コンパクトなDTM環境
最近は制作スペースをコンパクトにしたいユーザーが多い。コンパクトさを追求すると、極論「机とイス、パソコンと既存のフリーDAW・プラグイン」というミニマルな結論に至るが、まぁ、それで満足いく制作がかなうはずもなく。
かといって、アレもコレもと機材を導入していては、構築コストは青天井だ。今回は予算を抑えつつ、コンパクトで実用的な制作環境を実現するために、予算を絞るならココ!というポイントを紹介したい。
パソコン ★
一番お金をかけるべき必須デバイス。
推奨スペックは以下参照。
OS
MacはProやStudioなどの高価格帯モデルや一部の人気モデルを除き、OSのサポート期間が非常に短い。サポートを終えたOSでは、バグやDAWを最新バージョンにできない等のトラブルが発生しやすい。となると、最新OSに対応するパソコンに頻繁に買い替えなければならなくなる。
また、Macマシンはグラフィックがハイスペックなものが多く、DTMにはあまり要求されないため不向きと言える。というわけで、OSのサポート期間が長く、DTMに最適なスペックの選択肢が豊富なWindowsを推す。
CPU
技術進歩により、ソフトウェアが要求するスペックは上がってきているため、現状だと最低でもi7搭載モデルが安牌と言える。
メモリ
プロでも「メモリ16GBしかないっす」という知り合いもいるので一概には言えないが、最低でも32GBのメモリがあれば、頻繁にクラッシュすることは避けられるだろう。
SSD
HDDより通信速度が速く、最近は予算もほぼ変わらないし、保存媒体は基本的にSSDでよい。
内蔵SSDはプラグインなどのソフトウェア用、外付SSDはライブラリ用に利用する。DAWやプラグインの一部は、内蔵SSDの空き容量をメモリに見立てて動作するものもあるため、別々に容量を用意してあげることが望ましい。
DTMでは〇GBをあっという間に使うことが多いので、予算に合わせて減量・増量する場合は、〇TB単位でカスタムすることをおすすめする。
DAW
正直慣れれば何でもいいのだが、推薦OSの都合上、Logic以外であればなんでもよい、という回答になる。予算がなければ、昔書いた初心者向けの記事を参考にしてもらいつつ、Reaperを使ってみてもいいんじゃないかな。
インターフェース ★
制作の品質に直結する部分なので、パソコンの次に必須、かつお金をかけていいデバイス。おすすめは以下のモデル。
名機とうたわれるコンソール卓を開発した英メーカーの逸品。マイクプリとAD/DAコンバータの品質が非常に良い。キャラクターは高解像度かつウォームな印象。
言わずと知れた業界のデファクトスタンダード。インターフェイスにはいずれもミキサーソフトが付属するが、RME製品に付属するTotalmixは優秀だ。とっつき辛い見た目をしているが、慣れると極めて自由度の高いルーティングを組むことができる。キャラクターは上記と比較すると、高域が鮮やかな印象。
ヘッドホン ★
必須アイテムだが人の好みに大きく左右されるデバイスなので、インターフェースやリファレンス音源をeイヤホンなどの専門店に持ち込み、いろいろ視聴して決めるといい。以下はあくまで自分おすすめになる。
筆者に「高いヘッドホン=いいもの」とは限らないことを教えてくれた開放型ヘッドホン。ぼってりした見た目が好みでなかったが、いざ聴いてみるとその性能におどろいた。
まず装着してみて感じたのは「側圧が強い」だった。しかしイヤーパッドが肉厚なベロアで、慣れてくると全く気にならなくなった。眼鏡をつけての長時間作業も特に問題なし、だ。
また、楕円型のイヤーカップの容量に余裕があり、耳の形を崩さない。これが影響しているのかは分からないが、ドライバとの距離が適切に保てるため、空間系の処理のチェックや、音場のイメージが非常にしやすい。
モニターヘッドホンは低域が控えめ、かつ開放型ならなおさらかと思ったのだが、低域も非常に聞き取りやすく、カラーリングのない自然な出音で、その他帯域とのバランスも良い。これが円安の今、3万台で入手できるのは感謝しかない。
モニタースピーカー
前回の記事でも触れたが、モニターはそこそこ制作スペースを消費するので、今回の要件的には基本的に不要と判断する。が、どうしても欲しければ、コンパクトモニターを、あくまでニアフィールド用として導入するのがいいだろう。スタンドはこの際使用してもしなくてもいい(使用せず机に直置きでチルトさせて使ってもよい)。
コンパクトモニターのおすすめは以下となる。
まだ視聴したことがないため憶測でしかコメントできないが、スペックから、今どきの制作環境や予算をかなり意識して作られていることがわかる。音質はもちろん、取り回しの良さについても期待できる。
「このサイズでしっかり低音がでるのか」と感動したコンパクトモニター。基本的にバランスよく鳴るが、相対的に中高域のクセが出ている感もあるので、その点を留意した上で「ないよりマシかな」という人向け。
MIDIキーボード
キーボード奏者は88鍵を購入するのが一般的。しかし、かなり場所を取るし、実際に88鍵使う曲って意外と少ない、という点を考えると61鍵以下でもいいのでは、と思っている。
また、キーボードが弾けない人も、音色決めやリズムの入力では重宝するので、スペースに余裕があればミニ鍵盤を導入してもよいと考える。
ミニ鍵盤の鉄板。ミニマルなMIDIキーボードと言われたら、正直これ以外の選択肢がほぼ思いつかない。
micro KEYと比較するとパッドなどのコントローラが充実しており、リアルタイムでオートメーションを入力するのにも利用できる。
コントローラーはいるけど、パッドはいらないんだよなぁ、という人はKOMPLETE KONTROLがおすすめ。
本格的にピアノを弾くユーザーにはSL73をおすすめする。フルサイズ鍵盤なのでサイズは大きいが、88鍵ほどではない。ハンマリング機構も実装されており、打鍵感が実際のピアノに近い。
備品類
以下はコンパクトな制作デスクを作る時に便利だと感じたおすすめ商品になる。必要に応じて導入を検討するとよい。
デスク脇にクランプして使用するノートPCホルダー。現場にPCを持ち運ぶ人などは、帰宅したらここにセット。メインモニターのHDMI、Bluetoothキーボードマウスを接続すれば、デスクトップ的な使い方ができる。
クランプ型のキーボードスライダーは、値段の割に不安定なものが多いのだが、こちらは非常に安定感がある。88鍵はさすがに無理だが、小型のMIDIキーボードや機材なら設置できる。
安価でしっかりとしたつくりの昇降デスク。配線収納とケーブルホルダーが標準装備なのもありがたい。
余談だが、昇降デスクのメリットを活かしたセッティングをひとつご紹介しよう。既述のSL73のような、少し大きめの機材を設置する場合、先のようなキーボードスライダーでは対応が難しい。
そんな時は「昇降デスク+キャスター付デスク」で対応するとよい。昇降デスクを少し高めの高さにして、キャスター付デスクにキーボードなどの機材を乗せるのだ。それを昇降デスクの下に収めれば、省スペースかつ快適に利用できる。
幅広のキーボードスライダーを標準搭載したデスクは、手ごろな値段でなかなか見つけづらい。これぞ低コスト、省スペース、大容量収納を実現できる、うってつけの方法だ。
まとめ
予算やコンパクトさ、使いやすさや制作品質はトレードオフになりがちだが、自身の状況に合わせて、今回紹介した機材にコストを絞れば、コンパクトで快適、かつ高品質な制作が可能なスペースを実現できるだろう。
その他ご指摘や、読者の方の制作環境やこだわりポイント、テクニックなどがあれば、ぜひコメントで教えていただけると嬉しい。