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週末歌仙*葉ノ拾捌

歌を詠むということ

短歌とは、感動したこと、悔しいこと、悲しいことや嬉しいこと、すべてを言葉にのせて表現するものです。
歌を詠むこと、それは、長い人生において心の薬となるでしょう。
私も人生の山坂を短歌に支えられ、 82歳 まで 生きてこられました。
だからまず難しいことはおいといて、あなたの心が感じたままに、歌をつくってみてください。
きっと作歌の楽しさが、だんだんわかってきますよ。(楓美生)

歌人・楓(かつら)美生(みお)
昭和17年10月28日 杉並区荻窪生まれ

玉川上水の桜橋を散歩中、その後歌の師と仰ぐことになる人物と
偶然出会ったことがきっかけで、短歌を始める。
多摩歌話会(歌人集団)に15年ほど所属。
NHK、地方の短歌大会入賞。
現在は近所の歌好きを集めて、短歌の指導をしている。

<好きな歌人>
栗木京子、寺山修司、尾崎左永子
<好きな歌>
ここに咲きここに散りゆく秋萩のごとき一生(ひとよ)を悔いざれよゆめ

年の瀬にちなみ……

あらたまの 
年のをはりに なるごとに 
雪もわが身もふりまさりつつ
(古今和歌集 歌人・在原元方)

早いもので、今年も残すところ数日となりましたね。
在原元方の歌も年末にちなんで詠まれたものですが、その内容は「毎年暮れになると雪は降り増し、自分の年もまた増していくのだなぁ」……という感じ。降っている間は確かに積もるけれどもいつの間にか消えてしまう雪と、自分の重ねてきた年齢を掛けているあたり、なかなか身につまされるものがありませんか? 
新しい年を迎えるにあたり、過ぎ去っていく日々を振り返る――今回はそんな歌を2首、詠んでみました。

第一首

そちこちの
身体の悲鳴に 今迄の 
生き方ジックリ考える朝

はがき絵・ともこ作

第二首

暮れなずむ
空を仰ぎて 帰る径
無為に過ごせし時間を悔やむ
 

<解説>
過去を顧みるとき、まっさきに湧き出す感情はどんなものでしょうか?
懐かしさ? 悔恨や反省? いろいろな想いがあると思います。
そんな中、今回の2首はともに「後悔」を詠んでいます。
1首目は、あまりの体の痛さに、むりをしすぎたことや今まで自分の体を労わってこなかったことなどを悔やんで詠みました。みなさんもひどい二日酔いをして、昨夜の深酒をおおいに悔いたなんていう経験があるのではないでしょうか?
そしてまた、そんなにむりをしていたはずなのにやろうと思っていたことの半分もできていない現状に、いったいわたしはなにをしていたのかとイヤになって詠んだのが2首目ですね。
こう書くと「なんだ、愚痴なのか」と言われそうですが……はい、そうなんです。
もちろん誰かに読んでもらうために書く歌ですから、読者を元気づけたり癒やすことも重要です。でも、どんなときであれ、その作品の最初の読者は自分ですので、基本的には自分のために詠む。それがいつか誰かに読まれて共感してもらえればそれでいい、とわたしは考えています。ネットの呟きだって、正論や万人向けの飾った言葉より、赤裸々な愚痴のほうが共感を得ていたりしますよね。周囲のひととの距離感が難しくなっている現代社会において、みんな誰かの本音を聞きたがっているのかもしれません。

そうは言っても、周りのひとびとだってそう長いこと愚痴につき合ってはくれません。それに自分も、後悔に圧し潰されるわけにはいきませんよね。
長い人生の間には、失敗もあれば挫折もあります。その際の「後悔」を「反省」に昇華して次へ進む、その手助けに作歌はなると思うのです。
後悔の気持ちを思いきり歌に吐き出せば、どうでしょう、心も頭も少しすっきりしませんか?

紀貫之が書いたとされる古今和歌集の「仮名序」に、こんな一節があります。

やまと歌は、人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける。
世の中にある人、事業(ことわざ)、繁きものなれば、心に思ふことを、見るもの聞くものにつけて、言ひ出せるなり。
(中略)
力をも入れずして天地を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ、男女の仲をも和らげ、猛き武士の心をも慰むるは、歌なり。

和歌とはひとの心が言葉になったもの。
世のひとびとはさまざまなことと関わり合い、心に思うことを見るもの聞くものに託して表現する。
力なくしても天地を動かし、鬼神をもしみじみと感動させ、男女の仲を親しくするのも武士の心をなごませるのも、歌である。

古来より詠み継がれてきた短歌には、そんな大きな力が宿っているのでしょう。

さて、4月から隔週連載してきた『週末歌仙』。作歌の楽しさをみなさんにお伝えしたくて、わたしの拙い歌と解説をお届けしてまいりましたが、今回で終了となります。毎号読んでくださっていたみなさん、本当にありがとうございました。
もしこの記事をきっかけに短歌に興味を持たれたかたがいらっしゃるなら、どうぞ楽しんで作歌を続けてください。
最初のうちはテーマを見つけるのが難しいかもしれませんね。毎年宮中で催される「歌会始の儀」の2025年のお題は「夢」だそうですよ。せっかくですので、こうした機会に歌作りを楽しんでみてはいかがでしょうか?

普段は仕事や家事に忙殺されていても、週末のひとときだけ、心を落ち着けおのれと向き合い、三十一文字に想いを託す。そんな週末歌仙たちの活躍を心からお祈りしております。

歌を詠んでみましょう!

テーマは……

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あなたの短歌をご寄稿ください!ー『作歌のこころみ』

『週末歌仙』では、老若男女問わず気軽に作歌を楽しみたい方を募集中です。
「うまくつくれない」
「それ、おもしろいの?」(おもしろいです!)
そんな皆さんは、まず肩の力を抜いて、自分の心と向き合いましょう。
なにかを美しいと感じたり、楽しいと思ったり……。心を動かされたら歌の詠み時です(笑)

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 また、応募作品の著作権は応募者に帰属しています。『週末歌仙』でご紹介する以外に使用することはありません。

ちょっとやってみようかな、と思ったかた、ぜひご応募お待ちしています!


短歌:楓 美生
はがき絵:ともこ
編集:妹尾みのり

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