シリーズ:葛原妙子鑑賞#5「花ひらく」
花開くこともないであろう抽象の世界にはいろう。微かなる思いよ。
とてもシンプルな短歌だ。
(いや、葛原妙子の短歌を読み慣れてきたのかもしれない)
ここでピックアップすべきはやはり「抽象の世界」である。
しばらくひらがなの言葉が連なることから、抽象の世界という言葉だけが浮き彫りになっている。
多くの絵画でもモチーフになるとおり「かすかなるおもひ」と、花という具象的なイメージによって、抽象世界へと進んでいく。
印象派の絵画では具象的な風景やモチーフが色や光の抽象的な表現へと変わる過程が描かれるが、この短歌に於いても、花が開かないことで具象が否定され、「抽象の世界」という未知の領域が開かれていく。このプロセスは、詩的な感性における「現実から観念への脱却」という普遍的なテーマを象徴している。