陽当たりのよすぎる部屋に住んでいた、あの頃のフィルム写真
随分昔のことだけど、陽当たりのよい部屋に住んでいた。
古いマンションの最上階だったその部屋は、南向きの角部屋で周囲に障害物もなく、窓から見える景色が素晴らしかった。
南側にあったリビング兼寝室は陽当たりが良いを通り越し、窓際で昼寝をしようものなら日焼けするくらいだった。
そして夕方になるとキッチンには強い西日が差し込んだ。
とにかく、1日を通して陽当たりの良すぎる部屋だった。
当時、写真に夢中だった私は会社帰りに写真学校や写真ワークショップにせっせと通う社会人兼学生だった。
写真を撮ることが日常で、どこに行くにもカメラ手放すことのない日々を送っていた私は、この陽当たりの良い部屋に差し込む時間によって変化する陽の光が作り出す色が好きだった。そしてよく家の中で写真を撮った。
さて、写真は「光」が最も重要なファクターだけど「フィルム」も大切な要素のひとつ。当時、私が使っていたカラーフィルムは「AGFA」というちょっとチープなフィルム。
柔らかな色調よりも濃いめの色、あるいはコントラストの効いた色合いが好みなので、「変わった色」が出るといわれていたこのフィルムを愛用していた。
ところで、最近note記事でもフィルム写真をよく見かけるけど、どれも柔らかい色合いで(それはそれでとてもよい味が出てるのだけど)、私自身が慣れ親しんだフィルム写真とは別の世界の作品のように感じていた。
そんな折「花束みたいな恋をした」という映画を観た。
劇中にはフィルム写真(実際のところはデジタル写真を加工したものかもしれないけど)らしきショットがいくつも出てきて、「ああ、やっぱりコントラスト弱めのレトロ感が、今やフィルム写真のスタンダートなのだなぁ」と、少しさみしくなった。
そう思ったら急に「AGFA」で撮ったフィルム写真が恋しくなった。
特に、あの陽当たりのよすぎる部屋で撮影した写真群。
スマホで取り込んだので今ひとつ再現できていないところもあるけれど、写真を眺めているうちにあの部屋に日々差し込んでいた陽の光を思い出した。
それと同時に「あの頃」のあれこれが蘇った。
たとえば、当時付き合っていた彼だとか、初めての一人暮らしで寂しさを感じていたこととか、写真に対する情熱とか。
陽当たりのよい部屋に差し込む「陽の光」と暮らしていたあの頃の私。あの頃のあれこれ。
そしてつくづく思う。
写真は記録。そして、記憶なのだ。
最近はコロナの影響で外出する機会が激減し、写真を撮ることも少なくなっていた。でも、こんな時だからこそ、今の私の日常や私を取り巻く世界を記録しておきたい、撮りたい。
そう思った。