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2回目の出荷の話
この日は曇り空。
どんよりとした空気が漂っていたが、気温は低く涼しい日だ。
今日はこの牧場に来て2回目の出荷日だ。今回出荷するのはマトン二体とラム一体。どちらも大きく丸く成長してくれた。
ラムには90番の耳標がついている。いつも餌をやる時に寄ってきて、よく一緒に遊んだものだ。
出荷前日にこの3体は同じクリープにいれて管理していたのだが、どうもマトン二体と90番の相性が良くない。餌をやっても横取りされ、頭突きを喰らわされ、いじめられていた。マトンからすると、自分たちの縄張りに突然やってきたガキンチョが餌を横取りするんじゃねぇってところだろうか。見るに耐えなかったため、出荷ギリギリまで別々に管理することにした。
前回の初めての出荷時は、慣れないこともありトラブルの連続だった。マトンを上手くトラックまで誘導できず、その内の一体が羊舎の中を暴れに暴れ、2人がかりで押さえ込んでようやくトラックに積むことができた。初回は少々、感傷的になってしまっていたのも原因の一つだろう。今回は同じミスをしないように、対策をしっかり練った。
今回の誘導はビックリするぐらいスムーズに行えた。マトンが暴れることもなく、自らトラックに乗り込んでくれた。トラックに載せられた羊は普段と変わらない表情のままだ。自分たちが今から屠殺場に向かうなんて思ってもいないんじゃないだろうか。
最後に90番も積んで、出発の時間を待っていた。
すると、トラックからドンドンと音が鳴り響く。きっとマトンが90番をまた虐めているのだろう。だがここで何をしても彼らの運命は変わる事はない。彼らは今から屠殺され肉となる。
ひと段落すると、緊張が解けたような感覚を覚え、いろんな記憶を思い返す余裕も出てきた。マトンは人間に対してはあまり懐かなかったが、90番はとても人懐っこい性格だった。寂しい気持ちもあったが、前回ほどではない。少しずつだが、仕事に慣れてきているのを実感した。
出発の時間になると突然、大雨が降り始めた。ここ最近で一番の大雨だ。雨の中トラックは出発した。三体の羊は鳴くこともなく、静かに出発した。
このノートは一人前の羊飼いを目指す見習いの日記。
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それでは今日も良い一日を。