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韓国ドラマ『ボーイフレンド』からみる純愛ドラマと年下の男

韓国ドラマ「ボーイフレンド」を完走。

パク・ボゴムの笑顔が見たい一心で一気観したこの作品、よくある純愛ドラマといえばそうなのだけど、主人公たちの気持ちが丁寧に描かれていること、そして主演のソン・ヘギョ、パク・ボゴムの演技が素晴らしく、見応えのある優しい作品に仕上がっている。

じわじわと泣いたこの作品、流した涙と共に溢れた感情を忘れぬうちに、感想を綴っておこうと思う。


1.女にとっての理想の年下男像とは

ソン・ヘギョ演じるチャ・スヒョンは政治家の娘として常に世間の注目に晒されている有名人。政略結婚で財閥に嫁いだものの二年で離婚した過去を持つ。彼女はシンデレラさながら、元婚家の義母と実母にひどい仕打ちを受けながらも健気に耐えているという設定。

一方のパク・ボゴム演じるキム・ジニョクは、果物店の息子で平凡ながらも幸福に暮らす純真な好青年。
キューバで出会ったこの二人が、帰国後、実は同じ会社の代表と新入社員だったことがわかるという展開。

家族のしがらみに囚われ、自由に生きることが許されない女が純粋な青年によって癒され、最終的には自分の人生を生きることを決意するというのがこのドラマの大まかな流れだが、要は、純真な王子が不自由な生き方をしていた姫を支え、閉ざされた世界から連れ出し共に幸せになるという、恋愛ドラマの王道なのだ。


ところで、パク・ボゴムの笑顔の破壊力はすごいと思う。
爽やか、誠実、そして少年のような可愛さなどなど、ポジティブオーラを全身にまとった彼はどこから見ても良い人だ。

そんな彼が演じるジニョクも、パク・ポゴムの魅力そのままの人物像で、視聴者はあっと言う間にジニョクに魅せられてしまう。
実際のところ、物語前半、スヒョンの自己犠牲的な生き方に共感ができず今ひとつのめり込めなかったが、ジニョクがスヒョンに見せる笑顔が見たい一心でエピソードを観進めたという感じ。

兎にも角にも、ジニョクの健気さがこのドラマの見どころのひとつなのは間違いない。会社の代表と一介の新入社員という格差恋愛に臆することなく、ジニョクは一途に恋を貫くのだ。

一方のスヒョンはある程度人生を知っているだけに現実的。ジニョクが自分と付き合うことで生じるであろう様々な軋轢が想像できるだけに、なかなか彼を受け入れる勇気が持てない。が、自分にしかできないやり方でスヒョンを守ろうとするジニョクへの気持ちが抑えきれず、彼女は人生初めての恋にのめり込む。
そして視聴者もスヒョン同様、精一杯好きな女を守ろうとするジニョクに惹きつけられていくのだ。

ところで、この「愛する女を守る」という行動は、恋愛物語においてはとても重要な要素。
現実世界においても、多くの女性は「自分を守ってくれる男」の存在に安心感と幸福感を感じるのではないかな。
これはある意味「白馬に乗った王子様」願望に他ならなず、女心を動かす大切な要素だということ。


でも、「白馬に乗った王子様」にも葛藤がある。
ジニョクは地位も財産もない自分の足りなさに思い悩み、人生経験が多いスヒョンからすれば自分などは子どもに見えるかもしれないと考える。

しかし彼には若さがある。その若さがもたらすものとは、自分の気持ちに素直に突き進む「無謀さ」であり、それは「純粋さと一途な想い」とも言い換えられる。

個人的な見解だが、年下の男(特に年の差がある場合)と付き合う上で大切なものは、「女の気持ち < 男の気持ち」だと思っている。
加わて男性側に「純粋さと一途な想い」そして「行動力と押しの強さ」があれば鬼に金棒。格差があろうがなんだろうが上手くいく可能性がグッと高まる。

ちなみにジニョクにはこの全てが揃っている。
まさに、女にとっての理想の年下男像なのだ。


2.「ボーイフレンド」における「障害」について

純愛ドラマに絶対必要なのは「障害」だ。

そしてドラマ「ボーイフレンド」における「障害」は、前半と後半で様相が異なる。

「前半における障害」は、スヒョンの元婚家であるテギョン財閥の会長(元姑)、と野心に燃えるスヒョンの実母。
そして「後半における障害」は、素朴で優しいジニョクの母と、ヒロインであるスヒョン自身の「罪悪感」。

つまりはこの物語の「障害」は全て女たちということ。

ちなみに、このドラマに登場する男たちは(例外はいるものの)往々にしてイイ人だ。ジニョクの恋のライバルであるスヒョンの元夫、ウソクでさえ、優しく気の弱い御曹司として描かれる。

ともあれ、この「障害となる女たち」は、スヒョンが母世代の女たちの支配や価値観から解放され、真の意味で自立するため、あるいは彼女たちと共存の道を模索するため下地となり、実際にそれが機能しているように感じる。

話を戻すと、物語前半で描かれる「障害=悪役」という図式は典型的でわかりやすい。
ヒロインの不幸の元凶=障害となっている彼女ら(元義母と実母)の存在は、スヒョンの苦境を表現するために存在しており、ヒロインの対立軸として活躍する。
彼女らの存在こそが、スヒョンが「新たな世界への冒険」を達成するための「意義」となり、実際にその役目を果たしている。


一方で、後半の障害であるジニョクの母は手強い。
理由は簡単。ジニョクの母が善良な人物として描かれているからだ。
人によってはスヒョンよりもジニョクの母に共感してしまう場合もあるだろう。ジニョクの母の気持ちは多くの母親が共感できるものだし、ごく普通の感覚だから。

そう言う意味で「障害」の本丸はここにある。
相手が悪者ならば、倒すかあるいは逃げればいいけれど、善人相手にその手法は通用しない。実際のところ、スヒョンの罪悪感の根源も「愛するジニョクを傷つけるかもしれない」という不安に端を発しているわけで、そこはジニョクの母と思いは同じ。

それが意味するところは、ジニョクの母が「障害」なのは間違いないが、スヒョンが抱く「罪悪感」もそれに負けてはないということ。何と言っても、自分の中に内在する「障害」こそが実は一番の強敵なのだ。


ともあれ、視聴者は、ジニョクの母、スヒョン&ジニョクの両方に感情移入してしまい、涙なしでは観られないモードに入っていく。

たとえば、ジニョク母がスヒョンに「別れてほしい」と涙ながらに頼む場面もそうだし、その言葉を受けて大粒の涙を流すスヒョンも然り。また、スヒョンから別れを切り出され号泣するジニョンの姿も。
とにかく、登場人物たちと共に視聴者の方も涙、涙の展開なのだ。


そして、雨(涙)の後には虹がかかるもの。
誠実で心優しいジニョクは、母を捨てるでもなく、スヒョンを諦めるでもなく、粘り強く彼女たちが変わるのを待つことを決意し、この「障害」を乗り越える。

物語後半にみる「誰も悪者にしない障害の乗り越え方」は、ドラマとしての刺激には欠けるかもしれないけれど、優しく温かい感情をじわじわと味わえる良い展開だったと思う。


3.王道純愛ドラマ+捻り少々

前述のように、ドラマ「ボーイフレンド」は、いわゆる純愛ドラマの王道を行く物語だ。
しかし、ドラマを観る目が肥えている視聴者が多い韓国において、従来の純愛パターンを踏襲していたのでは彼らの心は掴めない。たとえ人気俳優をキャスティングしたとしても、16話に渡る長きを乗り切るのは簡単ではない。

そう言う意味で、この作品は純愛ドラマの王道を踏襲しつつ、設定や展開に少し捻りを加えて描いており、それが結果として功を奏したように見える。

例えば、第15話でスヒョンが発した「別れの言葉」は、あるようでないパターンだと感じる。

スヒョンに別れを切り出され、納得できないジニョクが涙ながらにスヒョンに尋ねる。

僕を捨てるの?

そんな彼に対してスヒョンは穏やかに言う。

あなたを捨てられるはずないわ
送り出すの


「別れ」という目的を達成する場合(それが望んだものかそうでないかは別として)、効果的な方法は「相手を徹底的に否定or拒絶すること」または「相手に嫌われること」だ。

たとえば「あなたが嫌いになった」「あなたとは格差がありすぎてムリ」「やっぱりお金持ちの元夫の方がいい」など、相手を否定する言葉や失望させる言葉をぶつければ、必然的に心は離れていく。
そして実際に、多くの純愛ドラマはこのやり方で「男女の別れ」を演出してきた。

が、「ボーイフレンド」の別れのシーンは一味違う。
スヒョンは自分の気持ちに嘘をつかないのだ。
彼女の心情をとっても大雑把に要約すると「あなたが好きだけど、あなたや、あなたの家族を不幸にしているという罪悪感を抱えたままで一緒にいるのはムリ」ということ。

正直、この「ぬるい別れの言葉」で相手が納得することは稀だろうけど、スヒョンはそれを承知で「相手をムダに傷つけることなく別れる」という高度な技に挑戦している。

もちろん別れの言葉自体が拒絶の言葉であることには変わりないので、相手が無傷でいられるわけではない。でも、純愛ドラマでありがちな、自己犠牲によって自分が悪者になったり、わざと相手に嫌われる行動をしたりなど、相手との「無駄な気持ちの行き違い」をあえて避けるこの手法は、それはそれでありなのかなと。

ジニョクからすれば「あなたを捨てられるはずはない」なんて言われて「はい、そうですか」となるはずもないけれど、少なくとも「無駄にジニョクを傷つけない」というスヒョンの意向は貫かれている。

とにかく、イイ人たちによる「優しく純粋な恋愛」を描いているのがドラマ「ボーイフレンド」なので、そういう「ぬるさ」は許容して、おおらかな気持ちで鑑賞するのが正解だ。

ともあれ、ソン・ヘギョの美しさや演技力はもちろんなのだが、個人的にはやっぱりパク・ボゴムの笑顔や泣き顔にやられてしまい、「ジニョクが泣くと私も泣く」的な連鎖反応が止まぬままドラマを完走した。


さて、展開に捻りを感じるエピソードをもう一つ。
それは、スヒョンの秘書ミジンとツブ貝店の社長デチャンのラブライン。
この二人の関係も、他のドラマとは少々様相が異なる。

セレブのスヒョンがジニョクとの格差恋愛に身を投じる一方で、ミジンはデチャンの学歴、生活感の違いを受け入れられないという展開。
主役たちのおとぎ話の裏側では、現実的な恋愛模様が繰り広げられるというちょっと身もふたもない結末だけど、こういう展開もある意味「新鮮かも」と思ったり。



最後に、どうしても気になった「ツッコミどころ」を記しておきたい。
それは特に、会社代表であるスヒョンに対して感じたこと。

とにかく、彼女は仕事をしていない。
「大手ホテルチェーンの社長なんだからもっと仕事しなさいよ」とか「経営陣に敵がいることを知っていながら簡単に足をすくわれるなんて、脇が甘い!」などと思いながらドラマを鑑賞していた私。

純愛ドラマをみてこんなことを思うのは無粋だとは思うけどしかたがない。
「ロマンチズムに欠ける現実的な私には、スヒョンのような純愛は無理かも…」と逆に自分にツッコミが入る。。

ともあれ、パク・ボゴムの笑顔と泣き顔を観るだけでも価値のある(もちろん、それだけはない)、美しく優しいラブストーリーです。


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