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リサとガスパールの衝撃~日仏比較文化論~

 「うさぎでもない、犬でもない・・・とびきりキュートなパリの住人。」と言えば、我らがリサとガスパール。かわいいキャラクターで日本でも大人気。公式HPからの引用を続けると、「人間の学校に通って友だちはいっぱいだけど、とくべつ仲良しな二人は遊びもいたずらもいつもいっしょです。」とのことなのですが・・・。

 お正月、「リサとガスパール オペラざへいく」という絵本を斜め読みしておりました。油彩画でリアルに描かれたオペラ座の中に、リサとガスパールが違和感なく紛れ込み、さすがフランスの絵本だねぇ、お洒落だねぇとページをめくっていると、なんと衝撃の展開が!お屠蘇気分もすっかり吹き飛んでしまいました。

 あらすじをざっとご紹介すると、「リサとガスパールの二人は課外授業でオペラ座へオペラを見に行きました。でも天井桟敷席で舞台がほとんど見えず残念です。休憩時間になりオペラ座内を見学し、1階のオーケストラボックスを覗きに行ったところ、指揮者も団員も見当たりませんでした。そこで、たくさんあるから1枚くらい大丈夫と、指揮者の譜面台から楽譜を1枚もらったところ、開演できず、さあ大変。これは自分たちが楽譜をもらったせいだと気が付き、『これ、みつけたんですけど。』と楽譜を指揮者に渡しました。すると指揮者は楽譜が戻ってきて大喜び。オーケストラボックス脇の特等席で、二人にオペラを見せてくれました。」というお話です。

 これのどこが衝撃的かって?無事にオペラは上演できたし、二人はかぶりつきで見ることができたのだから、めでたしめでたしじゃないの?などと言うことなかれ。

 だってね、紛失した楽譜は二人が「もらった」、つまり「盗んだ」わけで、さもそこに落ちていたかのように、「見つけた」と言って指揮者に返します?

 「おこられないか、どきどきしたけど」という一文はあるものの、罪の意識や良心の呵責はほとんど感じてない様子。これはリサとガスパールお得意のいたずらの範疇かもしれませんが、子供の読み物として果たしてこの展開は許されるのか?と、かなりショックでありました。朗読ボランティアのネタ探しで、「かさじぞう」や「ももたろう」「はなさかじいさん」など、日本の昔話ばかり読んでいたせいでしょうか。

 これがもし日本の絵本だったら、「楽譜がたくさんあったので、1枚くらいいいかなと思って、もらってしまいました。ごめんなさい。」と指揮者に謝って楽譜を返し、「正直に話したから、今回は許してあげましょう。でも人が困ることは、もうしないようにしましょうね。」と指揮者に許してもらった二人は反省し、天井桟敷席に戻ってお行儀よくオペラを見学しました、チャンチャン、という展開になりそうです。でないと課題図書のシールは貼ってもらえそうにありません。
 ・・・でもこれはこれで説教じみて、ちょっといやな絵本ではありますね。

 そこでふと気付きました。これ、大人の世界ではよく使う言い逃れだな。仕事ではこんなことしょっちゅう言ってるなと。それでも「正直者は報われる」「嘘をついてはいけない」という考え方が根底に流れる昔話などを読み、幼少期を過ごした身としては、仮にうまく言い逃れできたとしても、良心がちくっと痛むわけです。
 
 子供の頃は「嘘をつくな」と教えられ、大人になれば「嘘も方便」へと方向転換を余儀なくされ、そこに違和感を感じたり、良心の呵責に苦しんだりする大人を量産するくらいなら、幼少期に道徳的な絵本を読ませるのはどうしたものか。リサとガスパールのように、最初から現実を見せておくのも手かもしれないと思ったりいたします。

 もうちょっと図太く生きてもいいんじゃない?人を深く傷つけるわけでなければ、うまく言い逃れればいいし、それで良心の呵責に苦しんだり、人の顔色を気にしすぎることもないんじゃない?しれっと生きたらいいんだよと、一読後は衝撃を受けたものの、勇気と元気をいただきました。

 これはきっと、大人の絵本。 
 仕事始めでちょっとブルーな日本のみなさん、こんな絵本はいかがでしょうか?

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みのむし庵主の1K日記
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