Netflixオリジナル 『マイ・ストーリー』 希望は変わり続けることで生まれる
マイ・ストーリー
監督:ナディア・ハルグレン 2020年 ドキュメンタリー( Netflix )
前米国大統領夫人であるミッシェル・オバマの自叙伝「マイ・ストーリー」の出版講演ツアーを密着したドキュメンタリー映画。
「米国大統領夫人という立場がどれほどの重責で、どれほど自分自身と自分の日常を犠牲する必要があるのか。」
そのことについて真面目に考える機会もなければ関心もなかった。
しかし、夫のキャリアによって激変した彼女の人生を垣間見るにつけ、彼女が激しい葛藤の中でその立場を貫き、流されることなく自分の足で立つべく無我夢中で駆け抜けてきたのだろうと想像できた。
講演ツアーの途中、次世代の若者との交流を望むミッシェルと学生で、小さいセッションが開かれる。そこで学生がミッシェルにこう質問する。
「普通の生活から大統領夫人になり、また元の生活に戻るのはどういう感じか?」
ミッシェルはこう答える。
「待っていたのは前の生活ではなく、全く新しい生活。元には戻らない」
「つまり、元に戻れないから新しい道をつくるしかない」
この言葉に象徴されるように、彼女は大統領夫人となる前から新しい道をがむしゃらになって作ってきたのだと思う。
ミッシェルはシカゴの労働者階級の家に育った。
家庭環境は文化的で、聡明な彼女は努力の末名門プリンストン大学に入学する。大学では人種差別を受け、マイノリティとしての苦しみを身をもって味わうが、彼女は更に努力する。ハーバード大学へ進み、法律家として生き道を選び、着実に自分のキャリアを築いてきた。
しかし、夫バラク・オバマのキャリアの変化と共に自分の人生も大きく変わった。それによって自分の描いたキャリアは諦めざるおえなかった。それでも彼の人生の添え物ではない、自分の人生を生きるために歯をくいしばる。
一人の人間として、妻として、母として、そして大統領夫人として自分を探し続けた。一方で、戦略的に自分を表現し、世界中の人々が知っているミッシェル・オバマとして、誰にも代えがたい人物になった。
ミッシェルは明るく聡明で、人を惹きつける魅力のある女性だ。
そんな彼女でも、大統領候補の妻となった時から批判や中傷にさらされてきた。
初の黒人大統領という「存在自体が挑発」という状況の中で道を切り開いてきたのだ。
彼女は言う。
「少しでも関係を改善するには自分の歴史を正直に話すべきです。
私は米国の前大統領夫人であり、黒人奴隷の子孫でもあります。」
「わたしと夫は任期中ずっと中傷されつづけた。でもいつも通り仕事をこなすだけ」
「自分の人生を再びみつけること、今していることをひたすら続けること」
新しいことを成し遂げるのはただでさえ困難が伴う。
しかし、ミッシェルは言う。
「変革の可能性」が希望につながると。
そうなのだ。変われる可能性があればそこには必ず「希望」がある。
米国における人種差別は根深い。それに立ち向かい、黒人たちは時間をかけて自分の立場を向上させてきた。祖父の時代には叶わなかったことも、自分たちの時代では手に入るものに変わった。そして、かつては考えられなかったであろう黒人の米国大統領が誕生した。
でもそれは希望を持ち続け行動したからだ。いつか変わる日がくると信じて。
講演で希望を語るミッシェルにインタビュアーが言う。
「希望を語るリーダーがいた頃が懐かしい」
希望は常に未来にある。
だからこそ、それを伝える情熱や行動が必要で、大統領夫人としての肩書きがなくなった今、彼女は次の自分を見つけるため、そして自分が自分であるためにそれをやっている。
ところで、前述の学生の質問で答えたミッシェルの言葉は、現在我々が直面している現実にもピタリと当てはまると感じる。
「待っていたのは前の生活ではなく、全く新しい生活。元には戻らない」
「つまり、元に戻れないから新しい道をつくるしかない」
COVID19以後、待っているのはきっと、全く新しい生活。元には戻らない。戻れないから新しい道をつくるしかない。変わる時なのだ。それも大胆に。
それは楽なことではないかもしれないけれど、新たな希望に向けての道だ。
ミッシェルが訴えるように、希望は「変革の可能性」から生まれるのだから。
(day9)