【交流分析の基礎知識⑦】マイナスのストロークの必要性
参考資料「セラピューティックTA」ふくちみずほ著
交流分析では、人が人に与える刺激を3種類に分けています。
「ストローク」とは、「人の存在や価値を認める言動や働きかけ」のことです。人が生きていくうえで必要な刺激です。
「ディスカウント」とは、「人の存在や価値を否定する言動や働きかけ」のことです。人に与えてはいけない刺激です。
注意したいのは、「マイナスのストローク(否定的ストローク)」と「ディスカウント」の区別です。この二つはどう違うのでしょうか?整理しながら考えてみましょう。
「ストローク」には二種類ある
「ストローク」には「プラスのストローク」と「マイナスのストローク」があり、二つの違いは以下の通りです。
プラスのストローク(肯定的ストローク)
受け取る人が安心できたり嬉しいと感じたりする刺激。人が生きていく上で必要な、気持ちの良い心のふれあい。
マイナスのストローク(否定的ストローク)
人が社会的存在として生きていくために必要な刺激。相手と正直に向き合い、間違っていることや自分がしてほしくないことを誠実に伝えること。
人間は社会的存在です。「社会」とは、人が助け合いながら関わり合っていく場のことです。人は一人では生きていけません。現代に生きる私たちは、必ず「社会」と関わることが必要です。「社会」の中には「自分」も「相手」も含まれていると考えてください。
そのような「社会」という場に相手が適応できるよう働きかけるストロークのことを「マイナスのストローク(否定的ストローク)」と言うのです。
マイナスのストロークとディスカウントの違い
「マイナスのストローク(否定的ストローク)」と「ディスカウント」は、どこがどう違うのでしょうか?具体例をもとに考えてみましょう。
以下の関わりは「マイナスのストローク(否定的ストローク)」「ディスカウント」どちらに当たると思いますか?
これは「ディスカウント」です。「してほしくないこと」を指摘してはいますが、相手に正直に向き合わず陰で批判しています。社会生活に必要な「マイナスのストローク(否定的ストローク)」にはなっていません。
これも「ディスカウント」です。子どもに間違いを正直に伝えてはいますが、勉強しなければいけない理由を伝えていません。お母さんの顔は怒っています。するとただ叱られているだけになってしまい、子どもは存在を否定されたように感じます。相手の存在を否定する働きかけは「ディスカウント」です。
これはちゃんとした「マイナスのストローク(否定的ストローク)」になっています。お母さんは勉強しなければならない理由を子どもに伝えていますし、はじめに「勉強が嫌な時もあるわね」と子どもの気持ちに寄り添う言葉を加えています。相手の気持ちに寄り添う働きかけは「プラスのストローク(肯定的ストローク)」です。「マイナスのストローク」をするときは「プラスのストローク」と一緒に使うことが重要です。
これは「ストロークと間違われやすいディスカウント」です。子どもにただ「勉強しなくていい」と言うだけでは、子どもの価値を否定していることになってしまいます。人の価値を否定する働きかけは「ディスカウント」にあたります。
これは「ディスカウント」です。職場の先輩は後輩に間違いを正直に伝えてはいますが、後輩は自分のやった仕事をただ否定されたように感じてしまっています。「マイナスのストローク(否定的ストローク)」だけを与えることは、「ディスカウント」と同じになってしまいます。「マイナスのストローク」を人に与えるときに大切なのは、「プラスのストローク」と一緒に渡すことです。
お勧めのストロークのしかたは「サンドイッチ」です。マイナスのストロークをプラスのストロークで挟んだ伝え方です。マガジン記事「交流分析の基礎知識③ストロークとディスカウント」にも載せています。
では、次のような場面はどうでしょう?
幼い子に対して、急を要する場面です。この関わりはちゃんとした「マイナスのストローク(否定的ストローク)」になっています。親が子どもに「止まりなさい!」と言いながら、子どもの肩を抱き止めています。子どもを危険から守るために制止するのは、「ディスカウント」とは違います。「ストローク」には言葉をかけることのほかに「タッチストローク」という身体的な関わり方もあるのです。
この例は『ひといちばい敏感な子』(エレイン・N・アーロン著)という本に書かれていました。著者のアーロンさんは、このあとに子どもにこんな声掛けをしましょうと勧めています。
子どもにストロークをサンドイッチ状にして渡していますね。アーロン博士は心理学者です。交流分析とは違う立場から書かれていますが、同じようなことをおっしゃっていると思います。
まとめ
「マイナスのストローク(否定的ストローク)」とは、相手と正直に向き合い、間違っていることや自分がしてほしくないことを誠実に伝えること。
「マイナスのストローク(否定的ストローク)」は、私たちが社会的存在であるために必要。
ただし、以下のような場合は「マイナスのストローク(否定的ストローク)」ではなく「ディスカウント」になってしまうので注意しましょう。
理由を伝えずに、ただ「間違っていること」「してほしくないこと」だけを相手に言うこと。
「プラスのストローク(肯定的ストローク)」を与えず、「マイナスのストローク(否定的ストローク)」のみを与えること。
参考資料
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