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なぜ建築はユーザーを分析したくないのか?(品川スタイル研究所2024と「建築的ユーザー分析」について)
僕は常々、建築のデザインはユーザーに向き合いきれていない、と感じています。
より具体的に言うなら、「ユーザーを客観的に分析・分類する」ということに建築のデザインは消極的すぎます。
その理由はシンプルで、
「人間を動物と同じように分析したり分類することは、イチ個人の自由や尊厳を軽んじる行為である」
からです。
(この件については、本記事の最後「04. 建築はなぜ人間を分析したくないのか?」でもう少し詳しく書いています)
しかし、医学がヒトを人間という動物として分析・分類対象にしたことで多大な成果を上げていることからも分かる通り、
一旦ヒトをユーザーとして分析することが、最終的にはヒトの体験や権利を尊重する結果になることもあります。
また、ユーザー分析はその人自身のプライバシーやパーソナリティーに触れない方法で実施することも、全然可能です。
僕たちMACAPでは設計活動と並行して、ユーザーの行動行為を分析する仕事(建築的ユーザー分析)を行なっています。
本記事では、そのうちの一つ「品川スタイル研究所調査部」の経過について、紹介したいと思います。
01.まちの可能性を見つける実証実験「品川スタイル研究所」
僕たちMACAPの話に入る前に「品川スタイル研究所」全体について簡単に触れたいと思います。
品川スタイル研究所は、品川駅近く、港南エリアにおいて毎年行われているエリアマネジメントの実証実験です。
今回実施された「品川スタイル研究所2024」では、
様々な「部活動」が企画され、部活的アクティビティを通して街の人々と交流したり、
港南エリアの将来につながる情報収集をしました。
(詳しくは下記リンクをご覧ください)
筆者は「調査部」の部長ということで、
その名の通り、街行く人々の調査を、11月末の数日で行いました。
人々の調査・・・とは言っても、各人の素性を暴いて世に晒すようなことをするのではなく、
各人の行動や行為にのみ着目し、行動行為のみをひたすら収集し、
そのうちのいくつかを分析しました。
(詳しくは次章)
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02.建築的ユーザー分析、街の人々から品川港南の未来を学ぶ
このような活動を僕たちMACAPでは「建築的ユーザー分析」と呼びます。
特徴的な行動行為を分析することで、
その場所の特徴を可視化でき、また、その場所に有意義な行動の再現可能性を検討することができます。
僕たちMACAPは「建築的ユーザー分析」を用いて、
各建築空間やパブリックスペースを調査し、その後デザインやエリアマネジメントに有意義な情報を抽出、およびその情報を元にしたデザインをしています。
本記事で紹介する品川スタイル研究所2024では、品川シーズンテラスとその周辺のパブリックスペースを調査対象とし、
コロナ禍や高輪ゲートウェイ駅周辺の開発によって変化しつつある品川港南エリア、
その将来像を構想するお手伝いをさせていただきました。
具体的には、
品川スタイル研究所2024の期間内に、シーズンテラス周辺のパブリックスペースで行われている特徴的な行動行為を200個前後、手当たり次第収集し、簡易的に分析してみました。
以下はそのうちの一例です。
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どのような場所、空間であれ、ユーザーは、我々設計者の意図を超えた行動行為をすることが(良くも悪くも)多々あります。
それは、ユーザーが設計者より優れている/劣っているということではなく、
ユーザーはそれぞれが異なる「視点(もしくはコンテクスト)」を各場所・空間に持ち込みながら行動行為を展開するからです。
場所や空間を作るという事において、我々設計者はプロとして、プロでない人よりも秀でているべきですが、
場所や空間を「使う」ということにおいては、
ユーザーの視点は設計者の視点では全く気づかないことをもたらしてくれることがあります。
(近しい活動として、住宅の使われ方を収集分析する京都大学柳沢研の「住経験インタビュー」があります(以下リンク)。)
なお「建築的ユーザー分析」においては、ユーザーの特異な視点は無自覚に展開されているものだと考えているので、
アンケートなどでユーザーの意識調査をするのではなく、
ユーザーの行動行為からユーザーの視点を間接的に抽出することを心がけています。
我々MACAPのユーザー分析におけるユーザーとはいわば、
「実世界という実在の深みを探り続ける検索装置」であり、
行動行為とは「検索のためのキーワード」のようなものであると言えます。
(「実在」という概念については上記書籍「四方対象(著:グレアム・ハーマン)」をご参照ください。)
03.インスタントプライベートスペース、マイクロプライベートスペース
ユーザー分析をしたところで完成品は本当に良くなるのか?
・・・と思われる方もいるかもしれません。
結論から言えば、YES、絶対に良くなります。
理由は主に2つあります。
①継承性
a.現状の良いところを継承してデザインができる
b.現状の悪いところを好転させデザインができる
c.既存空間のユーザーを継承できる
d.設計物の発注者、オーナー、運営者と一緒に設計ができる
②発見性
a.模型や3Dモデル、動画、写真、テキストといった媒体だけではわからない、ユーザーの実態をデザインに活かすことができる
b.ユーザー体験を介して、非-建築的な現象や事象、(物理、時間的)スケールを設計に活かすことができる。
今回は②-b「ユーザー体験を〜活かすことができる」について、
品川スタイル研究所2024でよく見られた
「インスタントパブリックスペース」と「マイクロパブリックスペース」
を例に説明してみたいと思います。
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これらの事例は、
本来プライベートな空間にはなりにくい場所や、
建築的寸法体型からは外れた(極端に狭い、など)場所で、
小さなプライベートスペースを一時的に作り上げている事例です。
「No.217とても小さな即席プライベート空間をつくる」では、
人通りの多いエリアから離れた場所で、周りの低木や自身の背中や荷物によって、手元に他の人からは見えない小さな密室空間(マイクロパブリックスペース)を作りあげています。
「No.143柱の傍の弱いプライベート空間」では、
昼食時に食事をするためのスペースを、柱と水盤に挟まれた細い空間に見出している様子で、
特に、柱の真裏を利用しているケースは、建築設計的にはアウトなほどに狭い空間を占有することで、
他の人に邪魔されずに食事をすることと、周りの風景を見渡しながら食事をすることを両立させています。
ここで紹介した「インスタントパブリックスペース」と「マイクロパブリックスペース」はいずれも、
一般的な建築設計で取り扱うには小さすぎるサイズ、もしくは短すぎる時間スパンで展開されるふるまいを対象にしています。
しかし他方で、これらは断続的に多くの人が展開している行動行為でもあり、
また、既存の建築的設えを生かした行動行為でもあるため、
ただ単に建築設計のスケールにフィットしていないだけで、建築には大きく関わる事象といえます。
結局、建築の設計から人を捉える視点では、ユーザーのふるまいは建築の寸法体型や時間・空間スケールに拘束されてしまいます。
しかし、個々のユーザーがそれぞれ微妙に異なる寸法感や時間・空間スケースを持って生活しているのがユーザーの実態であり、
建築設計の寸法体系では許されないような、
0.5m幅の通路、
30cm立法の個室、
5km超のシークエンス、
30分だけ持続するリビング、
20㎡から300㎡に伸縮する集会所、
匂いで形作られるパブリックスペース、
・・・などが、ユーザー視点では現に存在します。
ユーザーの体験ファーストで世界を見ることで、
ユーザーがそれぞれ持つ個性豊かな「空間や時間への視点」を抽出し、
「インスタントパブリックスペース」や「マイクロパブリックスペース」のような、建築を作る視点で見落としてしまう事象をデザインに反映できれば、
相反する全く異なるユーザーが、同じ場所と時間に同時併存できる、
「オルタナティブ・パブリックネス的建築」が実現できると考えています。
04. 建築はなぜ人間を分析したくないのか?ポストヒューマン的アプローチの一つとしてのユーザー分析
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