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カーレディとの日々
コーヒーで絵を描いている自分が
絵を描いていくなかで
いろいろ体験したことを書いています
2015年 ヨーロッパ放浪
(イギリス 4〉
オークションに参加し、
クラシックカーのレースを応援し
ガッツリ迷子になって
半べそをかいた後に
2日にわたるクラシックカーの祭典
グッドウッドがおわった
(↓詳しくはコチラ)
夜にまた彼女の運転で
城に帰ってきた次の日
あのレストランで会った友人が遊びに来ると言う
城の倉庫に案内してもらって
暖炉のそばに薪を運び
(薪で暖炉をつけるのは、なかなか楽しい)
昼から準備をはじめて
夕方になって
夜になっても
彼はやってこなかった
「何かトラブルがあったみたい」
ということだけは分かったけど
車が故障したらしい、とか
一度帰ってるみたい、とか
断片的なはなしをきいても
なにがあったのか分からなかった
その夜,かなり遅くなってから
ようやく
ヘロヘロに疲れた彼が到着した
早速,暖炉のそばで
くつろいでもらう
話を聞くと驚いた
彼は、彼女が落札した
ジャガーのEタイプを運転して
城まで来る約束になっていて
彼が運転してくれれば
彼女は運転する必要がないし
彼は良い車がタダで運転できて楽しいし
オークション側も輸送の手配をする必要がなくて
ウィンウィンウィンだということだった
だが、しばらく運転したところで
なんと、車が止まってしまったのだそうだ
慌てて車を点検してみると
なんと
空いてはいけないところに
穴があいていて
それを
シールで塞いでいたんだって!
なにそれ?!
それってどんな
びっくりクオリティー?!
そんなことが起きるなんて
日本人の自分には
ちょっと考えづらい
そういうわけで
車を修理するため
もう一度,グッドウッドにもどってから
また出発して
ようやく辿り着いたというわけなのだった
本当にお疲れ様です。。
くたびれ果てている彼を迎えて
軽く食事をとり
そのままみんなで
暖炉の前でくつろぐことにした
暖炉の灯はあたたかかった
チラチラ揺れる炎が
とても心地よい
2人は
英語がうまく話せない私を気遣って
ゆっくりと簡単な英語で
話を振ってくれていたが
本当はガッツリ車の話がしたいにちがいない
このままでは、わたしが
2人に気を遣われるゲストになってしまう
それはいけない
けど私の足りない語学力だけはどうしようもない
考えたわたしは
「ねえ、あなたの1番好きな車は何?
わたしはその絵を描いているから
2人は話していて」
と言った
そもそも日本語でも分からないような
車のマニアックな話を
英語でついていくなんて
無理な話だ
彼は疲れて帰ってきたところで
変な日本人に気を使わず
車の話が沢山できるし
彼女もようやく来た友人と思いっきり話せる
わたしも絵を描いていれば
楽しいし
できた絵は思い出として
プレゼントできる
これもひとつの
ウィンウィンウィンだ
「オッケー」といって
彼女が1枚の写真を貸してくれた
「ブガッティのタイプ35Bよ。
わたしの1番のベイビーなの」
これまたクラシックな・・
鼻先の長い車がそこにあった
「車はね,誰が乗っていたかが大切なのよ」
古いセピア色の写真には
これまたクラシカルな出立の
レーサーが乗っていた
暖炉の灯にホッコリしながら
そこからわたしはもくもくと絵を描き
2人は、やっぱり1ミリも聞き取れない話を
ずっとしていた
良い時間だった
そうして出来上がった絵がこちら
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/162133019/picture_pc_59cbb67c45a9313eceb381902d0a7a99.png?width=1200)
「プレゼントだよ」とあげると
歓声をあげてよろこんでくれた
「ありがとう!大切にするわ!!」
といって
受け取ってくれた
「クラシックカーはね馬に似ているから好きなのよ、ほらこの首の長いところが
馬の首みたいでしょう?
きっと昔の人にとって
馬が乗り物としてのイメージが強かったから
はじめの車は
そう言う形だったのじゃないかしら」
彼女は
そんなことを話してくれた
・・たしかに
彼女と過ごす時間は
本当に不思議なくらい自然でここちよかった
その友人が帰ってから
彼女と2人の時間が多くなったけれど
私たちは何時間でも
一緒に時間を過ごすことができた
独特のこだわりと
時間感覚のある人だったから
もしかしたら,人によると
テンポがあわないことがあるかもしれない
けれど、わたしには
そのテンポが
なぜか心地よく
そこにズレを感じていない私といることを
彼女もまた楽に感じてくれているような気がした
これを,もしかしたら相性が良いというのだろう
アシスタントのときは
先生と何ひとつ噛み合わなくて
怒らせてばっかりだったけど
妙にテンポが合うということも
この世にあるのだなぁと苦笑した
わたしたちは同じ蠍座で
同じように写真が嫌いだった
愛とこだわりが深いけれど
人見知りで
そんなところが
人に分かってもらえなかったりすることを
なかば諦めて折り合いをつけてもいた
そんないろんな感覚を
何も説明しないでも共有できるところが
とても居心地がよかった
毎晩、天蓋付きのお姫様のベッドの部屋まで
送るとおやすみのキスをほっぺにしてくれて
本当の家族になったように心が温かくなった
どうして日本の親は
これを子供にしてくれないんだろう
よく彼女の運転で出かけた
ちなみに運転はいつも
めちゃくちゃに粗い
細い山道をとんでもないスピードでとばしていく
「やめて!!まだ死にたくない!!」
と叫ぶと
「大丈夫よ、わたしプロなんだから!」
と、返事した
「あなたがプロでも
反対からくる対向車がプロだとは
かぎらないでしょうが!!!」
どんなに言っても
彼女の運転が穏やかになることはなかった
さらに、彼女の英語は
ものすごいスペイン語なまりだ
というのも、出身はアルゼンチンで
本当か嘘か
ブエノスアイレスのバスの運転手の
粗い運転を見て
少女の頃の彼女は
ドライビングテクニックを
学んだと言っていた
「あなたは、もうちょっと
英語を学んだ方がいいわね」と
すさまじいスペイン語なまりでいわれるたびに
少しだけ複雑な気持ちがした笑
そんないつもどおりの
車の中で彼女は
「今回は私に会えたから良いけれど
本当は気軽に知らない人の家なんて
泊りに行ってはダメよ。
イギリスで,年間
何人の人が行方不明になってるかわかる??
あいつら人を一杯の紅茶くらいにしか
思ってないんだから!」
と苦言を呈してくれた
「えー!やだ!わたし
一杯の紅茶になりたくなーい!!」
というと
「そうでしょう、気をつけるのよ」
と彼女が言って
どちらからともなく
「I don’t wanna be a cup of tea〜♪」と
頭を振って歌いながら
人より羊の方が多い
イギリスの田舎道を
はしっていった
まるでロードムービー
とても良い思い出だ
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/162165425/picture_pc_89ef55c6970941f6db60257d83c3640d.png?width=1200)
「ねえ、いったい車いくつもってるの?」
ある時,ふと疑問に思ってきいてみると
彼女は
「シックスティ」と言っていた
「シックスティ???
シックスティーンじゃなくて?!!」
日本人の悲しいヒアリング力のため
16と60がゴチャゴチャになりながら
目を丸くして確認する
「うん、シックスティ(60)」
あと、馬が3頭と家が3つ、
こんど小型の飛行機も買うよ
と言いながら
飛行機のライセンスを取る計画を
目を輝かせて話している
城の離れの小屋に
ガレージがあるので見せてもらうと
そこには20台くらいの車が
上と下に分かれて停められていた
のこりの車は他の国においてあるらしい
たぶん一台一台が
ものすごい値段なのだろう
「この車はね、
前のオーナーはジェイソン・バトンなのよ」
ゴクミの旦那?!それなら知ってる
「この車はシャーロックホームズの
映画に貸し出したわ」
たしかにベーカーストリートを走ってそうな
クラシカルな車!!
あのブガッティ タイプ35Bもある
写真で見たときは
白黒で分からなかったけれど
実物は
目の覚めるような
空色の車だった
そんな風に彼女の解説を聞きながら
「そうだ、ちょっと付き合って」といわれて
その中の一台に乗り込んだ
というのも、あのジャガーのEタイプが
届いてしまうと
この車庫に置くスペースがなくなるらしいので
一台をブガッティミュージアムに
預けるんだそうだ
黄色い,車高の高い車に乗り込むと・・
山道を曲がるたびに
信じられないくらい
お尻が跳ねた
クッションのほとんどないシートは
駅のベンチみたいに固く
ボンっボンっと
馬に乗っているように
盛大に跳ね上がり
何度も天井に頭をぶつけながら
わたしは叫んだ
「ねえ!この車!!!本当に高いの??!!」
たぶんミュージアムに預けるくらいだから
めちゃくちゃ価値のある車なのだろう
できれば2度と乗りたくないとおもう
そんなこんなで
過ごしている日々の中
本当に彼女が車を
心から愛していることが
いつも伝わってきた
どの車に対しても
いつも「マイベイビー」といって
愛おしそうに車体をなでていて
なんと
彼女が持っていたというと
車の価値が上がるのだそうだ
車は誰が持っていたかが
大切だと言っていたけど
彼女もその1人で
だから売るときは買った時よりも
高く売れるらしい
なにそれ?!それどんな錬金術???!
そりゃーあのオークションの人も
「ぜひ君に落札してほしいね」っていうわなー!
こんなに愛しそうに
好きなものにかこまれて
ファイナンスも豊かになっていくなんて
1つの幸せな形を見たような気がした
それには、本当に好きなものを愛する
努力と勇気が
必要だったろう
素直に彼女を尊敬した
わたしが海外で
自分の絵をマイベイビーと言うのは
自分の英語力が足りないのもあるけど
実は
このときの彼女の顔を
思い出しているというのもあったりする
そうそう
3頭もってるという馬も見せてもらった
競馬の練習についていったのだけど
土を跳ね飛ばして
柵の真横を疾走していく姿は
本当に圧巻だった
「ぜんぜん勝てないのよ」
お金を捨ててるようなもんだわーと
言いながら
やっぱ彼女は幸せそうだった
「ねえ、いつかわたしに
馬の絵を描いてね」
彼女はそう言って、また笑った
なにもかもが
本当にいい思い出だった
本当にイギリスに来てよかった
そうして2週間ほどたっただろうか
「わたしは来週
息子に会いに
スイスに行かなくちゃ
いけなくなったから
ミノリは飛行機をとって
日本に帰りなさい」
といわれた
えーーーーー!!!!!!
またかよーーーー!!!!!!