「なんでですか?」「そういうものなのよ」
『日日是好日』
監督・脚本:大森立嗣
キャスト:黒木華 樹木希林 多部未華子
今更ながらに、Amazon Primeで観てみた。
ずっと気にはなっていたものの、仕事に子育てに追われすぎて、ひとりゆっくり映画を観る時間を持つことができていなかった。
私はもともと、映画はひとりで楽しむ派だが、夫と知り合ってから、アクション映画やコメディ映画は一緒に観ている。
しかしこの映画に関しては、ぜひともひとりで観たいと思っていた。
結果、時間は経ってしまったけれども、ひとりで観ることができて良かった。
この作品は、原作はエッセイ『日日是好日 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』(新潮文庫刊・森下典子著)で、25年に渡って茶道を続ける女性が、茶道を通して得た学びを綴っているものらしい(ぜひ原作も読んでみたい)。
映画一本の中でも25年の歳月が流れるわけだけれども、その中で、『日日是好日』とは何かを、主人公の典子が感じ取っていくストーリーになっている。
この「すぐにはわからないもの」に気づくためのお話なわけだけれど、まず、ひとつの習い事を25年以上続けられることがすごい。
私は飽きっぽくて続けられない性格をしているので、25年続くというだけでも尊敬する。
この作品で感動したのは、派手なストーリーはほとんどないにもかかわらず、全く飽きさせずに、画面に集中することができることだ。
茶道の作法のひとつひとつ、四季の移ろいの美しさ、水音など、ひとつひとつの情景がとても丁寧に切り取られ、描かれている。
「静けさ」を素敵に表現している映画だなと感じた。
典子が学生時代のときから独立していったあとの実家のリビングの様子や、時代が進むにつれて変化する小道具も、何気ない様子でささっと表現されていて、それも良かった。
映画序盤の、茶道を始めたばかりの赤ちゃんのような典子と、典子の従妹である美智子の様子もすごく好きだった。
格式高く思える茶道の席で、臆面なく「なんでこうやるんですか?」「なんだかヘンですね」って言えるの、すごい。私はすぐに知ったかぶったり良い子ぶったりしてしまうので、絶対に言えなかったことだと思う。
それに対して、苦笑しながら「そういうものなのよ」と返す樹木希林演じる武田先生も良かった。
引用文にもあるフェリーニの『道』については、私も今までに2回見て、映画中の典子と同じ感想を持った。最後に観たのは子供を産む前だったから、今観ると、きっとまた違う感想を持ちそうな気がする。
世の中、そういう名作は沢山あって、何度も読み返したり観返したりしたくなる作品が棚からなくならず、新しい名作が増えていくから、棚が足りなくなるのだ。
唐突だけれど、私の祖母は茶道の師範だった。お点前を頂戴したこともあるし、何度か簡単なレッスンを受けたこともある。
しかし、当時の私にはどうにも魅力がわからず退屈だとしか思えなかったし、抹茶もただ苦くて、楽しいのは和菓子を食べる甘い瞬間だけだった。
確か初めてレッスンを受けたのが小学4年生ごろだったように思うから、無理もないのかもしれないけれども、もっとまじめに続けていれば、私にもなにか気づけるものがあったのだろうかと思った。
そういう後悔を減らしていきたいとは思いつつ、忙しさと金銭面を理由になかなか重い腰が上がらないのも事実だ。そうして人生に後悔が増えていくんだろうな。
なんだか取り留めのない感想になってしまったけれども、何か新しいことを始めたくなる話だったので、春に観るのはおすすめ。
心が静かになる映画です。
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