは別の人物になりきることである一方、俳優自身の資質や性格が役柄の中に反映されるものだと思う。
そう言う意味で、ヒョンビンとリ・ジョンヒョクは似通っている部分が少なからずあるのではないか。それはヒョンビンの性格のごく一部なのかもしれないし、もしかするとそのシンクロ度は高く、実は彼はリ・ジョンヒョク的な人なのかもしれない。少なくとも俳優の容姿は役柄とリンクするので、その点では俳優=役柄だ。
ともあれ、視聴者は俳優の身体表現を通して役柄に感情移入したり好きになったりするのだから俳優の果たす役割は大きい。
「愛の不時着」を観終えた後、ヒョンビン出演の他の作品もいくつか鑑賞したが、
様々な役を演じるヒョンビンのプロフェッショナル度は本当にすごかった。これに関してはまた別の機会に書きたい。
ともあれ、ここで声を大にして言いたいのは、ヒョンビンが演じた「リ・ジョンヒョク」に温められる時間がとても幸福だということ。
そしてそれは、リ・ジョンヒョクだけでなく「愛の不時着」という作品全体の素晴らしさがあってこそ成立するもの。他のキャストはもちろん、監督、脚本を含め、この作品の製作に関わった全ての人々に感謝したい気持ちになる。
「愛の不時着」は私にとって間違いなく大好きで大切な作品のひとつになった。
トップ画像:tvN「愛の不時着」公式サイトより引用
http://program.tving.com/tvn/cloy
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