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ドリトル先生を読んで

生物学者の福岡伸一先生が子供時代に愛読し、先生の数多な著作の源を通底しているであろう「ドリトル先生」シリーズを、やっと読み終えた。
このような作品があることも、ヒュー・ロフティングという作者のことも、今まで知らずに生きてきた。

子供の頃に出会いたかったと思うが、その頃の私は読書などに興味はなく、空き地や広場で土まみれになるまで遊びまくっていたのだから仕方ない。
もし両親が「この本を読んでみたら」と勧めてくれても、おそらく見向きもしなかったろう。

もともとは人間の医者だったドリトル先生は、動物に興味を惹かれて、動物語を習得するまでになる。
動物語で会話してくれる医者ということで、ドリトル先生のもとにはあらゆる動物が診察や治療を求めて列をなす。先生も熱心に診察や治療を施す。
そのあまりにも風変わりな様子を見て、人間の患者は寄り付かなくなる。
反対に動物の医者としての名声は世界中の動物に知れ渡り、世界中の動物がドリトル先生を尊敬し、一目でいいから先生のご尊顔を拝したいと願う。

ドリトル先生はまた、知らない土地に行って新しい経験や研究をしたいと願う。「そろそろ航海に出かけよう」と先生自身も思うし、家族である動物たちも、そのように先生の気持ちを向けようとする。
アフリカをはじめとして、いろんな土地へ冒険旅行をする。
どこへ行っても、有名人のドリトル先生は動物たちの大歓迎を受ける。
また、人間の世界が嫌いで仕方がないわけでもなく、その土地の人たちのために郵便制度を整備してあげたりしている。

巻が進むにつれ、家族である動物たちもドリトル先生も歳を取ってくる。
ドリトル先生は月旅行で長寿の動物や人間と出会う。
「もっと時間が沢山あればいいのに」
長寿の秘密を研究しようとしたドリトル先生は、自身の残り時間が確実に少なくなっていることに焦りを覚えていたのかも知れない。
ロフティング氏自身の焦りだったのかも。
結局は、長寿の秘密を解き明かすことはできなかった。

13巻目の「ドリトル先生の楽しい家」は、ロフティング氏の死後に、家族の手によって刊行されている。
いつ書かれたか分からない短編集だ。
ここには、若々しいドリトル先生の姿が蘇っている。

人生の深みも描いたシリーズになっていた。
大人こそが、読書になるに相応しいと思った。

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