「しょうがない」の国
※日本国全体のことではありません。念のため。
その国の住人は誰もが「しょうがない、それはしょうがない」としか言わない。
わたしは数年前にこの国に移住してきた。もうすぐ丸3年だ。
移住したての頃はまだ良かった。自分にはこの国のルールというものを覚えなければならない。覚えることが山ほどあるのだから、まずはそこから始めなければならなかった。
家を、他の住人に迷惑にならない程度に自分の都合の良いようにリノベする。少しずつ家にモノが増える。
そうするうちに、国のルールも覚える。
そこまでは良かった。
国のルールを覚えると、だんだんとボロも見えてくる。
主に、他の国との折衝においてである。
この国は独立国家のはずだが、その国に隷属しているに等しかった。
その国から渡される仕事は、それはそれは無茶振りの嵐であった。
この国とその国は言語圏を同じくしている。よって、書面でのやりとりも同じ言語を使わなければならない。
しかし、その国の人はその言語を使わない。
正確に言えば、満足に扱えない。その程度の知能しか持ち合わせていない『大国』であった。
大国であれば当然、知能的に貧困な層も存在する。そんな層の人間を他国の折衝役にしていた。相手が隷属国ゆえに。
「それはしょうがない」
この国のルールをわたしに教え込んだ人はそう言う。
「この言語を満足に書けやしないことに腹は立たないんですね?」
わたしはそう返した。
「しょうがないよ、担当はこの人だもん」
答えになっていなかった。
言語を満足に扱えないだけではない。書面の内容もあからさまに間違いだらけであった。これでは、その国からこの国へ渡される仕事の内容すら判然としないのだ。
金銭交渉も当然、曖昧になっていた。
「じゃあ何が納得いかないの?」
しょうがない、しょうがない、流すしかない。
『しょうがないと流すことが正しい。でも、曖昧に渡される仕事が正しくできないのなら、この国のせい』
それが、この国の暗黙かつ、最大のルールだった。
何が原因で仕事が正しくできない状態にあるのか、誰も追求しようとはしない。
「しょうがない」ことだから。
わたしは納得いかなかった。
その国の人に書面は正しく書くよう改善要求をしようとした。止められた。
なぜ、その国の人は自国の間違いすらも認めようとせず、胡座をかいているのか。そう、この国の偉い人に問うた。そういうことは言わないようにと、注意された。
そのうちに、わたしは「納得がいかない人」と非難されるようになった。
近いうちにでもこの国の人に殺されるかもしれない、わたしは怯えるようになった。
「しょうがない」と言わなければ、この国では生きていかれない。
何が一体「しょうがない」のか理解できず、よって「しょうがない」と口に出すこともできないわたしには、この国で生きる術はもはや残されていない。
しょうがない
ああしょうがない
しょうがない
この言葉で自己を洗脳し、麻痺させるくらいしか。
わたしにはもう何もない。
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