見出し画像

週末歌仙*葉ノ拾陸

歌を詠むということ

短歌とは、感動したこと、悔しいこと、悲しいことや嬉しいこと、すべてを言葉にのせて表現するものです。
歌を詠むこと、それは、長い人生において心の薬となるでしょう。
私も人生の山坂を短歌に支えられ、 82歳 まで 生きてこられました。
だからまず難しいことはおいといて、あなたの心が感じたままに、歌をつくってみてください。
きっと作歌の楽しさが、だんだんわかってきますよ。(楓美生)

歌人・楓(かつら)美生(みお)
昭和17年10月28日 杉並区荻窪生まれ

玉川上水の桜橋を散歩中、その後歌の師と仰ぐことになる人物と
偶然出会ったことがきっかけで、短歌を始める。
多摩歌話会(歌人集団)に15年ほど所属。
NHK、地方の短歌大会入賞。
現在は近所の歌好きを集めて、短歌の指導をしている。

<好きな歌人>
栗木京子、寺山修司、尾崎左永子
<好きな歌>
ここに咲きここに散りゆく秋萩のごとき一生(ひとよ)を悔いざれよゆめ

第一首

(想像してみてください…)

川沿いの遊歩道を散歩中、大きな蜘蛛の巣を見つけた。
今朝がたシトシトときた小雨のせいか、水滴をまとって銀色に輝いている。
その銀色の網に、ひらりと舞い落ちる一枚の葉。
すると大きなクモが現れて、まるで「わたしのものよ!」と言わんばかりに網へかかった葉を押さえつけた。

ここで一首ーー
(みなさんなら、どんな歌を詠みますか? わたしの歌は……)

蜘蛛の巣に
落ち葉ひとひら 囲いつつ
紅一点の女郎蜘蛛かな

<2011年 散歩中に詠む>

<解説>
自然の中を歩いていると、少なからず虫と遭遇します。ニガテな方は聞いただけでもゾゾッとするかもしれませんね。
わたしも正直虫は好きではありませんが、この時見たクモはとても印象的でした。カラフルで巨大なクモが木の葉を抱え込み、渡すものかと睨みつけてくるように感じたんです。それはもしかしたら『ジョロウグモ』という名前からの連想だったかもしれません。
『女郎』とは遊郭に勤める娼妓を指しますが、それがこのクモの名としてつけられたのには見た目の華やかさが関係しているのだとか。花魁の派手な着物が由来であるとされるほか、大奥に仕えた上級御殿女中の「上臈」が由来という説もあります。いずれにせよこのクモは「女性性」を感じさせるんです。しかもどこか狡猾で芯の強い女性。だからこそ、巣にかかった木の葉を我が物と主張して周囲を睥睨する――そんなそこはかとないエロティシズムをまとったイメージが出てきたのでしょう。つまり、この歌はジョロウグモでなければ成り立たないんです。
歌に詠み込むアイテムの選択は重要です。特に、多くのひとが一定のイメージを描きやすいアイテムなら、その特長を活かすことで多くの言葉を用いる必要がなくなります。逆に言えば、アイテムの選択しだいでまったく違う印象の歌にすることもできるんです。

わが夫子(せこ)が 
来(く)べきよひなり ささがねの 
蜘蛛の行ひ こよひ著(しる)しも

日本書紀に収められた衣通姫の詠んだ歌です。「蜘蛛」の出現は、古代日本では吉兆、特に待ち人の到来を意味していたそうで、この歌も帝のお渡りを待ちわびる歌とされています。小さなクモを見つけて「きっと今夜は帝が会いにきてくださるわ」と心待ちにする可憐な姫の姿。そんな情景が思い浮かぶでしょうか。では、「蜘蛛」を「女郎蜘蛛」に置き換えてみてください。なんだかまるで違うドラマが見えてきませんか⁉

歌を詠んでみましょう!

テーマは……
アイテムの持つイメージを活かして詠んでみる

・・・・・・・・・・

第二首

(想像してみてください…)

紅葉も深まったある日。
友人と一緒に御岳渓谷を訪れた。
少し肌寒いけど、空は澄み、絶好のハイキング日和。
湧水のある岸辺には、なんとクレソンが自生しているではないか!

ここで一首ーー
(みなさんなら、どんな歌を詠みますか? わたしの歌は……)

岩間より
クレソン摘む手 しんと冷え
秋の名残の御岳渓谷
 
<2004年、晩秋に詠む>

<解説>
御岳渓谷は東京都青梅市の多摩川沿いに形成された渓谷です。『日本の名水100選』にも選ばれた渓流の両岸には、約4kmもの遊歩道が整備され、四季折々に美しい景観を楽しめます。
さて、このように特定の土地や山河の名前を詠み込んだ歌は万葉集にも多く残されています。特に旅先の景観や旅情を詠んだ歌は『羈旅歌 (きりょか)』と呼ばれています。

何処にか
わが宿りせむ 高島の
勝野(かちの)の原にこの日暮れなば

これは高市黒人の詠んだ歌ですが、ここにある『高島』が琵琶湖西岸にある地名です。古くから水陸交通の要衝だった高島は、多くの和歌に詠み込まれてきました。数多の歌人に詠み継がれるうち固有の情緒をまとうようになったこうした名所のことを、「歌枕」と言います。一首目で説明した「アイテム」にも通ずるのですが、その地名を出すことで歌のイメージがある程度決まるということですね。
今回の『御岳渓谷』はそこまで多くのひとが固定イメージを共有してはいないでしょうが、実在する土地の名前を入れることで、その地を訪れたことのある読者はより鮮明に情景を思い描くことができるようになります。また、行ったことのない読者に「行ってみたい」と憧れを抱かせることもできますね。旅行記でもある羈旅歌は、古代における情報共有の役割も果たしていたと考えられていますので、短歌のそうした側面を意識した作歌にチャレンジするのも、また新たな楽しみ方ではないでしょうか?

歌を詠んでみましょう!

テーマは……
地名を入れて詠んでみる

・・・・・・・・・・

あなたの短歌をご寄稿ください!ー『作歌のこころみ』

『週末歌仙』では、老若男女問わず気軽に作歌を楽しみたい方を募集中です。
「うまくつくれない」
「それ、おもしろいの?」(おもしろいです!)
そんな皆さんは、まず肩の力を抜いて、自分の心と向き合いましょう。
なにかを美しいと感じたり、楽しいと思ったり……。心を動かされたら歌の詠み時です(笑)

※クリックするとフォームへジャンプします。
※掲載をご許可くださったかたの短歌は『週末歌仙』でご紹介することがあります。
(すべての作品の掲載をお約束するわけではありません。)
※ご応募いただいたかたにこちらからご連絡差し上げることはありません。
 また、応募作品の著作権は応募者に帰属しています。『週末歌仙』でご紹介する以外に使用することはありません。

ちょっとやってみようかな、と思ったかた、ぜひご応募お待ちしています!


短歌:楓 美生
編集:妹尾みのり

いいなと思ったら応援しよう!